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神さまも通った道を歩いて気がついたもの


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:もなか(ライティング・ゼミ通信限定コース)
 
 
昔は神さまも通ったという長い一本道を歩いて辿り着いた岬の突端で、目の前に360度広がる青い海に言葉を奪われました。
ずっとそこに立っていても良いと思いました。
夏から秋に変わろうとする北の大地に、おしてはかえす波の音だけ響いてました。
 
ゆっくり歩く自由があって良いと思います。
 
突然主張してすみません。
かつて、私はしゃかしゃかしゃかしゃか、憑き物もふるい落ちる勢いですんごい速足で歩いてました。
 
なぜ、「かつて」なのかというと、今は物理的に出来ないからなのです。
 
今から20年前、突然それはやってきました。
「横断性脊髄炎」
聞き慣れない言葉かと思います。
病名です。
私の脊髄は、首のあたりで炎症を起こしてしまいました。
脊髄というのは、首からお尻まで背骨の中にチューブのように入っていて、脳からの命令を伝えたり、皮膚で感じた感覚を伝える神経の束です。
そこに炎症が起きて傷がつくと、感覚がマヒし、手足などを動かすことが難しくなります。どこが傷つくか、どれくらいの広さが傷つくかで、体のどこにどのくらい影響が出るか変わってきます。
そして、1度傷がついた神経は元には戻りません。
 
私の場合は、2週間くらい肩が異常に凝ると思っていたら、ある日下半身が動かなくなっていました。
その頃、大学を卒業して1年目。慣れない環境で毎日必死に働いてました。
病院にも行ったけど、最初に行った病院では「肩凝り」と診断されました。
「ほらね! やっぱり! 大丈夫だって!」
今、振り返ると、かたくなに大丈夫と思い込んだ私自身も身体の異常にちゃんと向き合ってなかったと思います。
テレビ番組じゃないけど、病からの最終警告! ある日、起きようとしたら力が入らなくてひとりでは立てず、ご飯を食べようと箸を掴むと、何回やっても無意識にぽとぽと落としてました。ここでヤバさを感じて、大きな病院へ飛び込んだら、即入院でした。
後日わかったのは、私は血が固まりやすい体質で、首のあたりの脊髄で小さい血管が何ヶ所か詰まっていたようです。
幸い影響を受けた範囲が狭かったので、手足が全く動かないという状態は治療により解消されたけど、走ったり、早歩きをしたり、片足立ちをするということは出来なくなりました。
 
リハビリしても、ある程度までしか失った機能は取り戻せません。
今まで特に努力せずに出来たことをもう一度出来るようするため、いっぱいあがいて、挫折もしました。
会社も辞めざるを得なくなり、いる場所もなくなったすぐのタイミングで、同期が「期待の新入社員」として新聞に載っているのを目にしたり、ヤサぐれる材料には事欠きませんでした。
歩くとつま先が無意識のうちに下がって、気を付けてないとそこら辺につまづいています。なので、私にとって話しながら歩くのは時に危険。話しながらでも、意識の半分くらいは足元にあります。
反射的な動きが出来ないので、走ったり、階段を降りたりという高度な動きが難しくなったなど、面倒くさいことがたくさんです。
なくしたものばかり数えて、周りから置いて行かれるような寂しさを味わった私は、なかなか簡単に自分の変化を受け入れることは出来ず、固い殻にこもりました。
 
今まですぐに行けたところへ行くのに、ゆっくりゆっくり行くようになりました。
階段も手すりを使ってゆっくりゆっくり昇ります。
 
「遠慮しないで! エレベーター使えば良いのよ!」
 
親切な人がそう声を掛けてくれます。
 
本当にありがたいですが、身体も使わないと衰えてしまいます。
少しずつバリアフリーも整備されてきたけど、車椅子より杖、杖も身体に無理がなく、手放せるなら手放した方が行動の範囲が広がるのが現実です。
 
入院していた時に写真で見たあの絶景を見るために、細い道をひたすら歩きます。
意識はしてなくても身体は疲れてるのか、時々つま先をを土にこすってしまう。
それでもこの細い道は、行き止まりもなく、確かに岬の先へ続いています。
無くしたものは、この先の人生で今までと違う形で取り戻したら良いのかもしれない。
困った時は、道具でも周りの人でも、もっと気軽に頼ってもいいのかも。
 
今まで、人にお願いするのが苦手だった私。
いつでも自分が! 自分が! で、本当の意味で周りが見えていませんでした。
自分の殻に閉じこもって、理由付けをして人を遠ざけていたことに気づけました。
「エレベーター使えば?」と言ってもらった時、素直にお礼を言えるようになろうと思いました。
 
ゆっくりゆっくりでも、逃げないものがある。
ゆっくりゆっくりでも、辿り着けた場所がある。
 
あの神さまが歩いた道の先でそう気づくことが出来たので、私は身体が動くかぎり、ゆっくりゆっくり歩いて、これからも行きたいところへ行こうと思います。
まわり道もして、なくしものもあるけど、今、生きてて良かったと思えていてありがとう。
 
とにかくあそこは絶景でした。
 
あそこがどこなのか気になったら、私に聞いてくださいね。
 
 
 
 
***
 
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2020-06-05 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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