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メディアグランプリ

人生最悪の誕生日にどっさりもらった石炭の話


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:川俣智恵子(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
女性面接官は、まるで小池百合子都知事のようなシャキシャキした雰囲気の人だった。その彼女が慎重に言葉を選びながら言った。
「小学生の子どもたちというのは、素直で、率直です。時に残酷なくらい、ハッキリものを言うの。つまり……」
彼女は私の目をまっすぐに見た。
「今の、あなたのその話し方ね。それを子どもたちが指摘したり、からかうような場面もあるかと思うんです。そんな時、どうされますか? それでもこの仕事ができますか?」
喉の奥から、ぐっと何かがこみ上げてきた。胸がギューっと痛んだ。
早く何か、何か答えなくちゃ。
 
「わわわ、私は…」
こんな日に限って、いや、こんな日だからこそ、調子が悪い。
「ここここ、子どもたちに、いいい言います。私は、うまくしゃべれない。でも、い、い、い、い一生懸命、しゃべるから、聞いてねって、言います。が、が、がんばります」
悔しい。もっともっと言いたいことがある。でも、今はこれしか言葉が出てこない。
 
3月某日。24回目の誕生日。私は面接試験を受けていた。
地域の子育て支援員の仕事に応募した。人前で話す仕事だから、面接官の質問はもっともだった。
 
面接官は3名。中央に女性。両端におじさん2人。
灰色の長机を挟んで、私は一人。
 
それからは何をどう答えたか覚えていない。泣くな、泣くなと自分に言い聞かせ、最後までなんとかやりきった。
 
「ありがとうございました」
面接室のドアを閉めた瞬間だった。
「……クッ、クッ、ぶあーっはっはー!!」
右端のおじさん面接官がこらえきれずに笑っているのが聞こえた。
私は急いでその場を立ち去った。消えてしまいたかった。
 
ビルの外に出て、停車中のトヨタ・ファンカーゴに乗り込んだ。運転席には彼が待っていた。私たちはその足で温泉旅行に出発した。私の誕生日のお祝いと大学院の修了記念。ずっと楽しみにしてきた。
 
「面接どうだった?」
アンパンマンみたいな丸い顔を見たら、抑えていた涙がどーっと溢れてきた。
私は彼に全部話した。そしてワンワン泣いた。
「いつも人生の大事な場面で、吃音(きつおん)に邪魔される……!!」
吃音のせいできっと不採用だ。吃音さえなければ!!
 
「泣くな!!」唐突に怒鳴り声が聞こえた。「悲劇のヒロインになるな!!」
私はびっくりして運転席を見た。怒っている? 彼が? 私に!?
4年間付き合ってきて、そんなに怒るのを見たのは初めてだった。
 
「お前は何のために言友会(げんゆうかい)に何年も通って、何のために論文を書いたんだ!!あの論文は嘘だったのか!?」
私は大学と大学院で言語障害を学んだ。自助グループにも入った。偉そうに、私は論文に書いていた。
「会のために、あるいは他の吃音者のために何ができるか。その視点が、自らの吃音問題を乗り越えていくためにも大切である」と。
 
尊敬する教授がよく言っていた受け売りの言葉。私自身のものにはなっていなかった。
 
彼になぐさめてもらえると期待していたのに。
涙が止められない。彼はプリプリずっと怒っている。
 
面接に失敗して、彼に怒られて、最悪の誕生日だ。
楽しみにしていた旅行が台無しになったと思った。悲しかった。
 
だけど、論文、読んでくれていたんだと思った。
確かに頼み込んで誤字脱字をチェックしてもらった。
彼の趣味はパチンコにお酒、スキーにテニス。論文になんて興味なさそうだったのに。
 
仙台から盛岡まで、約3時間。温泉宿に着くころには、お互いの機嫌は戻っていた。
私たちはおいしい料理を食べ、お風呂につかり、おどけた写真をたくさん撮った。
いつものように。
 
その後、なぜか採用通知が届いた。学童保育や乳幼児親子教室。子育て支援の現場で、私は働き始めた。
電話や人前で話すのには苦労した。でも、「吃音のせいで」と思うのをやめた。
 
彼以外の人から怒鳴られていたら、私は変われなかったと思う。
彼は何でも許してくれていた。
部屋をどんなに散らかしていても、酔っ払って全裸になってゲーゲー吐いても、何をしても怒られなかった。
吃音の悩みも、「消えたい」というネガティブな思いも、いつもただ「そうか」と聞いてくれていた。何でも言ってよかったし、してよかった。
その彼が、初めて「悲劇のヒロインになるな」と私に禁じた。
 
24歳の私は、彼がどうして怒ったかわからなかった。
 
44歳になった今ならわかる。
彼が私に禁じたのは、「吃音に邪魔されている」という被害的な思考だった。
 
彼が言いたいことは多分こうだった。
「話し方はお前のほんの一部分だ。人生の全てをコントロールされていると錯覚するな」
「人生のハンドルを握っているのは自分自身だ。ハンディキャップをどう捉えて、消化するかも含めて、すべてを決めるのは自分なんだ」
「みんなが自分に何をしてくれるかを期待するのは子どもの態度だ。そうではなく、みんなのために何ができるかを考えろ。吃音を持ちながらでも、いくらでもできることがあるはずだ。それを論文に書いたんだろう?」
 
彼は私以上に、私の論文を理解してくれていたわけだ。
 
20年前の誕生日に、彼からもらった怒りの言葉たち。
石炭みたいに真っ黒で、私が欲しい言葉とは違っていた。
 
でも、その後の人生で、その石炭が私の燃料になってくれた。
彼と離れてからもずっと。
 
大人の階段を一歩、上らせてくれた彼に感謝している。
 
今、元気に生きているよ。幸せだよ。ありがとう。
私もこれからは、誰かに燃料を与える側になりたい。
 
あなたはこれまでに、誰からどんな燃料を手渡してもらいましたか?
この文章が、それを思い出すきっかけになれば幸いです。
 
 
 
 
***
 
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2020-05-14 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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