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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:三谷 智子(ライティング・ゼミ通信限定コース)
 
 
2017年の夏、私の母は胸が痛いと言い始めた。
整形外科、内科など色んな病院へ行くも、異常なしと診断された。
かつて健康診断で引っかかった膵臓が原因かもと思い、消化器内科も受診した。同じく異常なしだった。
母の気にし過ぎが痛みの大きな理由だと、私は思っていた。
 
2017年12月。膵臓の定期確認のため、MRIを指示された。母は小柄な人だった。膵臓を撮影した際、肺が一緒に映った。肺に異常ありと診断された。至急、呼吸器内科にかかるよう指示された。
 
2017年12月29日。仕事納めの日だった。
「肺がんの疑いがあります。検査を急ぎする必要があります」と、呼吸器内科の医師より言われた。
炎症により肺へ過剰な水が溜まり、胸を圧迫しているせいで痛かったのだ。
詳しい検査は、年明けとなってしまった。まさか癌とは想像もしておらず、家族一同大パニックで年末年始を過ごした。
 
私は薬剤師だ。母のそばにいたのに、何ら気づけなかった。医者でないとはいえ、悔やむばかりだった。
私は隠れて泣いていた。母は気づき、おもむろに私の所へ来てこう言った。
「お母さんは死ぬの?だからあんたは泣いてるの?」イラついた、怒った顔だった。
違うと首を振ることしかできず、良い言葉は何も浮かばなかった。涙は止まらなかった。
 
母は痛みがあまりにひどく、年明け早々に緊急入院した。次々と現れてくる症状に対処しながら、同時に検査もすることとなった。検査をいくらしても、病名は分からなかった。肺が悪いことは間違いない。でもそこから先が進まなかった。
 
周囲もやきもきしたが、誰よりも母自身が参ってしまった。しばしば私にふっかけるような質問をしてきた。薬剤師の私なら知っていると、母は思い込んでた。
私は思っていることがすぐ顔に出る。母は私のプロだ。私の小さな表情も見逃さない。そしてぴしゃりと、私の思ってることを言い当てていた。
 
ある日医師が弟へ、「お母さんの顔を見に来てあげて下さいね」と言ったそうだ。
母は私と二人っきりになったタイミングを見計らい、尋ねてきた。
「お母さんがもうすぐ死ぬから、先生は『会いに帰ってきて』と言ったの?」
母は私の返答を聞こうとはしていなかった。私の顔をじーっとみて、表情から読み解こうとしていた。
 
私は日々の現実に耐え切れず、しばしば泣いた。
でも母の解釈は違った。
「智子は何かを知っている。私が相当悪いから、堪え切れず泣いている。私は死ぬんだ」
母の解釈を知り愕然とした。母の前では、決して泣かない。私は表情に出さない。それが母を穏やかな気持ちにする秘訣だと知った。自分の感情を押し殺そうとした。
 
2018年2月初旬。いくつかの検査を経て、母の病気が判明した。中皮腫だった。母は既に末期の状態だった。母に残された時間は1か月、もしくは来週にも亡くなることを覚悟するよう、私と父は説明を受けた。早々に抗がん剤治療が始まった。
 
母の前だけ感情を消し、穏やかな顔を張り付ける。母の前以外では、発散する。そんな器用なことは出来なかった。いつの間にか、いつだって表情は抜け落ちていってた。
 
自分でもまずいと気づいた。2月の月末に、上司へ数日間の休みが欲しいと申請した。とことん自分のために時間を使おうと思った。
そんな矢先、母の一時退院が急に決まった。抗がん剤の副作用も少なく、今しかなかった。私が休む、その日が退院予定日となった。父はどうしても外せない仕事があった。私が母を迎えに来て、一緒に退院することとなった。
この頃の私は母の前でも、作り笑いさえできなかった。母も私の様子に気づいていた。むしろ母が作り笑いをしようとしていた。とても心が痛かった。
 
退院手続きをし、一緒に自宅へ帰った。一時退院に合わせ、自宅に介護用ベッドを慌てて搬入した。ベッドを搬入するにあたり、部屋の片付けもした。見違える変化に、母は目を見開いて驚いていた。
 
母はベッドに横たわり、しばらく眠ることにした。私は部屋をあとにした。
 
しばらくして、母の様子をみようと、部屋に近づいた。母が何かブツブツ言ってた。私は部屋に入らず、ドア越しに聞き耳を立てた。
 
「お母さん幸せだよな。こんな病気にもなって、それでもみんな、『お母さん、お母さん』と言ってくれる。私は幸せだよな」
 
お母さん、幸せと言ってくれるの? 幸せをこの状況でも感じてくれるの? 中皮腫なのに? 娘は少しも笑えないのに?
お母さん、ありがとう。幸せと言ってくれて、ありがとう。
 
母の「幸せ」という言葉を聞いた時、全てを包み込まれたようで、私は自分を許していいんだと思えた。私はそのままドアの外にて、声を出さず号泣した。
 
看病にてどす黒い感情が湧いた。決してきれいごとだけで看病はできなかった。見たくもない自分の姿を知った。
でも、ありのままの自分となったからこそ、母の「幸せ」をしっかり受け止められた。母からの「幸せ」の重みを感じることができた。
 
母からの「幸せ」は、今も私の心を温かくしている。
 
 
 
 
***
 
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2020-06-05 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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