fbpx
メディアグランプリ

高齢者の緊急事態に直面した時に大切なこと

thumbnail


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:なべたけいこ(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「救急車、よんでもらえませんか?」
 
玄関を開けると、隣の部屋に住む老婦人が立っていた。
 
去年の夏、暑い昼下がりだっただろうか。
 
最初に玄関先で応対したのは、夫だった。普段は頭脳明晰、冷静沈着なはずが、見るからにあたふたしている。突発的な緊急事態は苦手なようだ。交代して私が話を聞くことにした。
 
許可をもらい隣人の部屋に入り、玄関の框に座ってもらった。私は、夫にスマホとメモとペンを持ってくるよう指示した。
 
隣人の老婦人Sさんは、頭が痛く、フラフラする、寒気もすると言う。ただ意識ははっきりしていて、言葉も流暢だ。視線や呂律の異常、体のどこかが強く痛むなども見られなかった。
持病についても訪ねた。「特にない」とのことだった。
 
窓は開いているものの、冷房が入っていない。熱中症を疑った。後から知ったことだが、Sさんの部屋のエアコンは数年前に故障し、その後は設置していなかったらしい。確かに、風通しのいい部屋ではあるのだが、どうしようもなく暑い無風の日は我慢して過ごしていたのだろうか……。
 
私はスマホから#7119に電話をかけた。救急車を呼ぶか迷った時にかける救急センターの番号である。ただし得られた回答は、「現在看護師が他の電話に対応中のため判断ができない」だった。救急センターとはいえ、いつでも医療関係者が適切な判断してくれるわけではないらしい。
 
こうなると、選択肢はひとつ。私は、119に電話をした。
救急車であること、Sさんの状態とわかっている情報、自分が隣の部屋の住人であること、住所とマンション脇の道は一方通行であることなどを伝えた。5分ほどで救急隊員の方達が到着した。
 
だがSさんは、「大変申し訳ないのだけれど……帰ってもらうことってできるのかしら」と言い始めた。
私たちと話していくうちに気分が落ち着き、症状が改善されたらしい。救急隊員の方達と一緒にSさんの話を聞いていくと、ストレスが……と、こぼし始めた。
Sさんは80代で、ご主人と二人暮らし。息子さんはすでに結婚し、現在は関西にいるそうだ。ご主人は数年前に痴呆であることが発覚し、現在はSさんが一人で介護をしている状態だった。部屋の中にいたご主人は、ボーッとテレビを眺めていて、玄関先で起きている緊急事態にも我関せずの状態だった。
 
救急隊員の方は、病院を探す手配をしてくれたが、結局搬送せずに帰っていった。帰り際にSさんに「具合が悪くなったら、いつでもよんでくれて構わないですからね」と伝えて、引き上げていった。
 
この日は、「遠くの親戚より、近くの隣人」という言葉の意味を体感した。隣人としてできることは限られる。でも、何かあった時に「助けを求められる人」が隣にいることと、「助けの求め方」を知っていることは、少し気持ちが楽になり生活を送れる人もいるのだと思う。そのためには、普段からコミュニケーションが大切だとも感じた。
 
なんの由縁かわからないが、私が救急車をよんだのは3度目だった。医療従事者ではないのだが、なぜか偶然出くわすのだ。
 
1度目は、大学生の時だった。友達と道を歩いていたら、前を歩いていたおじいさんが転んで縁石に頭を打ち付けた。みるみるうちに側溝が赤く染まっていく。衝撃の光景に私は立ちすくんでいたが、友達が発した「流石にこれは助けないとまずいよね」と言う言葉でハッと気がつき、通りがかりの人たちと協力しながら、おじいさんを介抱して救急車を呼んだ。後日ご家族から、おじいさんは無事だった、ありがとうございました、と連絡をもらった。
 
2度目は、それから数年後、社会人1年目の時だ。その日は休日で、私は家でくつろいでいた。すると同じマンションに住む、母と仲の良い老婦人が慌てた様子でやってきた。
「主人が……背中が痛いって……本人は大丈夫だと言うけれど、念のため救急車をよんでほしい」
私は、即座に救急車をよんだ。普段なら少し話を聞きそうなものだが、いつも穏やかでおっとりした婦人が血相を変えてやってきていて、なんとなく嫌な予感がしたので、躊躇なく119に電話をかけた。数分後に救急車がきて、担架で担がれ救急車へと乗せられた。後から伺った話だが、救急車に乗ったあとすぐ意識不明となり、そのまま意識が戻ることはなかったそうだ。大動脈解離だったらしい。
 
3度の経験を通じて、緊急事態に直面した時に最も重要なのは、冷静な行動と、情報を正しく伝えることだと思う。目の前の状況に気が動転してしまったり、恐怖で体が動かなかったりすることもあるだろう。でも、自分が行動することで目の前にいる人の命が助かるかもしれない、ということは思い出すようにしたい。
 
高齢者がSOSを出した場合は、よっぽど軽症ではない限り、すぐ救急車を呼んでもいい、ということも言える。素人判断でモタモタしている間に、事態が深刻化することもありうる。Sさんのように搬送されずに救急車に帰ってもらうことになったとしても、「何かあった時には救急車を呼ぼう」と安心感を持って生活できることに繋がるのではないだろうか。高齢者の中にはそれを必要としている人がいると、私は思う。
 
近くに知り合いがいることも必要なことだと思う。私が大学生の時に救急車をよんだ時は、たまたま民生委員さんが通りがかり、どこの家のおじいさんかすぐに判明した。都市での生活は、近隣との関係が希薄になりがちと言われるが、特に高齢者が近隣にいる場合は、誰かが気にかける必要があると思うし、人と人との関係はなくしてはならないと感じている。
 
先日、Sさんの部屋に業者が来ていた。エアコンの設置工事らしい。真夏になったら、隣の部屋の室外機がちゃんと動いているか、確認は忘れずにしたいと思っている。
 
 
 
 
***
 
この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」を受講した方が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。
 

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

 

お問い合わせ


■メールでのお問い合わせ:お問い合せフォーム

■各店舗へのお問い合わせ
*天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。


■天狼院書店「東京天狼院」

〒171-0022 東京都豊島区南池袋3-24-16 2F
TEL:03-6914-3618/FAX:03-6914-0168
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00
*定休日:木曜日(イベント時臨時営業)


■天狼院書店「福岡天狼院」

〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階
TEL:092-518-7435/FAX:092-518-4149
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00


■天狼院書店「京都天狼院」

〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5
TEL:075-708-3930/FAX:075-708-3931
営業時間:10:00〜22:00


■天狼院書店「Esola池袋店 STYLE for Biz」

〒171-0021 東京都豊島区西池袋1-12-1 Esola池袋2F
営業時間:10:30〜21:30
TEL:03-6914-0167/FAX:03-6914-0168


■天狼院書店「プレイアトレ土浦店」

〒300-0035 茨城県土浦市有明町1-30 プレイアトレ土浦2F
営業時間:9:00~22:00
TEL:029-897-3325


■天狼院書店「シアターカフェ天狼院」

〒170-0013 東京都豊島区東池袋1丁目8-1 WACCA池袋 4F
営業時間:
平日 11:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00
電話:03−6812−1984


2020-06-06 | Posted in メディアグランプリ, 記事

関連記事