メディアグランプリ

バランスがいい人生からの脱却

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:すがわら かずえ(ライティング・ゼミ通信限定コース)
 
 
「バランスがいいですね」
 
上司や部下から、私に向かって言われた褒め言葉だ。
この言葉をもらえるたびに心の中でガッツポーズをしていた。
「よし、今日も自分の思っているようにふるまえた」と。
 
私は仕事でも私生活でも波風が立つのがあまり得意ではない。気分の波の激しい祖父との幼少期の生活が原因なのだろうと思うが、機嫌や気分で言うことが変わる人や褒める内容や怒る内容が変わる人がものすごく苦手だ。自分の体調による好不調の波もどうしても好きになれない。女性であるため、月に1度程度訪れる月経前後の気分の浮き沈みも苦手だ。
 
とにかく、仕事でも私生活でも調子を一定に保ちたかった。
 
調子を一定に保つため、一番手っ取り早い方法は自分の調子を一定にすることだった。職場にはたくさんの人がいる。当たり前だが性格は人それぞれだ。短気な人もいれば、呑気な人もいる。どんな人と接するときも、どんな状況になったときも、自分の気持ちの受け方さえコントロールできればいいわけである。
 
まず、私は怒ることをやめてみた。怒るということは非常に力を使う。相手を変えたいという思いからくることが多いと思う。もはや諦めにも近いと思うが、相手からどんな理不尽なことを言われても、けなされても聞き流すように努力した。
 
次に、嫉妬することをやめた。うらやましいという気持ちもエネルギーを使う。嫉妬は次のステップへ進む重要な要素でもあるが、波風を立てる大きな原因でもある。自分の気持ちを一定に保つにはあまり好ましい感情ではなかった。できる限りの嫉妬をやめてみた。人は人、自分は自分を徹底した。「自分のできることを自分のできる限りで行う」をモットーに淡々と仕事をしていった。
 
怒ることと嫉妬することをやめた効果は絶大だった。自分の気持ちに波風が立たない。様々なことを穏やかな気持ちでこなすことができる。どんな上司、部下、同僚とでも落ち着いて、安定した仕事をすることができるようになっていた。
どんな人とでもどんな仕事も穏やかにこなす私はバランスがいいと称されることが多くなっていった。
はじめのうちはとてもうれしかった。求めている自分になれたと誇らしかった。
バランスがいい人生は安定しているかのようだった。
 
しかし、誰とでも安定して働けるということは、どこへでも行かされるという面も孕んでいた。私の人事異動は頻回だった。穏やかな職場に行くこともあったが、それは稀で、誰もがあまり行きたがらない職場に出向を命ぜられることが多かった。もちろん、うまく立ち振る舞うことはできるので仕事には支障はきたさない。自分のコントロールもできるから、鬱になったりもしない。仕事もそこそこできて、人付き合いにも問題ない、弱音も全く吐かない、私は組織にとって便利な駒になっていた。
 
便利な駒になっている自分に、気づかされる出来事が訪れた。
今年の2月、突然の人事異動、しかも誰も行きたくないと思われる職場への異動を言い渡されたのだ。
 
その人事異動について予期はしていた。突然辞める人が出て、急遽人材が必要になったのだ。多分、その職場に出向いてそつなくこなすことができる人は限られている。私はその一人であった。しかし、その直前の面談のような場で、今年の人事異動はないと話されていた。その言葉に安心して、新しい企画のようなものなどをすすめてみようとしていた矢先だった。どんでん返しだった。さすがに申し訳ないという人事異動ではあったようで、上司からはお礼の言葉やねぎらいの言葉をたくさんかけられた。何一つ私の耳には残らなかった。何かが自分のなかでぷつっと途切れた。
 
「なんで私だけこんな風になってしまっているんだろう」
 
怒りと嫉妬を久しぶりに感じた。
 
「バランスがいい人生だけでは他人に振り回され続けるだけだ」
 
気付くのが遅かった部分もあると思う。怒りや嫉妬をごまかし続けてきたこと自体に無理があったのだ。怒りや嫉妬をないものにしようとするあまり、私は自分の希望すらほとんど上司や職場に伝えることがなかった。波風が立たない生活を求めるあまり、自分の意思すら消していた。このままではいけない、自分のために生きることができなくなる、と痛切に感じた。
 
結局、人事異動は速やかに快諾した。新しい職場でも相変わらず波風立てないようにと働いている。でも、少し変わったことがある。怒りと嫉妬を自分の中で少しずつ受け入れるようにした。理不尽なことへの怒りはきちんと表すようにしているし、うらやましいという気持ちも受け入れて次へのステップにしようと思い始めた。自分を守るため、自分のやりたいことを通すための言葉も少しずつ発するように心がけている。長年培ってきた怒りと嫉妬を消す技は大いに磨かれているため、かなりのエネルギーを要する。でも、ちょっとずつ変わっていこうと努力している。バランスがいい人生は楽だったけれど、自分を守るための人生も大切なのだから。
 
 
 
 
***
 
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2020-06-11 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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