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いつのまにかアンガーにマネジメントされていた話


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:新明 文 (ライティング・ゼミ通信限定コース)
 
 
「あ~、またやってしまった」
すやすやと寝ている子どもの寝顔を見ながらつぶやいた。
 
今日も一日仕事で忙しかった。上司に無理を言われ、やらなくていい仕事までやって、遅くなった。一日中パソコンに向かっていたので肩こりもひどい。
 
家に帰ると、食べ終わったお菓子の袋や脱ぎっぱなしの服で部屋は散らかっていた。歩くと足の裏に砂がついて、気持ち悪い。公園であそんだ子どもの靴下から落ちた砂だ。外は暗くなり始めているのに、洗濯物は干しっぱなし。キッチンのシンクには朝ご飯の食器が山積みになっている。
 
そして兄弟喧嘩が始まった。意味のないトレーディングカードを取り合いしている。
「はぁ、うるさいなぁ…」
弟が走ってきた。
「ママー!!!!! お兄ちゃんが僕のカードを返してくれない!」
私の足に絡みつく。
 
「う、うるさぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!!!!!!! 誰のために朝から晩まで働いていると思っているんじゃぁ!!! そんなカード捨てるぞ!!」
 
弟は泣きながらダイニングテーブルの下に潜り込む。
かわいそうに思いながらも、気持ちを抑えることができない。もう少しで手が出そうになった。
 
夜、すべての家事が終わった後、子どもの寝顔を見ながらいつも後悔する。あんなに怒ることなかったな、と。毎日それの繰り返しだ。
 
ふと、昔テレビでみたスポーツ選手のことを思い出した。
 
あるスポーツ選手がタクシー運転手に暴行した事件を覚えているだろうか。五輪で主将を務めた有名なサッカー選手だ。事件の後、そのサッカー選手は謹慎に追い込まれた。
謹慎後、あるテレビ番組で、そのスポーツ選手が無表情な顔でたんたんと話していた。
 
「怒りを感じたら6秒待ってみてください。怒りのピークは6秒なので、6秒待つことで理性を取り戻すことができます」
 
本当に6秒で理性を取り戻すことができるのかな、絶対、無理やわ。まず、怒っているときは頭に血がのぼっているから、6秒ルールを思い出すことができない。そんなことでイライラから解放されるなら苦労せんわ、と思った。
 
実際にイライラした時、6秒ルールは思い出せなかった。
しかし、怒っている主人をみて、6秒ルールを思い出した。
そして怒っている主人に言った。
 
「6秒かぞえてごらん」
 
「はぁ!?」
 
やはり、怒りが増すだけであった。
 
そして、朝は穏やかでも、夜には怒りのタンクが満杯になり、爆発する日々が変わらず続いた。
 
ある日、お昼ごはんを食べながらフリーペーパーを読んでいた。
「イライラ脱出法 ~怒りと上手に向き合う方法、教えます~」と書いてあった。
 
「あー、あの6秒待つやつやろ、知ってる、知ってる、全く効果なし!」
と思った。
ページをめくる。何気なく読む。暇つぶしだ。
 
「実はイライラモヤモヤは不安や悲しみ、苦しみ、痛みなどさまざまな気持ちを消化しきれないときに起こってしまう“第二次感情”。その裏にはもっと違う感情が潜んでいるものなのです」と書いてあった。
 
怒りは「第二次感情」?
 
喜怒哀楽という言葉がある。喜び・怒り・悲しみ・楽しみの人間の4感情だ。
第二次ということはつまり、怒りの後ろに悲しみがある? 悲しみが怒りになる? ということは、喜怒哀楽は「喜(怒)哀楽」になってしまうじゃないか。
いつも怒っている私は、「怒り」を正当な感情として認めていないことに腹が立った。
 
でも、先日怒った時を思い出してみた。カードを取り合いして喧嘩している兄弟に罵声を浴びせた時のことだ。
 
私は、仕事で疲れて、肩が痛かった。散らかっている部屋をみて悲しかった。仕事も家事も頑張っているのに報われず虚しかった。その感情を「怒り」で表現した。
 
「なるほど」と思った。
 
そうか、私は、本当は、痛くて、悲しくて、虚しかったんだ。怒っていたわけではない。怒っていたわけではないのに、怒りで表現しているから、息子たちには「怒り」しか伝わらない。
 
今度は次男(弟)の気持ちを考えてみた。
お兄ちゃんにカードを取られて悲しかった。お母さんに助けてほしかった。辛いことを伝えたかっただけなのにお母さんは何故か怒っている。そしてもっと辛くなった。
 
想像すると、次男に申し訳なく思った。私がなぜ怒っているのか、彼は分からなかっただろう。私が気持ちを伝えていないからだ。「怒り」は様々な感情を隠している。4歳の子どもには説明しないと到底わからない。
 
私はあの時、こう言うときっとよかった。
「ママは今疲れている。仕事がたくさんあって悲しい。あなたもお兄ちゃんにカードをとられて悲しかったね。でも、少しでいいから手伝ってくれると嬉しいな」
 
感情の表現の仕方を変えてみる。怒りに支配されるのではなく、感情をうまくコントロールして、気持ちを丁寧に伝える方法に変えてみる。相手は子どもだ。うまく伝わるときもあれば、伝わらないときもあるだろう。
 
でも、試す価値はある。
 
 
 
 
引用文献 NPO法人わははネット発行『おやこDEわはは vol.88』(2020年1月20日)
 
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2020-05-02 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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