メディアグランプリ

捨てたいのにずっと捨てられずにしまい込んでいるもの


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:酒田 さとみ(4月開講ライティング・ゼミ日曜講座)
 
 
ずっと捨てられずにしまい込んでいるものはあるだろうか?
 
私にはある。
叶わなかった初恋の思い出でもなく、
着られなくなった洋服でもなく、
諦めきれずにいる夢でもない。
どちらかと言うと、早めに処分した方が良いものかもしれない。
なのに、なぜソレをずっと捨てられずにいるのか……。
まるで、捨てるタイミングを失った味のしないガムをずっと噛み続けているかのように。
 
数年前のこと。
家に帰ると突然激しい雷が落ち、豪雨が降りつけてきた。
そんな感じだった。
突然、同居している義母に怒鳴られたのだ。
最初、何が起こったのか分からなかった。
鬼の形相で休むこと無く何かを発している彼女に圧倒されて、ただ呆然と突っ立っていた。
私は彼女が言っていることよりも、彼女が怒鳴る理由が理解出来ないでいた。
「どうしてそんなに大声で怒鳴りつけるように言うのですか?」
心のつぶやきがポロッと口から飛び出してしまう。
この一言が、火に油を注ぐこととなり、彼女の口調はますます激しく荒くなる。
そして、ある瞬間、私の中で何かが弾ける音がした。
口を開けばずっと言えずにため込んでいた彼女に対する思いが、溢れ出すように次から次へとこぼれ落ちてきた。
お互いにヒートアップすればするほど、彼女と私の溝は深くなっていった。
結果、一つ屋根の下に住みながら、ほぼ接触しない生活を送ることになった。
そして私は、彼女との間にできた深い溝にこの言い争いで生まれた怒り、憎しみ、悲しみ、苦しみ、後悔などの類いの破片を埋めて隠すようにずっとしまい込んでいる。
 
その破片を放っておくことは出来ず、彼女との言い争いを数え切れないくらい何度も回想した。思い出したくないのに思い出してしまうのだ。上手く剥がせなかったシールのようにべったりとくっついて頭からは離れないのだ。
そして、出口のない迷宮の迷い込んだように同じ質問を繰り返す。
私だけが悪いのか、私はそんなに酷いことをしたのか、言ったのか、同居などしなければ良かったのか、このまま絶縁すればよいのか、などと。
答えは出ない。
正解はないかもしれない。
その時その時のベストアンサーを見つけては自分を納得させる。そんなことを繰り返していくうちに見え方が少しずつ変わってきたことに気付いた。
いや、少しずつ見方を変えることができたのだと思う。
なぜ彼女があれほどまでに怒ったのかを推測できるようになり、反省すべき点は反省し、ヒステリーな女たちの無意味な言い争いだったと恥じた。
私はこの出来事で、昔、学校で教わった「相手の立場に立って考えなさい」という教えを改めて学び直し、自己中で思いやりのない自分の器の小ささを思い知った。
また、考えや思いを伝えることは大事だが言葉の使い方や選び方を誤ってはいけないと痛感し、言葉を武器にしないための戒めとなっている。
上手く処理出来ずに隠し持ち続けたこの破片が、多少なりとも人間的成長を促してくれているのではないかと思っている。
それでも、私は今なおその破片を捨てられないでいる。
なぜか。
彼女との関係をどうすべきか結論が出ていないからだ。
また背を向けながら家族ごっこをしたいわけではない。
出来てしまった溝が完全に埋まるとは思っていないし、無理に埋めたいとも思っていない。でも、使う直前にだけ混ざり合うドレッシングのように、もう一度だけ一瞬でも交わることが出来たら良いな、と心の片隅で思っている自分がいるのは確かだ。
溝にしまい込んだ破片を拾い集めながら、この問題が解決した時、この破片を処分できるだろうか、と考える。
 
捨てられずにしまい込んでいるものをどのように捉え、どのように処理するかは、持ち主しか決められないし、持ち主が決めるべきことだ。封印しても、放置し風化するのを待ってもよい。でも、もし、きちんと処分したいという思いが少しでもあるのなら、それは自分自身と向き合うチャンスかもしれない。捨てられない理由は、必ず自分の中にあるから。理由探し、つまり自分自信と向き合うことは、新しい発見にワクワクすることもあれば受け入れがたい現実に直面し苦悩することもあると思う。でもそれら全てを受け止め、悩み考えることは、よく意味の分からない四字熟語よりも、使う出番のない数式よりもずっと役立つ学びとなるに違いない。そんな学びを重ね、しかるべき時が来たら、どんなに長い間捨てられずにいたものでもそっと手放せるのかもしれない。そして、それは人間的に成長を遂げた証となるのではないだろうか。
 
捨てられずにしまい込んでいるモノを活かすも殺すも自分次第だ。
もう少し学ばせてもらおう。もう少し成長するために。
そして、拾い集めたアノ破片をまたそっとしまい込んだ。
 
 
 
 
***
 
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2020-05-07 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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