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厳しい祖父から未来の私への贈り物


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:宮前純子(ライティング・ゼミ通信限定コース)
 
 
子供の頃に受け取った贈り物をようやく開けることができました。
送り主は祖父です。
 
私の祖父はとても厳しい人でした。
食事の作法から、言葉遣い、挨拶まで。
とにかくよく注意されました。
特に厳しく言われたのは、食事の作法でした。
箸の持ち方から食べる順番、きれいに食べることまで……
 
幼いころの私にとって、魚が食卓にあがった日は一番の苦痛でした。
切り身ではなく、一匹まんまの魚。例えば、アジの塩焼きやカレイの煮つけです。
骨からキレイに身をはがすことができず、モタモタしている横で、祖父はまるで魔法でも使っているかのような所作で魚を食べているのです。
そして、少しでも魚の身が骨についていようものなら
「最後まできちんと食べなさい」
最後まで食べるのに、時間がかかりすぎて、何度、見たいアニメを見逃したことか……
子供の頃の私には、祖父を苦手になる理由がそこかしこにありました。
 
しかし、小学校も高学年になると、祖父との食事の機会はほとんどなくなりました。
中学受験のために塾通いを始めたからです。
塾から帰るのは早くて9時半。
家に帰ってからご飯もそこそこに、復習しなければなりません。
そんな生活リズムの変化で、祖父と顔を合わせることは減っていきました。
中学になると電車通学が始まり、帰りは8時を回ることもしばしば。ますます祖父と顔を合わすことは減って、注意されることも無くなっていきました。
 
祖父は、私が中学校3年生の時に亡くなりました。
その時、寂しかったのか悲しかったのか、もう思い出すことはできません。
ただ、15歳の私には、「おじいちゃんは死んでしまった」 という現実がイマイチ掴み切れずにいたことは確かです。
 
社会人になり2年が経ったころ、社内プロジェクトのメンバーの選抜試験に応募しました。「出世の登竜門」と言われるそのプロジェクトは、入社5年目までの若手社員が中心となる一大イベントでした。
私は、熱血社員でもエリート候補生とも縁遠い社員でしたが、自分を変えてみたいと思い申し込んだのです。
その試験が行われたあとは、懇親会が行われることになっていました。
52名の若手と各部署の部長と副社長、そして社長。会場は、懇親会と言いつつも、最後のアピールの場と化していました。社長や部長たちが各テーブルを回り、参加者たちと懇談していました。
 
社長が私たちの席にもやってきました。
同じテーブルの仲間たちは、わずかな時間を惜しむように、アピールを続けていました。しかし、私は彼らの熱気に気後れして、相槌を打つことしかできませんでした。
「これは、もうダメだ」
そう思って、あきらめていたのですが……
 
数日後、思いがけないことに、「プロジェクトのメンバーに選ばれたので、至急部長室に集合するように」と連絡がありました。面接を見に来ていた上司も、何が良かったのか分からないと首をかしげていました。
急いで部長室に行ってみると、社員証を見た部長が一言、
「あー、君か。魚をきれいに食べてたのは」
何のことだか分からずに、キョトンとしていると
「いやぁ、社長はね、釣りが好きでね。懇親会の帰り、『魚をきれいに食べていた社員がいた。彼女もメンバーに選抜しよう』と言うんだよ。社長も期待してるからね、頑張って」
私が選ばれたのは、魚の食べ方?! まさかそんな……
嬉しいような、嬉しくないような。そんな複雑な気持ちでした。
 
その帰り道、大学時代から仲の良かった友人に電話をかけました。
「メンバーに選ばれたよー」
「えー。良かったじゃん!」
「それがさ、そうでもなくて。選抜の理由は、魚をきれいに食べてたから、らしいよ」
「そっかー。でもそれってさぁ、人間性を褒められたってことだよね? 逆にすごいよ。確かにさ、私も純子の食事の所作ってきれいだなって思ってたよー」
褒め上手な友人がそこまで言いかけた時、思いがけず涙がこぼれてきました。電話の向こうの友達は急に泣き出した私に、慌てていました。
「褒めてもらったことが嬉しくて」
とお礼を言って急いで電話を切りました。
 
家に帰って、祖父とのことを思い出しました。
しつけに厳しい人でしたが、それと同じくらい優しい人でした。
私が、塾のテストや書道でいい成績だったことを報告するととても喜んでくれました。
そして何より、祖父はいつでも一貫していました。
昨日は良かったけど、今日はダメ。そんなことはありませんでした。
そんなことを思い出していると、また涙が出てきました。
そして、いつの間にかとめどなくあふれる涙が止まらなくなりました。
おじいちゃんはいつだって私のことを考えてくれていたのに……
「子供の頃から厳しく言ってくれていたことは、私の未来への贈り物だったんだ。ずっと気が付かなくてごめんなさい」
 
みなさんの所にも、未開封のまま眠っている贈り物はありませんか?
 
 
 
 
***
 
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2020-06-13 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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