メディアグランプリ

「水族館のイルカ」が海を目指すまでの経緯


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:Yuko Tsubai(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
新型コロナウイルス感染症の影響で、本業がしばらくの間、完全テレワークとなることが決まったのは、3月下旬のある日のことだった。持っている案件も進めることができなくなり、先行きは見えない。当時、外出自粛が呼びかけられる前のことではあったが、SNSやニュースで目にする諸外国の状況を踏まえ、プライベートの予定は飛ばした。
時間ができてヒマだと思ったわたしは、その前の週の京都旅行(今思えば、なんて浅はかな行動だったかと呆れるが)で立ち寄った変わった書店のセミナーを思い出した。ライティング・ゼミ。今後、仕事でも文章を書く事が多くなる。自分のスキルを高めるため、ひいては自分の給料をあげるために、というもっともらしい理由で受講を決めた。
 
そして、第一回の講義を受け、いざ一つ記事を書こうとパソコンを立ち上げた。ライティングのコツとなる文章構造は講義の中でイメージをつかんでいる。あとは、その構造に自分の言葉をのせるだけだ。
 
だが、何も、でてこないのだ。「自分の言葉」が。
 
正直、タカをくくっていた。学生時代も、社会人になってしばらくになる今までも、苦労らしい苦労をあまりしてこなかったと思う。中学までは成績上位の「優等生」、高校は地元の有力校に行き、成績は振るわないが、部活動での振る舞いで、周囲の大人の評価を得た。大学も、就職先も、いわゆる「地頭」がいい枠として、人よりチャンスをもらっていたと思う。それに、学問することは嫌いでなかったし、特に文学・歴史などは得意だとこれまで思ってきた。だから、ライティングも、コツがわかれば書けるようになるだろうと思っていたのだ。
 
でも、書けないのだ。「語りたい目的」が何もないから。
 
日常のどこかで、ふと感じた感情の揺れ動きはあった。「部屋のミニブーケは、心を安らがせてくれる。まるで愛する人々とのたわいもない会話のようだ」だとか、「ゲランの香水は、意識と行動をアップデートさせてくれる『スマートウォッチ』のような存在だ」などといった具合に。でもそれは、あくまでささいな気づきであり、2000文字を埋めるような話題ではない。せいぜいツイッターかインスタグラムに、写真と一緒に上げる程度のざわつきなのだ。
 
いま、混乱に満ちた世界の中で、現状に問題意識を持ち、解決を模索する人たちは、それぞれの意見や想いを形にしている。これまでの日常では、そのような行動を起こさなかった人々であっても、様々なムーブメントを起こしているというのに。こんな局面であっても、わたしは何の「想い」も持っていない。この事実を、やっと自覚したのだ。
 
とはいえ、これまで何もしてこなかったわけでない。おそらくボランティアや寄付といったことはしてきた方だ。社会に対するアンテナも高く持ちたいと思い、多様な媒体から人々の取り組みを見ていた。できるだけ、なにかに貢献したい、と思って。
 
でも、それはただ「誰かが与えてくれる」思いやムーブメントに乗っかっていただけなのだ。
自分で思考して、実感を得て、表現したものではない。与えてもらったものを自分が作り出した「思い」だと勘違いして、パフォーマンスをしていただけなのだ。
 
そして、自身への問答の中で気づいた。わたしはまるで、「水族館のイルカ」だ。
 
大海を知らず、与えられた餌とパフォーマンスと引き換えの称賛、そしてそれに味を占めて、明日もまた同じことを繰り返す。もしかしたら、自分のことを「他(の動物)より賢い」と思っているかもしれない。自分が見世物である自覚なく、同じ日常を永遠と繰り返している。(わたしもイルカのような「見世物」と思われているかどうかは、周囲の人々のみぞ知ることだが。)
 
「語れない」ことに対する問答の中で、自分の「語れるもの」ができてしまった。皮肉だ。やっと、オリジナルの想いができたのだから、これをテーマにすることにした。自分語りで恥ずかしいことにはなるが、いまのわたしにはこれしかない。ヤケだ、書こう。
そうしてわたしは、この記事を書く事にした。
 
さて、この記事はもうそろそろ終わりになるが、わたしの人生はここで終わりというわけにはいかない。海の存在を知った「水族館のイルカ」がどう行動するか、実際のところは知らない。ただ、「わたし」というイルカは決めた。
 
与えられる餌やパフォーマンスに頼り切る日常は、やめよう。
消費するだけではなく、みずから餌を狩りに行こう。
そして、大きな海をのびのびと自由に泳ぎ回ろう。
 
水族館の保護された環境ではない、ときには障害に行く手を阻まれることもあるだろう。でも、今まで知らなかった新たなものと出会えるはずだ。
 
窓という「ガラス」に囲まれた部屋の片隅から、次のステップに進む決意をした。疫病の不安から解き放たれた世間がやってくることを祈りつつ、イルカは水槽から抜け出すため、ジャンプの練習に勤しむのだ。
 
 
 
 
***
 
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2020-04-25 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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