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ふざけてものまねをしたら、人生が180度変わってしまった話


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:和田 成正(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「バタフライエフェクト」という言葉を知っているだろうか?
 
ほんの些細な事が、徐々にとんでもない大きな現象の引き金に繋がるという考えの事。
簡単に説明すると、こんな感じだ。
 
「小さなきっかけが、後に大きなことを引き起こす……」
 
名前の由来については、
1972年にこの概念を最初に発表した、気象学者エドワード・ローレンツの講演の題名
「ブラジルでの蝶の羽ばたきはテキサスでトルネードを引き起こすか」から来ている。
 
あれは、今から20年前の秋。
当時、僕は中学1年生で、サッカー大好きなどこにでもいる少年だった。
特技は、ものまねで、学校の休み時間中は、仲がいい友達の前で学校の先生のものまねをよくしていた。
僕はとても恥ずかしがり屋だったので、ものまねのお披露目は、あくまで仲がいい友達の前でだけ。
そうあの事件が起きる日までは……。
 
僕の学校では、秋に学年ごとの合唱発表会がある。
 
1クラス30名×8クラス=240名
 
240人の大合唱。
歌った曲は……何だっけ。
とにかく、スペインの闘牛士の歌だったことは覚えている。
「闘うことよりも昼寝が好き♪」っていう歌詞だったな。
(誰が選曲したんだよ!)
 
合唱の指揮者は、運動はできないが、音楽一家でセンス抜群の少年、
皆からは、「ベートーベン」と呼ばれていた。
合唱の練習中、ベートーベンの指揮は、思春期の照れなど微塵も感じさせない、
まさに天才音楽家が乗り移ったようなマエストロっぷりだった。
 
ものまね好きな僕は、そのベートーベンのマエストロっぷりを研究し、
友達の前で新ネタとして繰り返すようになった。
 
そして、合唱発表会本番の日。
1年生の発表は、お昼休憩が終わった14時くらいから。
お弁当を食べ終わり、友達と話していたところに、隣のクラスの先生がやってきた。
 
「和田ちょっとこっち来てくれ」
 
先生は心なしかちょっと怖い表情で、僕は何か怒られると思い冷や汗をかきながら、廊下にでた。
 
「お前、伊藤(ベートーベン)の、ものまねやってるだろ?」
「え …… やってないです」
「こないだお前がものまねやっているのを、うちのクラスの生徒が見たって言ってるぞ」
「……」
「見せて見ろ」
「いや、でも …… 」
「いいから見せて見ろ」
 
先生はベートーベンのクラスの担任だ。
僕は観念して、ベートーベンのものまねをした。
先生は真剣な顔でじっと僕を見ていた。
その真剣な空気に途中で耐えられなくなって僕は、ものまねを止めて先生に謝った。
先生は、しゅんとした僕の両肩に手を置き
 
「今日の合唱の指揮者は、お前だ」
 
優しい口調でそう言った。
 
「え?」
 
驚く僕に、先生は事情を説明しだした。
ベートーベンが体調を崩して、午前中に早退したこと。
自分のクラスで代理を探したけど、誰もやりたくないって手が上がらなかったこと。
クラスの中の一人が、僕のベートーベンのモノマネをたまたま見ていて、あいつならできそうだと言ってきたこと。
 
…… いやできねぇよ!
 
ベートーベンの家は音楽一家で、子供の時から音楽に触れている。
一方僕は、子供の時から触れていたのは、サッカーボールで、
音楽のことなんて全くわからないし、当然指揮者の経験もない。
 
無理無理無理。
 
僕は断った。必死に断った。しかし先生は粘り強く説得してきた。
そこからはできる、できないの押し問答。
 
ありとあらゆる説得を受けた。
ものまねする人間は、こういう時助けなきゃいけないとか、
これは運命だとか。
 
先生の勢いに、少しずつ押されはじめる僕。
最後は、お前が断ったら、残念だけど合唱は中止するという超パワープレイ。
 
「わかりました……」
 
僕は完落ちした。
 
体育館に着き中をのぞくと
学校の1、2、3年生と、その保護者が来ていて、ざっと1,000人くらいいる。
 
「それでは、これより1年生の合唱発表です」
 
体育館にアナウンスが流れる。
 
1年生のみんなが所定の位置についたら、僕は舞台の袖から登場して、
指揮者の台に乗ってお辞儀する段取りだ。
ということを、舞台袖にてリアルタイムで先生から説明を受ける。
 
僕は緊張していた。しこたま緊張していた。
先生から指揮棒を渡された時、どうしようもなく逃げ出したくなった。
 
なんだこれ。どうやって持つの。どっちの手に持つの。
こんなに軽いのか。どうやってふればいいんだ。
一度も練習してないのにどうすれば。
てか、何で俺がこんなに追い詰められてるんだ。
くそ。こんなことならベートーベンのマネなんてしなきゃ良かった。
 
「ふざけるものまねではなく、真剣に伊藤(ベートーベン)のものまねをしろ」
「お前は天才音楽家だ」
 
びびりまくっている僕に、先生が後ろから小声で援護射撃してくる。
全員が所定の位置につき、今まで浴びた事のない大きな拍手の中、僕は舞台へと歩いて行った。
 
もう逃げられない。
これから僕は初めての指揮者を、1,000人の前でする。
腹をくくった。もうどうにでもなれ!
やけくそになりながら、僕はベートーベンになって指揮棒をあげた。
 
体育館が一瞬の静寂に包まれた。
そして、ピアノの前奏が流れ出す。
 
そこからは無我夢中で指揮棒を振りまくった。
夢中でベートーベンになりきっていたため、記憶はあまりないが、
最後曲が終わった時の拍手は、20年経った今も忘れられない。
お辞儀をして、舞台袖に戻った時、僕は力が抜けてその場に座り込んでしまった。
 
「よっ。さすがはモノマネ上手」
「お前将来芸人か俳優になれよ。今のうちサインもらっとこ」
「俺、宝塚出身のあの女優さんが好きだから会ったら、よろしく言っておいて」
 
先生は大笑いしながら、あらゆる言葉でほめてくれた。かなりお世辞が多めだったけど。
とんだ災難だった。
ベートーベンのモノマネさえやっていなければ、こんなことにはならなかったであろう。
 
でもね先生、本当は感謝している。
このことがきっかけで、僕は大勢の前で何かをするのが好きになった。
ものまねもクラスの皆の前でするようになったし、
文化祭のクラスの劇では主役をしたりもした。
 
昔の僕から考えたら、あり得ないことだ。
 
そしてあの日から約10年後の夏。
僕は、俳優になっていた。
その日は、オーディションに受かったあるドラマの顔合わせがあった。
ゴールデンドラマということもあり、
昔テレビで見ていた俳優、女優、アイドルが、そこにはいた。
そしてその中には、先生が好きだと言っていた女優さんもいた。
 
先生。バタフライエフェクトって知ってる?
何気なくやったベートーベンのモノマネが、確実に僕の人生を大きく動かした。
 
でもこのことをまだ先生に伝えられていない。
そもそも先生が、どこにいるかもわからないし、
結局1度も担任にはならなかったし、僕のことなんてもう忘れているだろう。
 
ねぇ先生。僕は今俳優はやっていないけど、
別の仕事で人を感動させたり、笑わせたりするために頑張ってるよ。
今年は新たなチャレンジとして、今まで苦手で避けてきた「書く」ということにチャレンジもしている。
 
もしも……
もしもこの先ライティングがうまくなって自分が書いた記事が、多くの人に見てもらえるようなことになったら、いつかどこかにいる先生にも、伝えることができるかな。
この課題提出という小さな一歩が、後に先生に繋がったりして。
 
そんなこと起こる訳ないか。
 
……
 
いや、あり得るかも。
 
 
 
 
***
 
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2020-05-14 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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