舞台は麻薬
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:湯本 亜希子(ライティング・ゼミ日曜コース)
徐々に明かりが落ちていき劇場内は漆黒の闇に包まれる。
やがて幕が上がると、舞台はまばゆいばかりの照明に照らされて観客の前に浮かび上がる。
夢の舞台の始まりです。
私たち観客に魔法がかけられます。
私の母は昔、舞台女優になりたかったそうです。
子どもの頃、よく映画を観ていたようで、片道30分をかけて映画館に通っていたとのことでした。
当時は上映が3本立てです。映画のチケット代金がいくらだったか忘れてしまったようですが、ラーメン1杯35円の時代でした。
やがて映画好きが長じて、母は劇団ひまわりに所属してレッスンを受けるようになりました。
「通行人で良いから(映画に)出たい!」と劇団側に伝えたところ、どうせやるなら主演を狙え、と先生に叱られたようです。
そのような温度差もあり、劇団を辞めて女優への道を断念しました。大学に進学し、普通に就職して結婚をして三児の母になりました。
母に連れられて、私も子どもの頃からミュージカル仕立ての人形劇や映画を観に行きました。
「人魚姫」や「ピーター・パン」など有名な童話を原作にした人形劇観劇を特に楽しみにしていました。
私が中学生になると、母は演劇の舞台にも連れて行ってくれて、宮沢賢治の作品をよく観ました。
しかし、私はお芝居だけの演劇作品より、ダンスや歌のあるバレエ作品やミュージカルの方が好きでした。
また、映画にはまり、高校時代は英語字幕の翻訳家になりたいということもあり、洋画をたくさん観ました。
映画鑑賞の方が観劇よりリーズナブルということもあり、私はすっかり舞台から離れてしまいました。
転機は大学受験の合格です。
合格のお祝いに両親が私にシルヴィ・ギエム主演のバレエ観劇をプレゼントとしてくれました。
前から2番目のとても素晴らしい席でした。
ギエムは100年に1人の天才的プリマ・バレリーナと言われ、その超絶技巧には誰もが息を飲みます。そのギエムを至近距離で存分に鑑賞できたので、インパクトや感動は計り知れないものとなりました。
それからはバレエ観劇の虜です。
学生時代のバイト代や奨学金をほぼ日本舞台芸術振興会が主催するバレエ観劇につぎ込みました。
上野公園の東京文化会館や代々木公園のNHKホール、渋谷のオーチャードホールにはよくバレエを観に通いました。
バレエの本場、ロシアへも行き、王朝文化の香る豪華絢爛な大劇場でバレエ観劇をしました。
もっと観たい!もっと!!
社会人になってからは、バレエに加えて、ミュージカルや歌舞伎の観劇にもお給料をほとんどつぎ込んでいました。
特に、歌舞伎役者、市川新之助の海老蔵(現十一代目市川海老蔵)襲名公演では、東京公演だけでなく、地方公演にも遠征しました。
名古屋の御園座に大阪の松竹座、京都の南座。
交通費やホテル代も馬鹿になりませんが、自己資金が続く限り、すべての襲名披露公演の演目を観るつもりでした。
そして、九州の博多座公演でとうとう私の資金は尽きてしまいました。
通帳の残高は3ケタになってしまい、泣く泣く観劇を打ち切りました。
あれから10年以上、経ちました。
今でも観劇には行きますが、当時の熱量はありません。破産同然となるまで観劇を続けたあの熱情は何だったのか。
さらに、自分でも驚いているのが、今や自分が小劇場で舞台やショーをプロデュースするようになったことです。一昨年から朗読やダンスで作品に出演するようにもなりました。
自分で会場を借りて公演プログラムの計画・運営を行うようになり、舞台芸術を作り上げる大変さを身に染みて味わうようになりました。
特にプロモーションと集客が大変です。
プロモーションの方法は自己流であるし、作品のイメージに合う出演者を選定する場合、必ずしも集客力のある出演者でないこともあります。
自分の美学というか、こだわりとして、出演の条件で出演者にチケットを売りさばくようにノルマを課すことは嫌でした。
プロモーションが成功して満席になったとしても、自分が納得のいく舞台の水準にするために、赤字になることも多々ありました。
製作者として、出演者として舞台作りを経験するようになって、ただただ舞台を観て消費するのではなく、隅々までチェックをするようになりました。
舞台上のパフォーマンスだけでなく、照明・音響の具合やスタッフの対応、劇場の空調管理、チラシデザインにも目がいくようになりました。
これらをまとめ上げる製作者や舞台監督の苦労は並大抵のものではありません。
ひとつの舞台を作り上げるために、たくさんの人たちのエネルギーと情熱が交錯し、結晶化します。
素晴らしい舞台作品では観客がキラキラとしたこの結晶を受け取り、観客側のエネルギーもまた舞台上の人たちに伝わります。
麻薬のように抜け出すことができず、次から次へと私を舞台に誘ったものの正体は、このエネルギーと情熱の結晶体だったのではないかと思っています。
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