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なぜかあなたを採用します


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:澤田敏仁(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
人を採用するって、自然災害みたいなもんだな。
 
今の会社で採用を担当して18年になる僕の本音である。
 
最近の大学生は就職活動を始めるときに、ものすごい準備をする。
大学のキャリアセンターでは、自己分析から始まり、履歴書の書き方、面接での受け答えの練習、さらには服装やメイクの仕方などの身だしなみまでこと細かく教えてくれる。
また、情報サイトやSNSでの情報交換は当たり前なので、どこの会社でどんなことを聞かれたとか、どう答えたら合格したなど、眉唾物も含めて、情報が公開されている。
結果として、同じような服装で、同じような髪形、同じような志望動機の学生ばかりになる。
中には「ボランティア活動に力を入れていました」とか「サークルの副代表でした」という学生もいるが、よく聞くとボランティアはネットの募集で1回だけとか、サークルは同級生3人で代表の他の2人は副代表ということも多い。
就職活動用に普段の自分とは全く違う自分を作り上げ、就職活動に臨んでいる。
 
一方で、企業はどんな人物か把握したいので、できるだけ素をだしてくれるように選考を工夫している。「国内にマンホールのふたはいくつありますか?」というようなすぐに答えられない質問をしたり、少々圧迫気味に面接をしてストレスを与えるなど、様々なことを試してみるが、すぐに対策されてしまう。
 
僕もいろいろ考えたのだが、行きついたのが“グループワーク”という選考手法だ。
グループワークとは5~6人のグループをいくつか作り、グループごとに配られるカードの情報をもとにゲームをするものだ。
ルールをいち早く理解することや、他のメンバーがもっているカードの情報をつなぎ合わせて全体を把握する様子で、頭の回転の良さや、メンバーとのコミュニケーション能力の高さなどを見ることができる。
また、当日のゲームの内容や、グループによって流れが大きく変わるため、事前の準備が難しく、素の部分がよく見える。グループワークを取り入れるようになって、学生を見極めることは容易になった。
 
3年前、Mさんもグループワークを受けにやってきた学生の一人だった。
最初に参加者12人を2つのグループに分ける。隣の人とジャンケンして、勝ったチームと負けたチームで分かれた。
それぞれのグループに分かれ、席につき、自己紹介をしたあと、ゲームのルール説明に入る。ゲームは宇宙ステーション建設中にトラブルがあり、施工会社の社員になりきって解決策を模索するという内容だ。現実離れした内容なので、ゲームの内容を理解するのに時間が掛かる。
1、2分経ち、ルールがわかりだし、それぞれ話し合いが始まった。Mさんが初めて口を開いた。何を話したのかは僕には聞こえなかったが、その場の空気からピントのずれたことを言ったことだけはわかった。
それからMさんは相づちは打つものの、自分から話すことはなくなった。途中、他のメンバーから意見を求められたこともあったが、自分の意見をうまく伝えられないMさんは、とうとう意見すら求められなくなってしまった。
2時間に及ぶグループワークの最後に気づきや課題を“振り返りシート”を記入する。その中に自分の思うMVPを書くのだが、当然だれもMさんを選ばなかった。
 
いくらなんでもほとんど喋らないと評価の仕様がない。
僕はMさんはやる気がないのだと思い、不合格にしようと思った。
しかし、学生が帰った後で、Mさんの“振り返りシート”を読むと、自分が冒頭でピントのずれたことを言ってそれから何も話せなくなってしまった、周りの雰囲気に飲まれてしまったけど選考なのだから、気持ちを切り替えて自分を出していけば良かった、選考には合格しないだろうが、今後に活かしていきたい、と自分の至らなかったことがびっしり書いてあった。
この反省文にはMさんの素の姿が書いてあるように思えた。
本当はどんな人なのか、次の面接にも来てもらおうと思った。
面接でも、落ち着いて話すものの、特に目立つ方ではなかったMさんだったが、自分を必要以上に優秀に見せようとしなかったことが、評価され、採用することになった。
 
Mさんに連絡すると「どうして採用になったんですか?」と質問があったが、僕はうまい言葉が浮かばなかった。
 
あれから3年が経つが、Mさんは入社し、今日も一緒に仕事をしている。商品の企画や、カタログの校正から展示会でのプレゼンテーションまで幅広くこなしている。周りの社員の評判も良い。
 
人類は自然災害を克服したように思えても、実際の災害の前では、何もできないことも多い。それと同じように、長年採用業務を担当していても、本当はわずかなことしか理解できていない。選考だけではわからないその人の可能性があることを、Mさんをつうじて感じている。
もし今、「どうして採用になったんですか?」と訊かれたら、こう答えようと思う。
「なぜかあなたを採用します」
 
 
 
 
***
 
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2020-05-07 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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