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気分はわらしべ長者


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:佐々木 慶(ライティングゼミ・日曜コース)
 
 
「佐々木さんって、一人旅が好きですよね」
人からよくそんなことを言われる。
きっと、一人で遠くのまちに出かけることが多いからなのだろう。
 
たしかに、私は旅が好きだ。
5月の大型連休や夏休みの時期には、よく泊まりがけの遠出をしている。
大枠で行きたい場所の目星はつけるけど、細かいタイムスケジュールは特に決めない。
むしろ、泊まる宿も行った先で決めることもよくある。
いわば、一人旅と言うよりも、むしろ行き当たりばったりの旅だ。
 
ただ、もともと行き当たりばったりの旅が特別、好きであった訳ではない。
そうなったのには、訳がある。
 
8年前の夏。
私は鬱々としていた。
仕事こそ順調だったものの、職場の人となかなかそりが合わず悩む日々が続いていた。
 
一体、どうすればいいんだ……。
仕事中はもちろんのこと、プライベートの時までそんなモヤモヤした気持ちで頭の中がいっぱいになっていた。
 
気分をどうにか変えようと、行きつけの飲食店に通ったり、友人に話を聞いてもらったりしたが、一向に気が晴れなかった。
そんな私の姿を見かねてか、行きつけの飲食店のマスターが言った。
「今ちょうど、面白いイベントをやっているみたいだから、行ってみたら? はい、これ」
 
『大地の芸術祭』と大きく書かれた一枚のチラシを渡された。
なんでも、新潟県の中部にある十日町市というまちを舞台に、3年に一度行われるアートイベントらしい。
商店街のお店、山間部にある空き家、駅、寺社、山林、田んぼなど、十日町市にある様々な場所でアート作品の展示やミニイベントが行われるというものだった。
 
実際に行って、もしあまり面白くなかったら、どうしよう……。
マイナス思考に気味になっていたためか、正直、あまり気乗りはしなかった。
しかし、今まで私の数々の悩みを聞いてくれた他ならぬマスターの提案である。
せっかくなので、提案に乗って、そのアートイベントに行ってみることにした。
 
自宅から、高速道路を使って約2時間。
早速、次の休みに十日町市へ向かった。
 
視界いっぱいに広がる田んぼの海。広い空。
とてものどかな場所だなあー。
十日町市に抱いた第一印象はそんな感じだった。
 
しかし、その印象はすぐに破られることになった。
 
山に鎮座する巨大な鉛筆のオブジェ。
田園風景に突如現れる鳥居の塊。
駅の前にある藁でできたタワー。
 
作品の一つ一つに、度肝を抜かれた。
 
一見何の変哲もない風景のはずなのに、こんな面白い作品を作れるなんて!
とても感動したのをよく覚えている。
 
人とは不思議なものだ。
いったんプラスの感情になると止まらなくなる。
感情が動いているのが分かった。
ずっと塞ぎ込んでいたはずなのに。
一気に心が回り出した。
まるで、水をいっぱいに受けて、勢いよく回り出す水車のように。
 
よし、今度はあれを見てみよう。
お、この作品は面白そうだな。
 
パンフレットをめくりながら、目に留まった作品を片っ端から見に行く。
途中であることに気付いた。
とても一日では時間が足りない。
もともとは、一泊はしようと思い、アートイベントは一日だけ見て、次の日は温泉に入ったり、ドライブしたりのんびりして過ごす算段だった。
しかし、アートイベントが予想以上に良かったこともあり、予定を変えることにした。
 
二日目。
この日も、アート作品鑑賞に時間を充てることにした。
一日目では見られなかった作品見て回ったり、ミニイベントに参加したり。
 
しかし、ここである問題が生じた。
時間がない。
一日で切り上げる予定を二日間に延ばしたのにも関わらずである。
 
もう一泊していこうか?
しかし、今から宿が取れるのか?
 
そんなことを悩んでいたときに彼に出会った。
ミニイベントの会場のそばで、出店を開いていたおじさんだ。
 
この日はとても暑かったこともあり、身体が冷たいものを欲していた。
そんな矢先に見つけたのは、かき氷を売っている出店。
喉がカラカラだった私にとって、まさに渡りに船だった。
 
かき氷を勢いよく平らげると、まもなく店のおじさんが話かけてきた。
「お客さんは、どこから来たの?」
「群馬から来ました」
「おー、群馬かー。俺の妻が群馬県出身でよく遊びに行くんだよ」
 
共通の話題もあり、話が弾んだ。
アートイベントの話、十日町市の食べ物の話と進み、話題はその夜の宿の話になった。
 
「このあとはどうするんだい? 泊まっていくのかい?」
「いやー、見足りないんで、もう一泊したいところなんですけど、宿を取っていなくて。どうしようか悩んでいるんですよねー」
「じゃあ、うちの小屋に泊まっていくか? それなら、今から宿を取れなくてもいいんじゃないか?」
 
聞くところによると、その小屋というのは、おじさんが所属するNPO法人で使っており、物置兼事務所として使っている建物のことらしい。
 
初めて来た場所で、初めて会った人からの突然の提案に、正直びっくりした。
しかも、泊まっていいよと言う場所は、よりによって物置。
若干、気は引けたが、もう一泊してもっとアートイベントを堪能したかったし、何よりおじさんの好意を無駄にはしたくなかった。
結局、その日は小屋に泊まることにした。結果、次の日も作品を存分に堪能することができた。
それがきっかけで、おじさんが所属するNPO法人が主催するイベントには、ほぼ毎年顔を出すようになった。
顔を出した際には、私は群馬のお酒を持参、おじさんは私に夕ご飯をごちそうしてくれるのがお決まりになっている。
そんなこんなで、おじさんとは8年経った今でもつながりがある。
 
そうだ。
思えば、あの頃から、行き当たりばったりの旅が好きになった。
 
偶然出会った人や、ものが旅を楽しくしてくれる。
行き当たりばったりの旅をしている私は、まさにわらしべ長者のようなものだ。
 
それからは、行き当たりばったりの旅に好んでかけることが多くなった。
今度はどんな人、どんなものに出会えるんだろう。
そんなことを思いながら。
 
 
 
 
***
 
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2020-05-22 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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