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お父さんの心臓は、動くのか?


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:東方小百合(とうぼう さゆり)(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「もっとも、危険な状態です」といきなり告げられた。
そこは、救命救急センターの家族待合室。
 
13年前の10月7日。
その日は、次男の運動会でした。
ジメジメと湿気を感じる暑い日だった。
 
私は、暑い中、夫の水分量が少ないことが、気になっていた。
運動会の帰り道、気持ち悪いと体調不良を感じた夫。
 
私は、運動会の片付けのため、不在だった。
家にいるのは、5歳の次男と夫。
 
夫は、気持ち悪さに加え、胸の痛みを感じていた。
 
胸痛が、ひどくなる中、私に電話が入ったが、
大丈夫だろうと思いながら、片付けをしていた。
ママ友と話しながら、胸騒ぎがしてならなかったのを今でも鮮明に覚えてる。
 
あとで、わかったことだが、夫は、胸痛の中、自転車で病院に向かおうとしていたのだ。ノーテンキだ。
この後、どうなるか? は、知る由もなく。
 
とうとう夫は、あまりの痛さと冷や汗で、動けなくなってしまった。
そばにいるのは、5歳の次男だけ。まだ何の助けにもならない。
そこへ、土曜日授業だった長男10歳が、下校してきたのだ。
夫は、「救急車を呼んで欲しい」と長男に頼んだ。
この時の長男の対応がなければ、夫は、命を落としていたに違いない。
長男こそ、夫の命の恩人だ。
救急車が、到着する前に私は、自宅に着いた。
相変わらず、夫は、ノーテンキでいる。歩いて、外で救急車を待つと言う。
しばらくして、救急車到着。
 
「あ〜、これで安心」と私は、安堵した。
私こそ、ノーテンキだと後から知る。
 
救急車の中では、救急隊員の問いにしっかり答える夫。
受け入れ先の病院を探し、後は、救急車の出発を待つだけ。
 
救急車に乗り込んで、どれくらいたった頃か、夫が急変した。
 
「なんだか、体がおかしい」と私に訴えた。
「大丈夫だよ。これから病院行くからね」と私は、ノーテンキに会話をしている。
 
その直後、夫が痙攣し始める。
 
私は、何が起こっているのか?
夫は、どうなってしまうのか?
パニックを起こしていたに違いない。
私が、気を失わないで良かったと今でも本当に思う。
 
救急隊員が、狭い救急車の中で、慌ただしく動き出す。
 
夫の急変に対応しているようだ。
私にとっては、非現実で、今起きていることと思えない、遠い別の世界で
起きているようだ。
 
夫の心臓が止まった。
 
「心肺停止、AEDの用意」
「離れて!」
そう、テレビでのあのシーンだ。
バン! 夫の体が、機械の音とともに、飛び上がる。
まだ、夫の心臓は、動かない。
「もう一度!」
バン!
 
その間、私は、何をしていたのだろう?
どんな気持ちで、何か夫に声をかけていたのだろうか?
まったく別の世界だ。
 
AEDを使用しても、蘇生率は50%、1分ごとに10%ずつ下がるという。
データものちに知ることになるが、あの時、私の知識の中になくて良かったと
思っている。
 
夫は、このデータを見事に破り、現実の世界に戻ってきた。
心臓が動いた。お父さんの心臓は、動いた。
それから、病院に着く間も会話が出来るくらいの復活を成し遂げたのである。
不死身だ。本物だ。
 
15分後、病院に到着した。
救急隊員から、医師へとバトンタッチである。
これも後に知ることだが、3人の救急隊員もこの時、初めてAEDを使ったらしい。迅速な対応と冷静な判断、そして、何より、私への気遣いに感謝しかない。
 
まもなくして、主治医が、やってきて
「急性心筋梗塞です。処置はしますが、もっとも危険な状態です」と色々なリスクがあることと処置の為の書類のサインを求められる。
 
私は、家族に知らせる為、いや、子供達に夫の最期、会わせたいと思い
外に出て、電話をした。
 
その時、もう夕方だったと思うが、空を見上げて、自動販売機で
飲み物を購入したのを何故か思い出す。
 
長い長い1日が、終わりそうな時、主治医がやってきて、
今度は、
「命は、取り止めました。お会いできます」
「本来、お子さんは、面会謝絶ですが、今日は、どうぞ」と言ってくれた。
夫の命の恩人である長男と運動会で疲れている次男を連れて、ICUの病室に入る。
 
夫は、たくさんの医療機器につながれていた。
一言「ごめんね。ありがとう」と一筋の涙をこぼした。
 
その後、ICUで、何日か過ごし、無事、一般病棟に移った。
私は、夫を励まし、気丈に振る舞って日々を過ごす。
 
今、現在、夫は、元気に過ごしている。
 
お父さんの心臓、動いてくれてありがとう。
復活してくれて、ありがとう。
 
5歳と10歳だった子どもたちも18歳と22歳になった。
 
あれから、13年、たくさんのことに感謝をしている。
もしかしたら、今のこの生活、この平穏な日々がなかったかと思うと今でも
心が、ざわつく。
 
あの出来事を乗り越えられたのは、なぜだろう?
不安で眠れない日もあった。
「子どもたちからお父さんを奪わないでください」そう祈ることしか
出来なかった。
13年前のあの日のことは、忘れはしないが、時間と共に思い出となっていることは、確かである。
これからも苦難なこともあるだろう。その時にやれることに向き合い、不安や心配にも向き合いながら過ごしていきたい。そうすれば、未来があることを知っているから。
これからもお父さんの心臓も動き続けることを私は、信じてる。
 
 
 
 
***

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2020-05-29 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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