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メディアグランプリ

未亡人のレジェンド


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:脇 美由紀(ライティング・ゼミ集中コース)
 
 

私は研修講師の仕事をしている。
研修のテーマは年金であることが多い。
仕事を始めてから15年ほど経つが、まだまだ、ひよっ子である。というのも、年金の講師には、大先輩が多くいるからだ。
その中で、一目を置かれる人、Nさんがいる。
1925(大正15)年生まれ、今年95歳である。
 
95歳というと、どのようなイメージを持つだろうか。
自分のお爺さんより、随分年上だし、そりゃ、年相応の感じだろうと思うかもしれない。
けれど、Nさんに会ったら驚くに違いない。
背筋はピンと伸びている。
歩くスピードは私より早い。
エスカレーターではなく階段を使う。
その階段は1段飛ばしで上がる。
そう、とてもパワフルなのである。
 
私が初めてNさんとお会いしたのは、Nさんが講師である研修を受講したときである。
研修会場に足を踏み入れると、教室一面に、模造紙が貼られていた。
パソコンのパワーポイントでもなく、ホワイトボードでもなく、模造紙だ。
模造紙には、板書代わりに、沢山の情報が書かれている。教室全面に20枚くらい貼ってある。
その模造紙の影響だろうか?教室内には、なにか得体の知れない大きなパワーがみなぎっていた。
手書きのものには、書き手の熱い思いがこもるのかもしれない。
研修が始まり「おはようございます」の第一声。
「声でかっ!」と、思わずビクッとしたことを覚えている。エネルギッシュな研修は、その勢いのまま、3時間続いた。
 
その日から、私はすっかりNさんのファンになった。
私にとっては、53歳現役のサッカーの三浦カズ選手や、スキージャンプで記録を伸ばし続ける葛西選手のような存在だった。年金界のレジェンドだ。
レジェンドの圧倒的なパフォーマンスは、沢山の人を救ってきた。
 
ある時、Nさんは、某金融機関の年金研修を行った。
その研修には、100名近い職員が参加した。
受講する職員は、ベテランから新人までいる。年金についての知識や経験はバラバラで、100人相手の研修を準備するのは、綿密な計画が必要だった。
100人クラスの研修を実行するのも、至難の業だ。
内容が難しすぎてもまずいし、簡単すぎてもまずい。
 
研修を行うだけでも大変なのに、休憩時間には女性職員に対して「ご主人は元気でいらっしゃいますか?」と声をかけていく。
男性職員ではなく、女性職員の声をかけるところは、Nさんらしい。
ある女性職員に声をかけたところ、夫が11年前に他界したこと、遺族年金はもらっていないことなどを話してきた。
夫が亡くなった原因や年金の加入状況を聞きとり、遺族年金がもらえる条件に当てはまることを突き止めた。そして、すぐさま役所に連絡をした。
結果的に、女性職員は遺族年金をもらうことができた。もらった遺族年金は1,100万円。「わが子の教育資金にします」と涙ながらに感謝されたという。
 
金融機関に研修に行き、ここまでする講師は、聞いたことがない。
なぜなら、求められている仕事は研修だけである。余計な仕事をする必要はない。言ってしまえば、研修分の報酬しかもらっていないのである。
けれどNさんにとっては、そんなこと、どうでもよいのだ。目の前にいる人のために動く、ただそれだけのことである。
 
他にもNさんのパフォーマンスは際立っている。
自称「未亡人の味方」として、他にも多くの遺族年金をもらっていない人を救っている。
また、老齢年金や障害年金をもらっていない多く人も救っている。
涙を流し感謝されたことは数知れない。
さらには、後輩の教育に力を注ぎ、しっかりと後進も育てている。
それでいて、自ら学ぶことも惜しまない。研修会には積極的に参加し、自らの知識をアップデートしている。私が講師をつとめる研修にも、受講生として何度もご参加いただいた。
つまり、多くの人を救い、遺憾なく、そのパワフルさを発揮してきたのである。
 
どこに居ても一目置かれる存在、なのに後輩思い(未亡人思い?)で、90歳を過ぎてなお、第一線で活躍しつつけてきたのは、もはや才能である。
 
このような原動力はどこから来るのだろうか。
実は、Nさんは、シベリアに抑留された経験がある。
シベリア抑留とは、歴史上の悲劇と言わる出来事だ。
終戦直後に、当時の満州国などに残っていた日本人ら約60万人が、ソ連の捕虜として、シベリアをはじめとするソ連各地に移送された。想像を絶する寒さ、重労働、劣悪な環境により多くの人が命を落としている。
Nさんは、終戦後の3年間、ソ連・極東のコムソモリスクに収容されていた。
コムソモリスクは特に過酷な収容所で、抑留者の約25%が亡くなったという。
「生きて故郷に帰れたら、人の役に立つ仕事をしたい」という熱い想いが、後の原動力になっていたのである。
 
そのNさんは、1年前に仕事を引退した。体力的に問題があったわけではなく、家族の介護のために一線を退くことにしたのだという。
そして、現在は、違う分野で活躍している。
それは、「シベリア抑留の体験者」としての語り部だ。
シベリア抑留時の、過酷な収容所生活だけではなく、出会った人の優しさなども語り継いでいる。目標は100歳まで頑張って、平和の尊さを伝えることだという。
 
Nさんにお会いすると元気をもらう、いや、魂を注入され、熱い想いがみなぎってくる。
それは私だけでなく、皆が感じるという。
 
新宿の平和祈念展示資料館に行けば会えますよ。
 
 
 
 
***
 
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2020-05-06 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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