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おっぱいを許す看取り士


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:山口明子(ライティング・ゼミGW集中コース)
 
 
高齢者のデイサービスで働いていると、認知症や体の不自由なおじいちゃんに、おっぱいやおしりを触られるということがときどき起こります。
初めてそんなことがあったときには、
「なんと?! この人に、まだそんな意欲があったのか」
と驚いていましたが、だんだん慣れて
「おー今日も元気ですねー」
と受け入れられるようになりました。
トイレで介助しているときに、立てない動けない普段は話さないおじいちゃんが、私のおっぱいに手をあて
「おっぱい」
と、はっきり発音したときには、耳を疑いました。
「西田さん、すご!」
おっぱいの威力をあらためて知った出来事でした。
ところが、西田さんは翌日亡くなってしまい
「私のおっぱい、冥途のみやげに持って行ったかな」
2人で入ったトイレが、忘れられない一瞬になってしまいました。
 
今、私は看取り士をしています。
12年間、福祉の現場で働いて、いろんなことがあり、この道にたどり着きました。
いろんなことの一つに、このおっぱい事件があります。
おじいちゃんが、女性のおっぱいやおしりに興味があると聞いて
「何、それ。気持ち悪い」
と思う女性も多いのかもしれません。
福祉の現場も特にそこに関して寛容というわけではありませんでした。
ある日知り合いのケアマネさんが、困って私のところへ相談に来ました。
「私が担当するおじいさんが、デイサービスの入浴で女性職員のオッパイを触って、出禁になりました」
「えー出禁ですか?」
「その場にいた男性職員がおじいさんに注意をして、おじいさんが男性職員に噛み付いてしまったんです。職員の耳から血が出る騒ぎになりまして」
「やりますね、おじいさん」
「デイサービスに行かないと、お風呂に入れないんですよねー。どうしましょう」
こんな展開の話、ときどき起こります。
私が働いていたデイサービスでも、
「私のおっぱいが、冥途のみやげになるなら、どうぞ」
という女性職員ばかりではありませんでした。
あからさまに嫌な顔をする職員もいれば、家族に届ける責任者もいて、私はかなりの違和感がありました。
違和感を言葉にするなら
「いいじゃん。減るもんじゃないし」
「私たち、この道のプロなんだし」
ということなのですが、現場で働いているときには、言えませんでした。
誰にも言いはしないけれど、この違和感が、だんだんと、私が大事にしたいことはなんなのかを教えてくれて、看取り士を選んだのだと思います。
 
看取り士は、亡くなる方のそばにいてお看取りするだけでなく、ご家族の
「親を自宅で看取りたいけど、できるのかどうか不安です」
という心配を解消できるように、いつでも相談に乗ったり、ご家族とともに旅立つ方のそばにいることもあります。
福祉の現場をはなれて、何もすることが決まっていないときに、看取り士が出てくる映画の予告を教えてもらいました。
「最期の1%が幸せなら、その人生の全てが幸せなものに変わる」
という言葉を見たときに、
「看取り士になりたい」と思いました。
福祉の仕事をして、積もり積もった違和感を生かせる仕事はこれだ、と直感的にそう思いました。
その人がどんな人生だったとしても、最期の幸せな1%の時間をつくれたら、私自身も幸せな人生を送ることができると、確信がありました。
 
看取り士になってよかったことは、これまで口にできなかった違和感を、思いきり話すことができることです。
看取り士は全国で1000人ほどいる民間の認定資格で、誰でも取得できるものですが、まだ一般的ではありません。
「死」という、普通はあまり関わりたくないことに、望んで関わっている、変わった人なんだと周りが思ってくれるので、少々風変わりなことを言っても、あまり驚かれないようになりました。
さっきの「西田さんの冥途のみやげ話」も、お堅い人たち、特に男性の多い集まりにいくときに自己紹介で話すエピソードです。
介護、福祉の会合というと、医師やお役人が多いのですが、そこで
「私は看取り士です。75歳以上の後期高齢者には、おっぱいを許す看取り士として活動しています」
というと、場がゆるまるので、とても便利に使っています。
私の自己紹介を聞いて、かならずと言っていいほど、難しい顔をしていた男性が、
「私も75歳になったら、おっぱいを許してもらえるの?」
などと近づいてきて、一気に距離が近づきます。
その度に、冥途のみやげにおっぱいを許した西田さんに、
「西田さん、ありがとう。西田さんとトイレに入ったおかげで、今日もいい仕事してますよ」
と感謝しています。
 
もちろん、おっぱいの話ばかりしたくて、看取り士になったのではありません。
命についてや、死について、もっとオープンに話ができる世の中をつくりたいと思っています。
このことも現場で感じた違和感から気がついた、私の中にある大切にしたいことです。
高齢者や疾患のある人がいる職場でありながら、福祉の現場で、命に関して対話することはほとんどありませんでした。
毎日の業務の忙しさもあると思いますが、どこかに「照れ」と「諦め」があると感じることが、私の中の違和感でした。
どんな人もいつか必ず亡くなるということを意識して生きることは、命を大事に暮らすということですが、そんなことを臆面もなく語ることへの「照れ」と、どうせ自分たちが何を語っても、誰かに届くことはない、というような「諦め」が、職場全体をおおっていたように思います。
 
あの頃感じていた違和感の全部が、看取り士の仕事に役に立ち、私が何を大切にして生きていきたいのかを教えてくれる材料になっています。
違和感には、私にとっての人生の宝が隠れていました。
これからも「おっぱいを許す看取り士」として、皆さんの違和感を刺激していきたいと思っています。
 
 
 
 
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2020-05-09 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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