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メディアグランプリ

表紙の裏につまった「全て」


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記事:谷中田千恵(リーディング倶楽部)
 
 
「なんのために、働いているのだろう?」
 
そんな疑問は、いつも前触れもなくやってきます。
 
思っていた結果を、出せない時。
納得できるまで、充分に力を尽くせなかった時。
同僚や上司と、うまく信頼関係をつくれない時。
忙しさのあまりためてしまった、カゴいっぱいの洗濯物を見た時。
 
突然やってくるくせに力ばかりは、やけに強くて、大きな波のようにすっぽり私を飲み込み、あっという間に不安の海へと連れ去ります。
 
コロナ禍の今、私はその不安の海を漂っていました。
 
半減した仕事と、半減した収入。
この状況に終わりが見えないことも拍車をかけます。
仕事を変える事を考えては、「もう少しだけ」と自分に言い聞かせて。
その度に、働く理由を自分に問います。
 
この雑誌、「暮しの手帖」を手にとったのは、そんな時でした。
 
小さな頃、母の本棚にずらっと並んでいたシンプルな背表紙。
じっくり読んだ事はありませんでしたが、ほっとするようなロゴと気持ちのいいイラストの表紙も変わりありません。
しかし、ページをめくると郷愁の思いは、あっという間に吹き飛びました。
 
「えっ、これが雑誌なの?」
 
まず、その記事の豊富さに驚きました。
季節のレシピに、メイク術の紹介、エッセイに、旅行記、子育て相談、刺繍の仕方に、ファッションガイド……。
どの頁にも見きれないほど、ぎっしりと写真と読み物がつまっています。
 
しかも、ただジャンルが広いだけではないのです。
どれも、しっかり実用性があり、今すぐ使える情報ばかり。
大げさな表現はどこにも見られず、わかりやすい言葉で書かれています。
 
等身大の「私」の生活の全てだ。そう、感じました。
 
さらに、この雑誌、広告が一切ないのです。
最後に少し通販のページはあるのですが、特定の企業や商品を紹介する記載は、全184頁、どこにもありません。
そのせいでしょうか。
読んでも、読んでも読み終わる気配が感じられない。まるで一冊の書籍のようなのです。
 
「こんな雑誌もあるのか!」
 
好きな雑誌はたくさんありますが、こんなに読み応えのある雑誌は、今まで見たことがありません。
書店に並ぶ、どの雑誌とも同じではないのです。
それなのに、奇抜だと感じない。
いえ、むしろスタンダードだとさえ、思えてきます。
 
どこを開いても、からならず同じ空気が流れていて、同じリズムが感じられる。分断されたり、止まったりする事がないのです。
だから、矛盾を感じる隙がありません。
安心して、時間をまるごとゆだねる事ができてしまいます。
 
「なんで、こんな本をつくることができるのだろう?」
 
おそらく、雑誌づくりには、たくさんの人の力が必要なはずです。
カメラマンに、ライター、編集者、作家に、料理家。
なぜ、その一人一人が、同じ空気を、同じリズムをつくることができるのでしょう。
なぜ、全体が途切れることのない安心感をつくり出すのでしょう。
 
その答えは、表紙の裏にありました。
 
「暮しの手帖」の創刊は、1948年、戦後間もなくのことです。
その時の理念が、小さくうたわれています。
 
「もう二度と戦争を起こさないために、一人ひとりが暮らしを大切にする世の中にしたい」
 
この言葉に、私は、はっとさせられました。
この雑誌は、きちんと「理想」を持っている。
ゆるがないパワーを持った、力強い「理想」を。
そう、感じたのです。
 
この「理想」は、雑誌に関わる全ての人の、全ての仕事の隅々にまで行き渡っているのでしょう。
だから、どの頁にもゆるがなくて、どの頁にも同じ空気があるのだと思います。
 
「理想」は、つまり目指すべき方向です。
みんなが、同じ方向を向いて、同じ仕事をできている。
だから、その「理想」は、読んでいる私の脳内にもきちんとした映像として再生されます。
 
もちろん、戦後という時代背景がもつ強さだってあるでしょう。
強い言葉だからこそ、70年を越えた「今」に続いてきたのだと思います。
 
「ああ、私もこんな風に向かうべき方向をもっていたい」
 
きっと、今、その「理想」を見定める時期に私はいるのだと気付かされました。
「働く」の先に続く、未来を。
未来のための理由を。
「理想」を。
時間のある今だからこそ、みつけてみたいと感じたのです。
 
創刊時の理念の上には、初代編集長、花森安治さんの書き残した言葉が印刷されています。
 
「これは あなたの手帖です」から始まる、ほんの10行の短い文章です。
 
はじめて目にした時、私は涙がこぼれそうになりました。
この清々しい文章の中には、この雑誌の空気が、ゆるぎなさが、そして何より「理想」の世界がつまっています。
 
私は、私の「理想」を探したい。
この文章を読むたびに、お腹の底から湧水のように力があふれてくるのを感じます。
 
毎号表紙の裏に印字されたこの10行を読むためだけに、定期購読してしまおうと思うほど、私にとっては大切な言葉です。
 
 
 
 
〈この一冊!〉
暮しの手帖 (隔月刊 雑誌)
出版社:暮しの手帖社
 
***
 
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2020-05-22 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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