イイコウィルス感染症への注意喚起
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記事:藤野 碧(ライティング・ゼミ日曜コース)
「息子くんは、いい子だね」
「ご一家でお出掛けでしたか。娘ちゃん、いい子にしてたかい?」
「お母さんがいない間、息子くん、とってもいい子にしてましたよ」
そのウィルスは人と人との接触によってうつるという。
感染者は高齢者に多いが、全ての年代で発生している。
自覚症状がないまま、感染を広げてしまうこともある。
その厄介な感染症の名は、「イイコ」ウィルス。
ニュースにならないだけで、結構みんな感染している。近所のおじさんも、実家の両親も、職場の先輩も、仲良しの友人も。
そして冒頭に紹介したような、一見なんの問題もなさそうな「ほめ言葉」や「温かな声かけ」によって、新たなターゲットへと感染を拡大させているのだ。
私がこのウィルスの存在に気づいたのは、出産して半年ほど経った頃だ。
息子は、あまりぐずったり泣いたりしない赤ちゃんだった。特に外出中は静かで、電車やバスに乗ると真剣な顔で周りを見回し、降りるまでずっと黙っている。私にはそれがおもしろく、「この子、電車でも静かなんだよ」と、友人や同僚への話の種にしていた。珍しいね、と笑ってくれると思ったのだ。
しかし高い確率で、彼らはこう言った。
「へえ~いい子だね」
「うん? まあ、そうだね……。外出しやすくて、助かってるよ」
いい子、と言われたのが意外だった。そうか……うちの子って、いい子なのかな。なんとなく嬉しいような、まんざらでもない気持ち。
この時点では、まだウィルスの存在に気づいていなかった。
近所の保健センターに、息子を数時間預けたことがあった。
私が迎えに行くと、彼はぐずって泣いている。担当の保育士さんが明るく言った。
「さっきまでは、いい子だったんですよー!」
不機嫌でイヤイヤしているのは今だけなんですよ、と息子をかばう形で私に報告してくれたのだ。
そうかそうか。さっきまでは、いい子だったのね。
でもそれってつまり、今泣いてるのは、「悪い」ってこと?
このようなやりとりを重ねるにつれ、私はだんだんと、「いい子」という言葉にひっかかりを覚えるようになった。悪意のないほめ言葉なのだろうが、心が少しもやっとする。
彼らが言う「いい子」とは、いったい何なのか。
これまでの場面を振り返ると、それは「静かで、おとなしい子」という意味だった。親や周りの大人の手をわずらわせない子。大人の言うことをきく子。大人が何を望んでいるかわかっていて、その通りにする子。迷惑をかけない子。それが「いい子」である。
これが、世の中の一般的な定義のようだ。
だけど、本当にそうなのか。
おとなしく言うことを聞く子どもが、「いい」子なのか。
私は、そうは思わない。
息子は、眠い時や希望が叶わない時にはぐずるし、1歳になった今では、とてもわんぱくだ。家の中を走り回り、椅子に登り、テーブルの上のものをあさる。公園に行けば、敷地内に収まっていられず、道路に出て行ってしまう。風呂上がりには、オムツや服を着せる間もなく走り去ってしまう。私たち大人は、毎日とても疲れる。
けれども私は、それこそが子どもの「いい」ところだと思う。ぐずるのは子どもの本分だ。そうやって意思の伝え方を学んでいる。大人が言う「だめ」の意味や重大さがわからなかったり、好奇心の方が大きすぎたりして、自由に動き回ってしまう。それが子どもの本来の姿だと思う。自分自身や周りの世界を、探検せずにはいられないのだ。
もちろん、静かな時もあっていい。
でも、静かにしていたら「いい子」で、わんぱく・おてんば・うるさいのを「悪い子」とみなすことに、私は全く賛成できない。
私は急いで洗面所に行き、ハンドソープを泡立てた。
両手をごしごし、30秒かけてこする。そして蛇口をひねる。
ジャーーーッ
「おとなしい子がいい子だ」と人間に信じさせるウィルス=「イイコウィルス」を、洗い流した。
危ない、危ない。
もしも感染していたら、私は動き回る息子を「悪い子」と評価し、彼の自由を制限していただろう。大人の指示に従い、静かにしている時だけ、彼をほめただろう。そうすることで、彼自身にも「おとなしくしているのが、いいことなんだ」と思わせてしまっただろう。近所の子たちや、友達の子どもに対しても同様に。
危ない、危ない。
私は「おとなしくて、いい子」が将来どうなるか、知っているのだ。
小さい頃から親の言いつけに従い、何をするにも「やっていい?」と許可を得てから動いていた子どもがいた。親は「いい子だね」とほめ、周りの大人も、先生たちも同じように評価した。絵に描いたような優等生だった。その子は成長したが、いつまでたっても自力で判断や決断ができなかった。いつも親に頼って決めてもらった。周りの大人がどう思うかが気になって、やりたいことができなかった。自分の人生を生きていない。ようやく気づいて、自分を取り戻せた時には、もう25歳になっていた。私のことだ。
息子にも、他の子どもにも、あふれ出るエネルギーを抑え込まずに、存分に発揮して生きてほしいと思う。他人の顔色をうかがうことなく、好奇心のまま探検してほしい。多少、周りに迷惑をかけてもいい。そのほうが絶対楽しいし、将来きっと、自発的に主体的に動き回れる大人になれるから。
イイコウィルスに注意!
私は大声で呼びかけたい。
イイコウィルスに注意!
ウィルスは撲滅が難しく、共存を目指すしかないという。
感染しそうになったら、どうすればいいのだろうか。
まずは、ごしごしと手洗いをすることだ。
たっぷり30秒かけて。
その時間を使って、自分の頭で考えてみよう。
みんなが当たり前のように「いい」って言うことが、本当に本当に、「いい」のかどうかを。
***
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