前日も一緒にいた友達と再会しただけなのに、感激で大号泣してしまったあの日。
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:大和田絵美(ライティング・ゼミ平日コース)
「ゆりさーん!」
空港の到着ゲートで、ようやく彼女を見つけた。
感動で全身にぶわっと鳥肌がたった。
トランクを引きずりながら、手を振って、彼女は私に向かって歩いてくる。
ドラマの感動的なシーンさながら、周囲の音は消え、スローモーションになる。
いつの間にか私の目からは涙が溢れていた。
手を伸ばしてゆりさんにギュッと抱きついた。
彼女も泣いていた。
何日間も行方不明になっていた恋人が不意に帰ってきた時のように、私達は空港でかたく抱き合い、号泣しながら再会を喜んだ。
ゆりさんは昨日と同じ服を着ている。
そう、私達はたった1日ぶりの再会だった。
ゆりさんは、大人になってから知り合い、仲良くなった友達だ。
お互い旅行が大好き。
仲良くなってからは、年に1回の海外旅行が恒例になっている。
ゆりさんとの海外旅行は、国内旅行と同じぐらい気楽だ。
イギリスやカナダで生活していたこともある彼女は英語がペラペラ。
一緒に旅行している間、私は自分の拙い英語を全く話すことなく旅を終えることが出来る。
ホテルのチェックインも、レストランでの注文も、市場での値段の交渉も、全部やってもらえる。
そして、生まれも育ちも「商いの街」大阪出身の彼女は、お金にとてもきっちりしている。
決してケチではないけれど、安く出来るところは調べまくって格安の旅行をプランニングする。
一番安いタイミングで、航空券もホテルも予約してくれる。
彼女との旅のスタイルは、旅行会社を一切通さない完全な個人旅行。
英語の全く話せない私が、こんな自由な旅行が出来るようになるなんて、増えていくパスポートのスタンプを見ながら、いつもびっくりしてしまう。
もちろん私が成長したわけではない。むしろ私は何も変わっていない。
彼女という旅の相棒が出来ただけだ。
ただそれだけで、ドラえもんと一緒の時ののび太君のように、いつもより余裕のある自分になれる。ドラえもんがピンチの時に未来の道具で助けてくれるように、何かがあっても絶対に彼女が何とかしてくれるという余裕だ。
私はただ彼女の指定した待ち合わせ場所に行くだけ。
それだけで、とてつもなく楽しい旅が保証されている。
絶対に忘れてはいけないのは、パスポート。
ただそれさえ持っていけば、ドキドキワクワクして、でも絶対に安心で安全な、とっても素敵な時間を過ごすことが出来る。
今回の旅も当然、楽しいだけの時間になると信じていた。
それなのに……。
「ビザはお持ちですか?」
「えっ……」
予想外の事態が起きた。
今回の旅の目的地はベトナムのニャチャンというリゾート地。
この旅行のために買ったちょっと派手な水着をトランクに詰め、私は今朝、ワクワクしながら家を出た。
空港に着いて、ゆりさんと合流し、ハンドバックの中からパスポートを取り出して渡す。
私の仕事はこれでおしまい。
あとは、彼女の後ろをついて歩くだけで、5日間の楽しい旅が始まる。
それを全く疑わなかった。
きっとゆりさんも、そう思っていたはず。
でも、この浮かれた気持ちは、飛行機のチェックインカウンターで突然打ち砕かれた。
「ビザはお持ちですか?」という一言で。
私達の旅は今回も完全な個人旅行。
飛行機もホテルも、いつも通り全部彼女が予約してくれていた。
だから、誰も確認する人がいなかったのだ。
彼女のパスポートの期限が「半年未満」だったことに。
「有効期限内なのに、何とかなりませんか」
私達は必死に食い下がった。
ニャチャンに行きたい思いが強すぎて、嫌らしいクレーマーのように執拗に粘った。
その様子に窓口のお姉さんは同情してくれたけど、当然のことながら結果は変わらなかった。
「有効期限が半年以内のパスポートでは、ベトナムに入国出来ないんですよ。だから、日本を出国することも出来ません」
さっきまであんなにワクワクしていたのに、急に奈落の底へ転落。
自分のミスだからと泣きながら謝る彼女の肩を抱き、華やいだ空港の片隅で私も泣いた。
万事休す。
この旅を諦めるしかないのだろうか。
決断のタイムリミットは刻々と迫っていた。
少し落ち着き、涙も止まると、2人でこれからどうするか考えた。
本当にどうにもならないのか。
どうしても、行きたかった。
「同じような経験をしている人、いるんじゃない?」
ふとそう思い立ち、スマホで検索した。
「ベトナム パスポート 有効期限半年未満」
すると、検索に引っかかるページが多数。
文明の利器はすごい。
とりあえず今日は飛行機に乗れないけど、明日には何とかなるかも……、
そこまで調べたところで、タイムアップ。
問題なく出国出来る私は、長い通路を全力で走って、一人予定の飛行機に乗った。
英語の話せる相棒のいない国際線は久しぶりで、私にとってはとても心許ないものだった。
機内食を選ぶだけでも一苦労。
いつも隣で私をサポートしてくれる彼女はいない。
彼女とガイドブックを交換したり、写真を撮り合ったりして機内を楽しむつもりだったのに、予想外に私は一人。
まるで誰かを弔いに行くかのように沈痛な気持ちで、ベトナムに飛んだ。
異国の匂いがする空港に着いて、スマホの電源を入れたら、彼女からメールが届いていた。
「ビザとれた。明日行くよ」
やはり彼女は、頼れる私の相棒だった。
翌日、一日遅れで彼女は私の前に現れた。
たった一日ぶりなのに、何十年も会っていなかったかのように感激し、私達は空港で抱き合って泣いた。
この時の感動は、とっておきの映画のワンシーンのように、今も忘れられない。
「ねぇ。私が飛行機に乗った後、どうなったの?」
彼女はいかに大変な一日だったかを説明してくれた。
「あの後、空港をすぐ出て、ベトナム領事館に行ったの」
「ベトナム領事館って日本語通じるの?」
「通じないよ」
英語しか通じないとのことで、私なら無理だったなと思った。
何とかしたい気持ちはあっても、能力の限界というものがある。
「写真が必要だってサイトに書いてあったから、証明写真を撮って、午前中に申請したんだよ。夕方受け取りに行ったら、ほら」
彼女のパスポートには、1ページ分の大きなビザが貼りついていた。
「おぉー。これが」
このビザのおかげで、私達は無事に再会出来たというわけか。
どうしても旅をしたいという私達の熱意が、パスポートの有効期限に勝ったのだ。
諦めない気持ちは大事である。
こんなに仲良しの友達なのに、もう3か月も会えていない。
ベトナム行きのビザは1日でとれたのに、新型コロナウィルスの壁は厚く、なかなか突破することが出来ない。
でも、近いうちにきっとまた会える。
彼女はいつも、ドキドキとワクワクがたくさんで、でも安心で安全で、絶対に楽しませてくれる大切な時間をくれる頼れる相棒なのだから。
今度会う時、ベトナムの空港で抱き合ったあの時のように、嬉しくて泣いてしまうかもしれない。
その日が一日でも早く来るといいなと、あの日撮った涙目の写真を見ながら、今日も願っている。
***
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