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メディアグランプリ

風を描くペン


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:渡辺悠香(ライティング・ゼミ通信限定コース)
 
 
文房具コーナーの少し奥、ガラスのショーケースの中にそれはある。
繊細な道具であるため、まっさらな状態で展示してある店は少ないだろう。
 
ガラスペン。
 
ジェントルな雰囲気の万年筆やボールペンとともにガラスの囲いで守られた世界の中、少し異彩を放つこのペンは、息をひそめて持ち主との出会いをじっと待っている。
職人の魂がこもった一点ものであり、同じものは2つとして存在しない。
触れてみるまで相性はわからない。
 
ガラスペンの主な用途は書字。
万年筆や羽ペンのように、ペン先にインクを浸し描線する。
その名の通り、素材はガラス。
衝撃や圧力には弱く、扱いを誤ると簡単に割れる。
適切な力加減、安全な場所、丁寧な扱い。
注意することが多く、とても手軽とは言えない。
だが丁寧に丁寧に向き合った時、このペンは独特な雰囲気を描き出す。
それはまるで、書道家が筆跡で支配した空白のような。
華道家が草花の個性で空間を創り出すような。
 
何本もの溝がすっと刻まれた独特なペン先。
「ガラスペン」と検索すると、魔法の杖のような不思議な形からシンプルな形、デザインも配色も実に多彩な姿をみることができる。
柄の部分に細工が施してあるものもあり、唯一無二のガラス細工であることをはっきりと認識する。
ハイカラな見た目は異国情緒を感じさせるが、実は日本生まれのペンである。
 
1900年頃、このペンを発案したのは、日本の風鈴職人であったという。
見た目の美しさだけでなく、心地よい書き心地、インク持ちの良さなどの機能性が評価され、世界中に広まったそうだ。
 
書き心地はサラサラとしていて、ペン先の突っかかりが少ない。ボールペンや鉛筆ほど紙との摩擦を感じない。
インク持ちは非常に良く、一度インクを浸けるとハガキ1枚分も持つそうだ。
 
字を書くための道具ではあるが、イラストを描くことにも使うことができる。
個人的にはGペンや丸ペンの倍はインク持ちが良いと感じた。
描線の太さはGペンほど自由が利かないが、線の濃淡は筆圧やインクの量である程度表現することができる。
 
ガラスペンの魅力はペンだけに留まらない。
掛け合わせて使うインクも多彩だ。
 
ガラスペンを使うには染料性インク(いわゆる水性インク)が適しているのだが、このインクの世界もかなり渋い。
例えばPILOTの万年筆インク「色彩雫(iroshizuku)」シリーズは、全24色に日本の美しい情景をモチーフにした名前が付けられている。「月夜」「深海」「山葡萄」「冬柿」など、名前を見るだけで季節や情景がぱっと浮かぶ印象的な名前だ。
しかも、思い浮かぶ情景はどれも美しい。
SAILORの全20色で構成される「四季織(SHIKIORI)」シリーズも、日本の四季をテーマとしている。こちらも名前が「蒼天」「時雨」「金木犀」「仲秋」など、四季折々の美しい日本の風景を彷彿とさせる。
どちらのシリーズも同系色の中で微妙に色味が異なり、表現の奥行をそっと広げる。
意識して探さなければ見逃してしまうほどの繊細な違いが、奥ゆかしい。
 
日本生まれのガラスペンと、日本の情景をモチーフにした個性的なインク。
お互いがお互いを引き立て合う伴侶のような関係を感じずにはいられない。
 
たった1本だけでも圧倒的な存在感を持つガラスペンだが、少し背伸びをすれば手が届くという距離感も魅力である。
少し安価なものでは1000円以下というものもあるようだが、3000~5000円ほど出すと見た目も機能性も備えた1本が手に入る。それ以上の価格となると、美しい見た目はもはや道具の範疇に収まらず、芸術品としての側面も強くなる。
文房具屋や雑貨屋で入手することができるが、必ずしも置いてあるわけではない。
この遭遇率の低さと一店舗で出会えるサンプルの少なさが、唯一しんどい。
探す前に店員さんに取り扱っているかどうかを尋ねてしまうのが得策だ。
もちろん通販でも購入できるが、最初の1本を選ぶなら直接お店へ出向き、持った時の感触や重さなどを吟味した方が良いだろう。
ペンも人間も一点ものである。
こればかりは相性になるから、実際の邂逅で得られる情報が一番信じられるはずだ。
 
インクの方は、万年筆が置いてあるお店であればその近くで入手できることが多い。
上のシリーズの場合はどちらもミニボトルがあり、500円も出せば1色は手に入るし、1000円出せば2~3色を試すことができる。
インクも出来るだけ実際の店舗で色見本やボトルを見て買った方が良い。
絵画の繊細な色づかいが画面やフィルターを通すと色褪せてしまうように、メディアで見たものと実際の色はどうしても異なってしまうためだ。
 
世界で一人だけの自分の手に、世界でひとつだけのペン。
 
自分の書く変な形の字も、拙い描線も、他に存在しないこの組み合わせだから、いつもより好きになれる。
 
個性的な見た目だけで終わらせない。
優しく爽やかな風鈴の音が、侘び寂びの色をまとって紙面を漂う。
なんともロマンチックなペンである。
 
 
 
 
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2020-05-02 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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