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野生の動物は病院で子供を産みますか?


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記事:田口純美(ライティング・ゼミ通信限定コース)
 
 
「野生の動物は病院で子供を産みますか? 産みませんよね」
私が助産院で心底納得させられた一言だった。
 
友人から助産院で出産した話を聞いて、ぼんやりと、病院のベッドの上ではなく布団の上で産むのってなんだかいいなあ、と思ったことが助産院に興味をもったきっかけだった。あとは会陰切開しないということ。切るのって痛そうだもの。
 
妊娠がわかり、助産院の見学に行き、助産院での出産を決めた。本音を言うと、助産院出産した友人と同じことをしてみたかっただけだ。この時はまだ修行僧のような日々が始まるのを知らない私であった。
 
助産院で出産するには、帝王切開はもちろん陣痛促進剤や会陰切開などの医療介入なしで産むということである。母体の身体が冷えているとおなかの中で赤ん坊が大きくなりにくかったり、出産予定日を超えても出てくる気配が一向になかったりと、赤ん坊も母体も出産のスタートボタンが押されず、結果医療介入となる。そういったトラブルなく自然な出産を迎えるための身体づくりが必要となり、やらなければならないことがいくつかある。
まずは食事指導。定期健診のたびに日々の食事を記録したノートの提出を求められた。基本的に和食を推奨され、乳製品や甘い物など身体を冷やす食べ物は一切NG、香辛料や加工品もできるだけ避けるなど、徹底的にチェックされる。出産までの半年ほどこの食事指導が続くので、妊婦ということでお酒を飲めないうえに、甘い物でまぎらわすこともできない。食事については耐えるしかなく、とにかくつらかった。
 
その他には、暑くても肌を出さず体を冷やさないこと、足を温めること、早寝早起き、PCやスマホから離れる時間を増やし目を大事にすること、お灸をすること、そしてウォーキングである。
 
「ウォーキングって、どのくらいしたらいいですか?」
「そうねー、一日あたり1時間半を2本くらいかな」
 
一日合計3時間? 一瞬耳を疑ったが、助産師さんはいたって普通である。
冗談ではないようだ。
 
産前休暇に入り仕事も休んで時間もできたので、自宅近くの自衛隊の基地の周りを毎日歩いた。歩いていると自衛隊の方々が基地の中でランニングや筋トレをしているところが見えた。災害時の自衛隊の方々の活動や活躍はこうした日々のトレーニングがあってのものなのだな。日々の積み重ね、そう言い聞かせて出産まで歩き続けた。
 
助産院からは厳しい指導だけではなく、ありがたい紹介も受けた。妊娠安定期までの体力がなくなった時期に、助産院から紹介された漢方医にて診療を受け、体力がつく漢方を処方してもらった。これは今でも、疲れが取れない時期や風邪をひきそうな時に効果抜群なので常備している。また、体調不良には漢方薬からのフォーカスの方が私には合うようで、病院にかかることがなくなり、市販薬は漢方薬しか買わなくなった。
 
迎えた初めての出産は、ちょうど台風が近づいていて気圧変化に負けたのか「ぷすっ」という弱い破水から始まり、微弱陣痛が続き、破水後24時間以内の出産リミットが迫り、嵐が吹き荒れるなか自家用車で提携病院へ移動した後、陣痛促進剤を打つというなかなかない経験になってしまった。布団のうえでの出産がかなわなかったのは残念だったが、帝王切開も会陰切開もしなかったし、出産後は病院から助産院に移動し一日三食美味しい和食が提供されるなかで養生でき満足だった。(ちなみに第二子の出産は、助産院の布団の上で、破水から3時間半のスピード出産だった)
 
出産後は、ウォーキングのおかげで妊娠前よりも体重が減っていたこと、かつ体力もついていたので、私の体調は安定していた。和食も作り慣れて、みそ汁は離乳食を作る際に転用が楽にできるなど、出産後の食事作りにも役に立った。助産院の指導は、私の中に玉手箱となってたくさんの宝を残してくれた。
 
もうすぐ第二子が5歳になるが、妊娠時に経験した食生活を今もずっと続けているかといえばそんなことはなく、お酒も飲むし、コロナ自粛のストレスはお菓子を食べて発散するような生活であることも否めない。ただし調子が悪いときは、食事を見直すと回復することがわかっている。それに加えて最近は、断食もたまに取り入れている。食べ続けているかぎり、胃は休まらない。胃を労わるということは食べないということ。丸一日食べないのだが、胃が楽になるのと、気持ちよく目覚められるので、ちょっとつらいがたまに行う。
 
思い返すと若い頃は、肌が荒れれば洗顔フォームだ、化粧水だと、表面上をなんとかしようとして、その時だけ改善しては、また別のトラブルが出てきてを繰り返していた。産後の引っ越しの時は、都度都度買っていた鎮痛剤の残りをかなり捨てた。まあ大量に買い込んでいたものだ。鎮痛剤を飲んで痛みを紛らわして遅くまで仕事をする。それが格好いい社会人のように錯覚していたのかもしれない。今回のwithコロナ生活を経験してみると、人間らしい生活がどういうものか、別の視点で世界が見える気がする。助産院で受けた指導の時に何度も言われた「身体の声を聴きなさい」この言葉が、強く胸に響いているのだ。
 
 
 
 
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2020-05-15 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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