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メディアグランプリ

日本語にしか無いことば


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:渡辺絵美(ライティング・ゼミ日曜コース)

「ぼけっとしてないで、集中して黒板をみなさい!」

先生から大きな声が矢のように私に飛んできた。
クラスメートのみんなこちらを見ている。
「すみません……」
小学生の私は小さくなって謝るのがやっとだった。

昔から集中力がなくて授業中もすぐにノートに絵をかいたり、
他の考え事をしてしまい、よく怒られた。家でも話を聞いていなくて母によく注意された。
不器用な私はいくつかの事を同時にこなせなくて、頭でいろいろ考えると
そこで止まってしまい、そのうち他のことを考え始めてしまうような子供だった。
気持ちの風船がふわふわ浮いて、ほかに飛んで行ってしまう。
そんな感じだった。
わかってる、わかってるの。
いつもそう言い訳して、風船に重りを付けて飛んでいかないように努力してきた。
中学、高校、大学と進んで、だんだんとぼけっとしている暇はないってことに気が付いた。
大人になってからは、とにかくルーチンを終わらせることで精いっぱいになった。
朝起きて、朝食を作って食べて、通勤電車の時間には駅にいき、会社についたら今日のスケジュールを確認して、時間内に終わるように段取りをして仕事をこなしていく。仕事がおわったら、夕飯のメニューを考えて買い物して、夕飯を食べたら明日の朝の分別ごみのことを考える。
無駄なく、効率よく、問題のない毎日。

その頃は、とにかく仕事が忙しかった。
気が付くと何時間も残業していた。それでも終わらなくて、お昼ご飯もパソコンに向かってコンビニのお弁当を食べながら仕事をしていた頃だった。
ある日同僚の友人から言われた。たぶんひどい顔をしていたんだろうと思う。
「社員食堂でお昼食べなよ。窓際の席で一人で食事して、ぼけっとしていると少し気持ちが切り替えられるよ」
当時の職場は25階建で13階にビルの従業員だけの社員食堂があった。
ビルとビルの隙間から天気がいい日は、お城が見えたり山がみえたりする景色のいい食堂だった。
でも、この数か月間は忙しすぎて行っていなかった。
食堂の空いている13時すぎに行ってランチを食べた。混雑していない食堂で窓ぎわの席を陣取って、晴天の景色を眺めながら何も考えないでぼけっとしてみた。
ぼけっとするってこういうことだったけ?
たぶん10分か15分くらいだったと思う。予想外に気分がよくなって、心が軽くなった気がした。

ある日、本屋でイラストがかわいい絵本を見つけた。
「翻訳できない世界のことば」というタイトルの本だ。他の国のことばではそのニュアンスをうまく表現できないユニークな世界の単語をイラストと解説で表現した本だ。ことばの選択とその解説にとても心が引かれた。
その本には海を眺めている人のイラストと一緒に、日本語の「BOKETTO」が紹介されていたのだ。
えっ、外国のことばに同じようなことばはないの?
すこし驚いた。解説にはこのように書いてあった。

日本人が、なにもかんがえないでいることに名前をつけるほど、
それを大切にしているのはすてきだと思います。
いつもドタバタ忙しい暮らしの中で、
あてもなく心さまよわせるひとときは、最高の気分転換です(38ページ)

そうなんだ!
あの時の気分がよみがえってきた。
「BOKETTO」
他の国のことばにないことば。
なにもかんがえないでぼんやり遠くを見ていること。
このことに名前をつけているって日本人だけなのだって知って、すごく嬉しくなった。
普段何気なく使っていたことばだったけれど、日本人にはそのことを単語として必要だったということ。そして、この気持ちを相手に伝える必要があったということ。
それってとてもすてきなことだとこの本は教えてくれた。

なーんだ。最近の私達って、このことばの使い方を間違えているじゃない。
使い方を変えたらぼけっとすることがとても大切に思えてきた。
そうだ、この夏には海に行こう。
海岸にすわって、ただ海を見ている自分を想像する。
そして、帰ってきてから友達に話すだろう。
「海にいってなにもしないでぼけっとしてた」
きっと友人も言ってくれる。
「いいよね、ぼけっとするって」

***

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2020-05-07 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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