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メディアグランプリ

痛みの奥にある、大切なネガティブの感情


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:三谷 智子(ライティング・ゼミ通信限定コース)
 
 
私は病院勤めの薬剤師だ。日々患者さんやその家族へ薬の説明をしている。薬の効能・効果、副作用など、薬にまつわる色んなことを説明するのが、私の仕事だ。
たくさんの薬の中のひとつに、医療用麻薬がある。一番痛みを抑えることができる薬、それが医療用麻薬だ。
 
医療用麻薬を使用することが決まった患者さんやその家族には、こう説明してきた。
「麻薬は、病気の治療開始と共にスタートすることが主流になってきました。麻薬を使用することで、痛みによる気力、体力の消耗を抑えられます。抑えた分、治療に向けることができる、余力が生まれます。痛みを気にすることなく、今までと同じような生活を送れます。麻薬といえど、怖い、敬遠するものではありません。まずは使ってみましょう」
 
医学、薬学の知識に基づき、私なりの言葉に置き換えて伝えてきた。「麻薬」という言葉から連想される負のイメージを払拭し、安心して使用してもらいたいとの思いがあった。経験を積むにつれ、伝えたい内容は増えていった。伝えたい内容が増えるほど、患者さんやその家族の満足度も上がると思っていた。
 
ただ時折、説明している相手に戸惑いを感じることがあった。私の説明不足で相手の顔を曇らせた、戸惑わせたと思っていた。私は自分のスキル磨きに励んだ。
でもそれは見当違いの解答だったことを、今の私は知っている。
今から2年半前、母の病気が発覚した。私自身が患者家族となったことで、何ゆえに戸惑った表情をしていたのか。その理由が身に染みて分かったからだ。
 
母は中皮腫という肺の病気だった。母の痛みの範囲は肺全体に及び、病気が分かったときは末期の状態だった。母の痛みは、果てしなく深く、途方もないものとなっていた。
 
母に医療用麻薬を使用すると、医師より説明を受けた。母の病気の状態からして、当然だと受け止める薬剤師の自分がいた。一方で、怖くて、怖くてたまらない、娘の自分もいた。十分な薬の知識を持っていても、麻薬から死を連想してしまった。「母の死を覚悟しろ」とばかりに、現実を突き付けられたようで怖かった。
 
母は病気の進行が速かった。短いスパンで、色んな症状が現れてきた。医療用麻薬も含め、処方される薬の内容が、毎日のように変わっていった。自分のもてる知識を活かし、母へ薬の説明をする日々だった。薬について母が理解を深めることで、少しでも効いて欲しい。薬の副作用が現れた時、母自身が一番にその異変に気付き、周囲へ伝えて欲しい。副作用を小さく抑えたい。娘としての願いをいっぱい込めた説明をしていた。
 
母に処方されている薬の内容、処方されている薬の移り変わりから、医師から説明されなくとも、母の病状が刻一刻と悪くなっていることを実感していた。母の病状をリアルに分かる自分の薬剤師としての知識が、恨めしくもあった。
 
いやだ。母が死に近づくのを受け入れたくない。恐怖で抗い続け、泣き叫ぶ自分がいた。薬剤師として母の病状を理解しても、娘としては何ら受け止められないのだ。割り切れる感情などどこにもなかった。
 
母の闘病を通して、私は気づいた。どんなに知識があろうとも、どんなに正しい道筋が分かっていようとも、割り切れない感情はいつまでだって、どこまでだってある。この感情はネガティブに分類されるものだと思う。でも、あって当たり前。母を大切に思う気持ちがある証拠だからだ。
当時は感情を言葉にすることすら、出来なかった。抱えきれない、逃げたいと思っていた。得体は知れずとも、この感情を無くすことが出来れば楽になる。なお一層、母の看病へ力を注げるとすら思っていた。
でも今なら分かる。あれ以上の看病をしていたなら、私は壊れていた。ネガティブな感情が歯止めとなり私を生かした。
 
患者さんやその家族が、医療用麻薬の説明を聞いて、戸惑いを見せるのは当然だ。私の説明不足が理由ではなかった。
色んな感情が湧いてくると思う。患者本人の置かれている現実を、患者さんやその家族に「受け入れなさい」と示されている瞬間だからだ。恐怖、不安。人それぞれに感じるものは違えど、受け止めたくない、少しも心地よくない感情だと思う。
でも、このネガティブな感情の存在を認めることこそ大切だった。今の私は心から思えるようになった。
ネガティブな感情にもがき、苦しむ患者さんやその家族へ、寄り添った薬の説明をしたいと思った。
 
今年の5月に母の3回忌を行った。感情を振り乱さず、手を合わせることができた。2年前の、ただ泣くだけの私では、もうなかった。
 
3回忌を終えた数日後のことだった。6月より、癌患者さんが多く入退院する病棟を担当するよう、上司から指示された。偶々の人事だった。
 
でも、偶々ではない、と私は思った。
「今の智子だから、できることがある。がんばれ!」
母が私の背中を押した気がする。
 
新しい担当病棟にて、癌の患者さんとその家族へ寄り添う医療を、提供していこうと思う。
 
 
 
 
***
 
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2020-05-29 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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