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メディアグランプリ

「アイツが嫌い」と知るまでの壮絶


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:半崎いお(ライティング・ゼミ通信限定コース)
 
 
「一度知ってしまったら知る前には戻れない」ってことは意外とあります。
 
知ってしまったらもう、元の状態には戻れない……たとえば「ちょっといいお店のコーヒーを飲んでしまったらスーパーで買ってた安い豆がおいしいと思えなくなってしまった」なんてよく起こりますが、知ってしまった後はそのコーヒーのどこがおいしいと思っていたのかがてんで思い出せなくなってしまいます。
 
でも、それは強い記憶で上書きされて忘れているだけなので妙な時にいきなり戻ってきて自分に襲いかかってきてしまうことがありえたりするのです。「え? コーヒーなんてスーパーのあれで十分うまいじゃん」ってとくとくと語っていた自分を思い出しちゃうとかそういうやつです。
 
ええ、最近わたしにもありました。
お風呂場でめっちゃ久しぶりに見ちゃったんですよね、かつて全く気にしていなかったものを。
 
この時期ですもんね。
だんだん暖かくなってきてジメジメとした梅雨がやってくるこの季節。
そう、虫が動き始めるこの時期です。
 
虫。
 
外にいれば襲ってこない限りなんのことはないし気づきもしないのに家の中にいるだけで人間の完全な敵となる、虫。そのなかでも人間に最も忌み嫌われていると言われても過言ではないのが「ゴキブリ」です。あの動き、速さ、神出鬼没さ、形……なにをとっても、人間に対して不快もしくは恐怖となるアイツです。
 
もともと奴らが生息していない地域出身で知らなかったとかいう話ではありません。「見たことなかったからなんとも思ってなかったけど、一度見ちゃうと気持ちが超わかるー! あれダメ怖い嫌だー!!」ってことを語るような生やさしいおはなしではないのです。
 
本日いま、わたしが語っておりますのは「知らなかったときのことを考えると、恐ろしいしもうそんな世界には戻れない」そんなお話です。
 
なにを知らなかったかってアイツたちのことじゃありません。
わたしは「普通の生活」をしらなかったんです。
 
はい。つまりわたし知らなかったんです。
普通の家ではゴキブリがいないほうが当たり前なんだってことを。
ゴキブリって1匹いただけでギャーッて大騒ぎするようなもんなんだってことを。
しらなかったんですよ、かつては。
 
そうです。
わたしの育った家には、あいつらがたくさん、いたのです。
虫が、あいつが普通に毎日いるくらい「汚なかった」のです。
 
育った家があったのは千葉県の巨大公団の一部屋で一般的な家族構成でしたが自分の家がどこか他の家と違うなというのは感じていました。家にだれかが遊びにくることはあまりなく誰かの家に遊びに行くこともあまりなかったためか、自分の生活環境がとても汚いことに気づいたのはかなり大きくなってからでした。
 
高校生くらいになるまでテレビに映る誰かの部屋は、撮影用にプロがめっちゃ掃除したもので、ドラマにでてくるような片付いた部屋はフィクションだし、芸能人お宅訪問は使用人がいるからきれいなのだろうと本気でおもっていました。家政婦さんでも雇わない限り、大金持ちでもない限りそんなことはできないのだ、そう言い聞かされてもいた様に思います。
 
普通は食卓面積をほぼ100%使える状態が当たり前だなんて全く知らなかったのです。
食事の前には、食卓の上のものをまずどかして、それからたれた何か等をふく作業が毎回必要でしたし、それでも卓の30%から50%程は何かが置いてあって使えません。玄関から部屋に移るまでの道も、何かを踏まねば辿り着けず、キッチンには常に何かが積まれていましたので、なにかをどければそこにたれた何かの汁、ざらつく何か、チラつく足の速い虫や小さい虫がいるのが当然の環境だったのです。
 
高校時代のある日に友人の家を訪れることがあり、そこを見て驚嘆しました。めっちゃきれい。一切散らかってないし、何も落ちてない。こういうのリアルにやってる人、いたんだ! と。これは一朝一夕でこんな風になっているんじゃないぞと、この環境を保って生活しているのだと、気づかされたからです。
 
大学に入り一人暮らしをしたときにも思いました。皆の部屋がとてもキレイだったのです。世間一般的にヤバイと言われるであろう男子大学生の部屋でもわたしから見たらめちゃくちゃきれいで心の底から驚いたと同時に自分のいままでの暮らしがとても恥ずかしくなってしまいました。本当に知らなかったのです。母も片付けも掃除機もかけていましたし、わたしも何度も何度も片付けなさいと言われて育ちましたが、できたことはありませんでした。というより「片付けた」というレベルがあんまりにも違いすぎていました。わたし、片付けられた家で暮らしたことがなかったんですもの。そりゃ見たこともない知らないものは再現なんてできません。
 
その後なんとか少しづつ「片付ける」ということをひとつひとつ覚え、探し物や歩行に人生のエネルギーを奪われないで済む生活と汚部屋のデメリットを十二分に思い知りもう二度とあの暮らしには戻りたくないと思える様にまでなりました。
 
そんな生活改革を終えたのち、久しぶりに実家に帰って泊まったら久しぶりに出会った奴らの姿に戦慄し、実家のそこここに漂う悪臭やゴミに泣きそうになってしまったのです。わたし、今までどんなとこで暮らしてたの……??
 
一度怖い、キモいとなったらもう「その辺にいる虫でしょ? 別にいるだけだしあんまり気にならない」という境地には戻れません。壁に張り付いてるそいつにヒイィと叫びますし、ちっちゃいのがうろうろしてたらウエェとなります。邪魔だからって手で潰したりもできません。
 
今ならわかります。
わたしは単純に自分がその虫が嫌いなことを知らなかったのです。
いることが当たり前すぎて、判断すらできていなかったのです。
 
現在「ゴキブリが嫌いだと知って」生活がめんどくさくなったなぁとは感じているんですけどね。だとしても、戻りたくはもうないです。もう絶対に戻りたくはないです。
 
「子供時代からの当たり前」って怖いです。知らないって、怖いです。
嫌うことも、怖がることも、できないんですから。
少なくとも自分の子らには社会で共有されている「最低限これくらいはしとこうね」という基準に合致する様な暮らしを提供しなくちゃいけないのだなという思いをあらたにさせられてしまいました。
 
きみたちには私の轍を踏んでほしくはないのです。
実家に帰ることに恐怖感を持つようにさせたくもないのです。
 
「人のふり見て我がふり直せ」
せめて一般レベルに擬態するくらいのことは、貫いていかなければねと、考えさせられたのでした。
 
 
 
 
***
 
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2020-06-12 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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