メディアグランプリ

大人になった長女のサツキと末子のメイ


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:藤原 千恵(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
大人になってから観るジブリ作品は、幼い時とは別の観点で見てしまう人は多いと思う。
成長するにつれて、それぞれの作品で感動するポイントが変わってくる。
もう、私なんかが言わずとも素晴らしい作品ばかりなのだが、特に歳を重ねてから「となりのトトロ」を観ると涙腺崩壊してしまう。
 
幼い時は、トトロや真っ黒くろすけが登場するのはまだかまだかと、その場面ばかり楽しみにしていたが、今はサツキ(長女:しっかり者)やメイ(末っ子:自由気まま)の姉妹の関係性にじんわりと胸を打たれる。
 
私は2人姉妹の長女、だからわかってしまうのだ、サツキの気持ちが。
 
——
 
私がまだ幼稚園生の頃、父が出張の日の夜は、母と妹と3人で近くのスーパー銭湯のようなところに行くのがとても楽しみだった。
そこはお風呂が沢山あって、様々な種類のお風呂(ワイン風呂とか柚子風呂、でんき風呂、暑いサウナの隣にある水風呂、熱めとぬるめのお風呂)、四方八方からシャワーが出てくるカプセルのようなシャワーブースもあった。
 
シャワーで髪も体もきれいに洗って、いろんなお風呂に満遍なく入るのが「おとな」のような気がしていて、私はのぼせそうになりながらゆっくりと入った。
2歳下の妹は、もちろん長くお風呂に入れずに、早く上がろうとしきりに言っていた。
 
そしてもう1つの楽しみは、お風呂から上がった後にアイスクリームを買ってもらえることだった。
銭湯の売店でアイスを買うとき、いつも母が買ってくれるのに、その時はなぜか母が近くにおらず、私にお財布を託して買い物をさせた。
いや、させたではなく、私がしたいと言ったのかもしれない。
その当時のアイスは1つ100円もしなかったはずだから、妹の分と合わせても200円ほど。
お会計する時にどのお金を出していいかわからず、小さいお金の紙(1000円)を出せばいいのはなんとなくわかっていたが、焦っていてそれがどれかもわからずに、目についた紙幣を売店のおばちゃんに恐る恐る渡した。
それがどうやら1万円札だったようで、おばちゃんは「こんな小さい子にお財布を渡すなんて……」みたいなことを、呆れ顔でごにょごにょ言っていた。
 
私はとても恥ずかしくなり、顔が真っ赤になるのが自分でもわかった。そして俯きながらお釣りとアイスを受け取った。
 
「お財布を渡すお母さんは何も悪くない、どのお金かわからなかったのは私なのに」
そう思っていた。
 
妹は何もわかっていないから、嬉しそうにアイスを食べていたが、私はその言葉がずっとずっと忘れられなかった。
だがこんなに恥ずかしくがっかりしている様子をお母さんに勘付かれたくなくて、いつも通り明るく元気に振舞っていた。
 
あれから30年以上経つが、まだあの時の気持ちは忘れられない。
お姉ちゃんだからしっかりしなきゃという責任感と、お母さんは悪くないんだもん! というおばちゃんに対しての反抗心と、幼さ故に何もできない無力さ。
 
——
 
その時に感じた気持ちは、成長する上でどのくらい影響されているものだろうか、と考える。
長子、中間子、末子、一人っ子で、幼い時に感じることは違うように思う。
この銭湯のアイスの話を妹に話しても、全く覚えていないし、ましてやそんな気持ちになったこともない、と言う。
 
仕事人の父と、優しい母、自由気ままな妹と、しっかり者の(そうしなければいけないと思っていた)私。
どこにでもあるような家族構成で育った私の価値観は、もうこの頃から少しずつ育ってきたのだろう。
今思い返すと、となりのトトロの家族構成と似ている。やはり、長子はしっかり者になるのだろうか。
 
ある本に「長子は、ある事柄に対して自分がやるべきだと思っている、末子は、誰かがやってくれると思っている」と書いてあった。
この「~しなければいけない」という考え方は、自分で自分の首を絞めてしまう可能性があると知った。
 
銭湯のおばちゃんの「子どもに大きいお金を渡してはいけない」のような価値観だって、間違ってはいないが、その言葉で少しだけ傷付いた私がいる。
となりのトトロのサツキも、わがままななメイに怒ってしまい知らんぷりをし、その結果メイが迷子になってしまう。
きっとサツキは、「お姉ちゃんだからメイの面倒を見なくてはいけなかったのに」と自分を責めてしまったのだと思う。
 
あの頃の私に言ってあげたい、正義ばかりをふりかざしても、私もみんなも幸せとは限らないんだよ、と。
傷付いたり恥ずかしい思いをしたり、自分を責めてしまう気持ちは消えないが、その気持ちを少しでも自分自身で受け入れることができた時に「大人」になったんだなと実感する。
 
となりのトトロを見て号泣してしまう私は、やっぱり「大人」になったのだと思う。
 
 
 
 
***
 
この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」を受講した方が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。
 

★10月末まで10%OFF!【2022年12月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《土曜コース》」


 

天狼院書店「東京天狼院」 〒171-0022 東京都豊島区南池袋3-24-16 2F 東京天狼院への行き方詳細はこちら

天狼院書店「福岡天狼院」 〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階

天狼院書店「京都天狼院」2017.1.27 OPEN 〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5

天狼院書店「プレイアトレ土浦店」 〒300-0035 茨城県土浦市有明町1-30 プレイアトレ土浦2F

【天狼院書店へのお問い合わせ】

【天狼院公式Facebookページ】 天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。


2020-05-02 | Posted in メディアグランプリ, 記事

関連記事