メディアグランプリ

吉本新喜劇がおしえてくれたサバイバル時代の幸福について


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記事:田口純美(ライティング・ゼミ通信限定コース)
 
 
「おかあさん、これおもしろいから、次のとき録画しといて」
 
今年八歳になる長女。コロナウイルスの長い休日の最中に彼女がはまったのは、吉本新喜劇だった。ベタなやつにはまったなあと思いながらも、私も娘とソファに並んで座って、吉本新喜劇を見る。何も期待せずに見ていたが、いつの間にかすっかり引き込まれてしまい、大笑いして、見終わったときには爽快感こそ感じていた。
 
コロナウイルスのおかげで、子供たちは二十四時間家にいる。そのため母業は、通常より忙しい。毎日、朝ごはんを作り、昼ごはんを作り、夜ごはんを作る。買い物に行く回数を減らすために、数日分の献立を考え買い物リストを作る。留守番をさせる不安を感じながら、買い物に出かける。まとめ買いは時間がかかるし、荷物が重い。指もビニール袋もちぎれそうだ。家に帰ると、子供たちはテレビを見ている。無事を安心する一方、テレビばかり見ていることが気がかりになる。テレビは〇時までね、と優しく言うも、子供たちは一度で従うはずもなく、険悪な空気が広がる。しぶしぶ宿題を始めた子供たちの「おかあさん、これ何? どういうこと?」質問にはヒントを出して問題を解かせる。集中力がなく宿題からすぐ離れてしまうので、そばで見守らなければならない。小さなことで子供同士のけんかが始まり、ふと目を離すと部屋におもちゃや折り紙や色ペンが猛烈に散らかっている。ごはんを作るか、片付けをするか。はあ。今日だけでも何度ため息ついただろう。まだまだ家事は終わらない。自分だけの静かな時間は全くない。これはこのところの私のことであり、世界中の今のお母さんのことである。ラジオから聞こえてきたフランスに住む母親と子供とロックダウンの話も、私の経験と寸分も違わなかった。小さい子供を持つ親は、時間に比例してストレスがたまっていく。
 
以前、NHKで「ママたちが非常事態」という特番があり、人間は、集団で共同養育することで、繁栄してきたと言っていた。親子だけの空間で過ごしていれば、私の頭がおかしくなりそうな気がするのも当然。私や子供たちの性格や相性の問題ではなく、脳みそのレベルですでに無理なのだ。
 
ああもう、私がまいってしまう。とにかく、私が苦しくならず、子供たちがつらくならず、毎日笑って過ごすにはどうすればいいのか。
 
コロナのせいで、予定していた仕事もとりやめになった。子供を残して長時間の外出はできないし、コロナに感染したら、母子三人暮らしの我が家は立ち行かなくなる。コロナのせいで、子供のせいで。私の頭の中は方向転換ばかり余儀なくされている。
 
だめだ。自分の思い通りにならなかった思い出したくない過去が、心にしまい込んだ箱から飛び出してきて、よりいっそう暗い気持ちになる。勉強に身が入らずに諦めた第一志望の高校受験。大学受験もやる気にならず、ほとんど勉強することなく推薦入試で進学。新卒で入社した会社も、自分の仕事に対する情熱を燃やしきれず退職。結婚して子供を持って、子育てと仕事を両立しようともがくも、子供を預けながらする仕事の中途半端さに耐えきれず転職。フリーランスでは稼げない現実の前に、今は扶養範囲内から抜け出すことができない。中途半端な私の人生。
 
悶々とそんなことを考えていたら、娘が偶然吉本新喜劇を見始めたのだった。
はちゃめちゃだけれども予想どおりの安心の展開。笑わせるぞという気持ちの芸人さんが、次々出てきて、笑いが波のように押し寄せてくる。娘があまりにも大笑いしているので、連られてぼんやりとテレビ画面を眺めはじめただけなのに、気がつくと夢中になって、娘とふたりでずっと笑っていた。病気の恐怖、仕事の再活動の目途がたたない恐怖、子供を守れるのか確信のできない恐怖。そんなふわふわした恐怖をしばし忘れて、安心して笑えることに、娘の笑顔がおしえてくれた。
 
結局、ないものねだりばかりだから、満たされないのだ。
 
潮時だ。そろそろいい加減に認めるしかない。今の自分を受け入れるしかないのだ。
身動きできない今ならば、家のテレビで吉本新喜劇見て大笑いし、子供の遊びにつきあって成長を喜べばいい。子供と新しい楽しみを見つければいい。明日死ぬかもしれないサバイバル時代の幸福とは何?目の前にある幸せを大事にすることが優先だ。今、自分の手の中にある幸福を見つめろよ、私。友達もいるし、子供もいる。派手でなくとも、大成しなくとも、当初の目標には届かなくても、ささやかな幸せは身近に咲いている。
 
これまたNHKの番組で見たのだが、好きな人と抱き合ったり触れ合ったり、好きな人と話をしたり声を聴いたりすると、幸福感をもたらすオキシトシンというホルモンが分泌される。赤ん坊に母乳を与えると母体で分泌されるホルモンとして有名だが、これがストレスを軽減するという。普段より格段に親子で過ごす時間がある今、この私の腕で娘たちを、そして今この瞬間をぎゅっと抱きしめようと思う。
 
 
 
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2020-05-02 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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