メディアグランプリ

タコセンが繋ぐ幸せ


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記事:山下 梓(ライティング・ゼミ通信限定コース)
 
 
「一緒に暮らそう」
かつて少女だった私は、そんなセリフに憧れていたかもしれない。
少女マンガの王子か、アイドルのような人物と、もしかしたら付き合えるかもしれないと勘違いしていた時までは。
 
30代も半ばを過ぎ、バツイチになった私は、飲み友達だった彼に同居を提案された。
一緒に暮らす、生活する=結婚のような状態は、もはや私にとって、ロマンス的な意味は皆無になっていた。一般的にいう「性格の不一致」で離婚をした私は、世間的には甘いと言われるのかもしれない。しかし、誰かと共に生活をすることの難しさは、大半の人にとっても永遠のテーマではないだろうか。
 
結婚がトラウマになっていた私が、彼の提案を受け入れた事に、大した理由はない。
日曜日の夕方、一緒にご飯を食べる人が居るのも悪くない、と思ったからだ。
元々彼は料理が好きで、ホームパーティーなどでよく食事を振る舞ってくれていた。
いつもの飲み仲間は、日曜の夕方ともなれば、さすがに家族と過ごしている。
笑点のテーマが流れてくる頃、私と、同じく離婚歴のある彼は時間を持て余していた。
いつしか、彼の家に招かれて、手作りの夕飯を食べるのが習慣になっていった。特別に凝った料理ではない。おでんだとか、炒めものだとかの家庭料理だ。
その習慣は、家族と過ごしてきた日常の断片を思い出させてくれた。
一人、馴染みの飲み屋で過ごす自由な時間も好きだったが、家で誰かとご飯を食べるという何気ない日常が、身に染みた。逆胃袋を掴まれたのかもしれない。
ダメだったら別れればいい。臆病になっている私は、恐る恐る、彼の提案を受け入れた。
 
離婚するまでに、擦り切れてボロ布状態だった私は、人との関係を深めることをあえて避けるようになっていた。一人で飲み屋にいき、隣に居合わせた人と、当たり障りのない世間話をするぐらいが心地良かった。自分の傷を掘り返すような、愚痴話をしても誰も得をしないと思ったし、そんなことを考えないように、程々に忙しくするようにしていた。
 
そんな人間が、再び誰かと生活しようと決意したもう一つの理由は、彼が自分とは正反対のポジティブ人間だったからだ。私は、何かにつけて心配性で、ネガティブな発想が先に出て、絶望しがちだ。自分のダメな部分を見つける事が得意で、自信がない。彼の口癖は「大丈夫、なんとかなるよ」だった。実際の所、大丈夫じゃないことが多いのだが、不思議とその時だけは安心できた。
性格以外も、全く違った。
ガッチリとしたプロレスラーのような体型の彼、色白で、もやしのような体型の私。肉食の彼、草食の私。レゲエ好きな彼、アニメオタクの私。体型も、好みも全く違ったが、もしかしたら、S極とN極のようにうまくハマるかもしれない。淡い期待を抱いた。
 
穏やかな生活が続くことを願い、新生活がはじまった。
はじめは、お互いを思い合うように接していたはずだった。
 
しかし、近づけば近づくほどに、いいところだけじゃなく、嫌な所が雑草のように生えてくる。小さな雑草が、ちょっとずつ生えてきて、見てみぬフリをしているうちに、膨大な量になっているのだ。食の好み、テレビの音量、寝る時間帯のズレ、家事の仕方。
違いすぎて、発狂しそうになる。いや、発狂している。
当たり前だけど、生きてきた環境の違いを受け止めきれず、ストレスを溜めてしまう。
前にも躓いた小石に、またしても躓きまくる。
 
ストレスの一つに、彼がいつもテレビをつけっぱなしということがある。
彼は、テレビのバラエティーや、ハプニングシーンが流れる衝撃映像みたいな番組が好きだ。私は、本当は本を読んだり、映画を観たりしたい。
思わず「こんなテレビ何が面白いの?」と、聞いてしまったことがある。すると、別に真剣に観ているわけではないというのだ。どうやら、ハプニングシーンで、ドカーンとかワー!っとなるような映像を、一緒に観て「すごいね」と共感したいらしかった。
おもしろさがわからなかった番組に、パートナーと共感するための価値観をつけられると、テレビ本来の楽しみ方を思い出した気がした。
 
些細なことで喧嘩をするようになると、日曜日の夕飯が幸せに感じたことを忘れかけていた。
 
ある日、二人で買い物をした帰り道。たこ焼き屋から、ソースのいい匂いが漂ってきた。
手持ちのお金が少なく、たこ焼き一つをタコせんべいで挟んだタコセンを頼んだ。一つ110円の、駄菓子感覚のフードだ。パリパリとせんべいの食べづらさと格闘していると、彼が「美味しいね」と、上機嫌で言った。そして、「こうやって一緒に食べて美味しいね、っていうのがいいんだよ」と続けた。
彼はいつも、二人でしか味わえないことを大切にする。
高級フレンチだって、一人で食べたら意味がない。110円のタコセンを、一緒に喜べる私達はたぶん幸せだ。もう少しだけ、付き合っていける気がした。
 
 
 
 
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2020-05-06 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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