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フェイク・イット!


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:脇 美由紀(ライティング・ゼミ集中コース)
 
 
私はわりと真面目な方である。
授業を受けるときは一番前の席を好むし、先生が話すことは全部ノートにとる。ルールを守ることは当たり前だと思っているし、ウソつきは嫌いだ。
仕事でも、完璧でないと気が済まなかった。人から注意される自分が許せなかったし、ミスしないように気をつけていた。ミスを繰り返す人が理解できなかったし厳しく注意していた。そんな仕事ぶりを上司に評価されることが、私のモチベーションを保っていた。
そんな私は、あるとき会社員を辞め、社会保険労務士という仕事に就いた。どこかの会社に所属するわけではなく、フリーランスである。自分で仕事を見つけなければ、収入はない。
 
その日はどうしようもない焦燥感に駆られていた。
1週間後に、生まれて初めて、講師の仕事をすることになっていたからだ。
退職者向けの年金セミナーである。年金の基本知識や、健康保険の大切なポイントなどを伝える内容である。ある団体から募集があり、何か仕事をしなければ、との焦りもあって、後先考えず応募したのだった。
 
「セミナーってやったことがない」
「何からはじめればいいんだ」
 
分からないことに遭遇すると、私は本に頼る。この時も、とにかく本をたくさん読むことにした。
人気講師の教える技術、研修の進め方、発声方法、レジュメ作成の本、目につく内容の本はすべて買った。そして一気に読んだ。
「そうか、受講者を参加者にさせればよいのか」
「テキストは贈り物だと考えるのか」
事前準備のこと、説得力のある話し方、休憩時間の過ごし方まで、事細かに勉強した。
体裁よくレジュメをまとめ、2時間を完璧に“演じる”準備はできた。
けれど、その後襲ってきたのが、焦燥感だった。
 
自分に自信がなかったのだ。
 
見るからに、実績のあるオジサンが講師であれば、説得力がありそうだし、みんなが納得して聞くだろう。
でも、私は実績ゼロ、受講者からみれば、ただの若いオネーチャンに違いない。
「絶対に、私の話など聞いてくれない」
「実績をつんでから引き受ければ良かった」
セミナーの日が近づくにつれ、後悔と苛立ちが襲ってきた。
 
不安を解消してくれるものはないか、そう思い、本を探しに本屋に行った。
そして、一冊の本の内容が目に留まった。
「最初の実績や自信は、どうしても“ハッタリ”じゃなければならない」
ハッタリ? 真面目な私には、ハッタリなど出来るはずもない。ウソをつくなどできないし、人を騙すことは良くないことだ。
 
その本には、本田宗一郎さんのエピソードが綴られていた。
社員40名程度の町工場のときから、ミカン箱の上に立って「世界のホンダになるぞ!」と言っていたというエピソードだ。
本当に世界のホンダだ、ハッタリなんかじゃない。でも、それは現時点からみたときの話である。本田宗一郎さんがそんなハッタリを言っていた頃はまだ、世界のホンダではなかったどころか、浜松エリアでも大した実績でなかったという。
 
そう考えれば、ハッタリとはウソをつくことではなく、理想の自分を描いてそれを演じることかもしれないと思った。本田宗一郎さんは、世界のホンダを描いて、そのための行動を起こした。理想とする自分を描いて行動することで、理想の雰囲気が出てくるのかしれない。
そして、「この人は実績がある」「この人には自信がある」と相手に思ってもらえれば、やがてそのハッタリが本物になっていく。
 
ハッタリのキーワードとして書かれていた言葉があった。
「フェイク・イット!」
自分を鼓舞するのは自分しかいない。だから、なりたい自分になれるまで、目標が実現するまで、堂々とフェイクせよ、ということである。
 
「フェイク・イット!」という言葉を抱えて、私は初セミナーに向けて、もう1つの準備を始めた。
理想とする自分が着るにふさわしいスーツを買った。
理想とする自分が履くにふさわしいパンプスを買った。
目標を実現した自分が歩いているように、堂々と歩くようにした。
目標を実現した自分が言うのにふさわしい言葉をしゃべるようにした。
鏡の前で、理想の自分を、「フェイク・イット!」してみせた。
セミナーは上手くいった。受講者からの質問にも堂々と答えることができたし、おそらく何十年来のセミナー講師のように見えたに違いない。
 
セミナー前に大きな焦燥感に襲われていたとき、私はその理由を、自分に自信がないからだと思っていた。
けれど振り返ってみると、セミナーのコンテンツには自信があった。どんな質問をされても答えるだけの知識もあった。
私に足りなかったのは、自信でなく、一歩を踏み出すための勇気だったのかもしない。もしうまくいかなかったらどうしよう、失敗したらどうしよう、という不安に打ち勝つための勇気である。それが、理想の自分を演じることで、気にならなくなったのである。心が軽くなった気がした。
 
その後も私は、セミナー講師の仕事を積極的に引き受けた。多くの受講生を前に、押しつぶされそうになることもあった。そのときは、
「フェイク・イット!」
魔法の言葉を唱えながら、心を軽くして仕事にのぞんでいた。
 
15年の歳月が流れた。
私はいま、「フェイク・イット!」の言葉に頼っていない。
それは、理想の自分になったからではないように思う。
魔法の言葉で心を軽くし、たくさんのセミナーを行ってきた。
そして分かったことがある。それは、完璧でなくてもいいんだってこと。
以前は、絶対に間違ってはいけないと思っていた。完璧でなければならないと思っていた。
今は違う。
間違っていれば間違っていると認めることができる。知らないことは知らないと言うことができる。
私は、いま、スーツを着ていない、パンプスも履いていない。自分らしい服装をしている。
「あの頃は、スーツ着てパンプス履いた姿が理想だったのか?」
そう思うと恥ずかしくなるが、そんな時代があったから、今があると思えるのである。
 
このような変化は、他のところにも影響した。
真面目な性格は変わっていないが、完璧主義ではなくなったと思う。
私にはできないことがたくさんあると自覚することで、人に対する対応も変わってきた。
「ミスしてもいいじゃない、人間だもの」
今はそう思えるのである。
「フェイク・イット!」の言葉との出会いが、私の人生を変えたのかもしれない。
 
実は「フェイク・イット!」は久々に思い出した言葉だった。
ライティング・ゼミの記事を書くネタを考えるために、いろいろなエピソードに思いを馳せていたとき、私の転機となった言葉として、ふと思い出したのである。
そういえば、何の本だっただろう。気になって、本棚を探していたら、ひときわ付箋の多い本があった。
『人生を変える! 「心のブレーキ」の外し方』という本だった。
ちょっと驚いた。
いま私が新たに挑戦していることはライティング。受講したのは、人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」。
「人生を変える」のフレーズ、シンクロニシティだ。
 
ライティングとの出会いが、また私の人生を変えるかもしれない。
もう変わり始めている? そうと思うとワクワクする。
 
 
 
 
***
 
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2020-05-09 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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