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この世で会う最後の女となりました


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:西田千鶴(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
その日、私は葬式を取り仕切っていた。
 
会場には、お坊さんと私の二人きり。亡くなったのは90歳男性。お坊さんのお経を聴きながら、ふと「もし知らない人がこの様子を見たら、後妻業か?と思われるかもしれないな」とぼんやりと考えていた。残念ながら、亡くなったのは、私の夫ではない。そして親戚でもない。
 
なぜ、親戚でもない人の葬式をたった一人で取り仕切っているのか?
 
それは、私が成年後見人という仕事をしているから。
 
成年後見人とは、認知症などで、判断能力が衰えてしまった方の代わりに、お金の管理をしたり、病院などの手続きをしたりして、本人を守る人のこと。法律では、成年後見人の仕事は「財産管理と身上監護」と二言で終わっているが、実際には、その二言ではとても収まりきれない仕事が待ちかまえている。
 
今回の男性の場合は、本人が生きているうちから、親戚の方に一切関わりたくないと断られていた。葬式も供養も全部終わってから連絡をくださいと言われた。そうなると、後見人が全てやらなくてはならない。
 
結局、葬式の手配から、お坊さんの段取り、さらには、火葬場へ付き添い、お骨拾い。そして、お骨をお寺に収めるところまでを、私がすることとなった。
 
こういう話をすると、「大変ですね」とか「大したお金にならないのによくできますね」と言われるけれど、私はこの仕事が嫌いではなかったりする。むしろ、後見人をやっててよかったと思うくらいである。それは、私がその方たちから、たくさんのことを教えてもらったと思っているから。
 
その方たちがよく話してくれたのは、若かりし頃のこと。
5人もの弟妹を女手一つで育ててきたしっかり者のお姉さん。ご主人と大恋愛の末に結婚された女性。ミシンの仕事で工場一になった女性。70年前に女性では珍しく数学教師になった方……。みなさん、懐かしそうに何度も何度もお話をしてくださる。人生は一人ひとり違うものだから、誰一人として同じ話を聴くことはない。一人一人の話に耳を傾けていると、それぞれの方たちが生きてきた道が私にも見えてくるのだ。
 
さらにお見舞い、看取り、お葬式、供養……。と親戚や家族のように関わっていくと、本当はその方と縁がつながっているんじゃないか?という錯覚を覚えてしまうくらい、その方の生きてきた人生が、私の中に、刻まれていく。
 
今まで、後見人として、10人ほどの方を見送ってきて思ったことがある。
 
人には生きる意味なんて必要ないんじゃないか、と。
 
人の命は先祖から受け継いだ時から死んでいくまで自然の流れに乗ってサラサラと流れている。だから、流れに逆らって無理にがんばらなくても、その流れに沿って生きているだけでいいんじゃないかと。先輩方の生きてきた姿を見るだけで、自然に周りの人間が取り込んで学んでいくもの。実際に、私は、後見人をした方たちから、いろんな生き方があるということを学んだから。
 
無理に誰かの役に立とうとしなくてもいい。
 
生きているだけでいい。生を次に生きていく人につなぐだけで生きている価値がある。
 
年を取っても
記憶が衰えてポンコツになっても
誰かの世話にならなきゃいけなくなっても
体が動かなくなっても
病気になっても
孤独に生きることになっても
家族がいなくても
 
例え、どんな状況であろうとも、人には生きていく力があるし、誰かのサポートが入るから大丈夫だと、後見をした方たちの生きる姿から教えてもらった。
 
先祖からの思い。親からの思い……。生まれる前からの命の流れを受け継いで、私たちは今の世界を生きている。命をつなぐのに、血のつながりは関係ない。生きる姿を見せていれば伝わる。私が、後見人をした方たちから思いを受け取ったように。受け取った思いを大切にしながら、今を生き、さらに次の世代に命の流れをつなげたい。
 
後見人として、何度も人の死に立ち会っていると、自分の時はどうしてほしいんだろう?と自然に考えるようになった。人は、見えないものがあると不安に感じるものだ。私も以前は死ぬことなんて、怖くて考えることもなかった。しかし、これだけ死の状況に直面し続けてきたら、死に対する恐怖もなくなってきた。もしかしたら、私だって、縁もない誰かのお世話になり、親戚でもない人にお骨を拾ってもらうことだってあるかもしれない。そんな時、お骨を拾いながら、どんな言葉を言ってほしいのだろうか? と考えてみた。
 
出てきた答えが、私の骨を拾いながら、「あのババア、好き勝手しやがって。だけど、なんか楽しそうだったね」と言ってもらうこと。次の世代に生きる人には、先祖の思いとか、歴史にとらわれずに軽やかに生きてほしい。だからこそ、私も軽やかに死んでいきたいと思う。
 
 
 
 
***
 
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2020-06-06 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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