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メディアグランプリ

死してなお、人を魅了するパワーに出会ったことはあるか


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記事:青野まみこ(リーディング倶楽部)
 
 
夏目雅子という女優がいたことを覚えている人は、どのくらいいるだろうか。
 
1970年代から80年代にかけて、数々のメディアに登場し、鮮烈な印象を焼き付けて去って行ったひと。
打ち上げ花火のように、美しく華やかなその姿を忘れられない人もいるだろう。
 
世の中には、「天は二物を与えず」どころか、三物も四物も持ち合わせている人がいる。
しかも、一見するとどれも完璧なくらいに仕上がっているならば、全く人間界は不公平としか言いようがない。
そんなのずるい、こっちにも少し分けてよと言いたくもなってしまう。
 
彼女の死から、今年で早くも35年が経つ。35年も過ぎれば、もう彼女のことを知らない世代の方が多くなりつつあるのかもしれない。
そんな彼女が女優業のかたわら、句会に参加し、俳号まで持っていたことを知っているだろうか。
 
『優日雅 〜ゆうにちが〜 夏目雅子 ふたたび』(森英介、2004 実業之日本社)には、27歳の若さで世を去った夏目雅子がどのようにして女優になり、また俳人としての技量を認められたかが記されている。
 
調べてみると、彼女の女優としての活動期間は10年にも満たない。
しかしながら出演作のリストを見ると、どの役も強烈に記憶にある。
小麦色に焼けた肌を惜しげもなく真夏の太陽のもとに晒して微笑んだ化粧品CMのキャンペーンガール姿は最早、伝説といっていい。
商社マンを踏み台にしてのし上がるピアニスト、終戦直後の淡路島で少年野球を教える女教師、大正時代の土佐の侠客の養女、さらには三蔵法師に至るまで、彼女が演じた役が瞬時に頭に浮かんでくるのだ。
 
どの役も文字通りの「身体を張った」演技だった。そしてどれも好評だった。
来る役来る役を完璧に演じていた多忙の中、雅子は仕事と同じくらいの比重で句会のスケジュールを入れていた。TVや映画の画面の向こう側の、女優の彼女からは、当時全く想像がつかなかった。
 
本書には、雅子が生前に詠んだうちの34句が収録されている。
驚くべきは、どの句も見事なまでに個性的で、強いのである。まるで彼女の演技のように。
その腕前は、講談社の『大歳時記』に掲載されたほどである。ここまで来ると、プロに匹敵する内容だ。「趣味で俳句を作っているんでしょう?」などとうっかり言ってしまったら大変失礼に当たるレベルだろう。
 
演技でも文章でもなんでもいい、己の内なる何かを形にして表現したい衝動は、恐らく全ての人の中にある。
ただ、それを形にして表すか、胸の中にしまっておくかの違いだろう。
 
雅子は、たった十七字の俳句の型にとらわれず、自由に句を詠んだ。
彼女の句を読むと、種田山頭火のように字余り・字足らずのものが多い。当て字やルビを振ったりと、とにかく「自由」なのだ。
そして出来上がった句はどれも十七字の何倍もの奥行きを感じさせている。俳句なのに、文章のような、そこから小説が書けそうなくらいのドラマがしっかりと入っている。
 
例えば、ある1つの風景を見たとする。仮に雨の風景とでもしておこう。
雨というものも、その降りかたから呼び名が何百とつく。しとしとと降る雨、氷雨、菜種梅雨、五月雨、小糠雨、土砂降り、秋雨……。
雨が降っている時の、その空の色も、雲の流れも、足元の水の風景も、1つ1つが違う。そして、雨を見たときの自分の感情も。
 
雨を見つめていると、隠しておきたかった想いまでもがどんどん抑えきれなくなってしまう、しまいには世界がどうにかなるくらいの姿に形を変えてしまうのではないか。
雅子の句のうちの1つを読んだ時、そんな情景が目の前に浮かんで来た。隠したかった想いは、なんなのだろうか。仕事と同じくらいの重きをどうしても俳句に置きたかった理由は、なんなのだろうか。
 
どうしても誰かに想いを伝えずにはいられない時、人は自分を何らかの形で表す。
雅子にとっては、女優も俳句もどうしても必要なものだった。彼女が何故そこにこだわったのか、本書は丁寧に足跡を辿りながら示している。メディアで世の人々には決して見せることができなかった彼女の本心が、句を通して垣間見えて来る。
 
あの当時、女優として光り輝いていた人に、こんな一面があったとは。
表では女優として、見たままのエネルギッシュさを通していても、裏では俳人として本能を記さずにはいられなかったに違いない。
誰もが持つ、表と裏の二面性。それを最大限に表現することで、毎日の心のバランスを取っていたのだろう。
 
恐らく自身でも説明がつかないくらいのとてつもない情念を持ち合わせた夏目雅子という人の句を読むと、死してなお人を魅了する彼女の底知れぬパワーが、ひたひたと伝わってくるのだ。
 
 
 
 
***
 
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2020-05-29 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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