fbpx
メディアグランプリ

夏の日の想い出


11828639_1615050112087407_1820204360257714384_n

記事:山田将治(ライティング・ラボ)

 

毎年夏に成ると想い出す事が有る。

その前に、
日本人は往々にして、大きな事件や災害が起こると、以前の事件や災害を語らなくなる。
東日本大震災が、2011年3月11日発生した。筆舌に尽くせない大災害だ。このことに、異論を挟みこむ余地は無い。
しかしこれにより、以前は毎年語られていた、1945年3月10日の東京大空襲の影が、薄くなってしまったと感じる。
私は、東京の下町っ子なので、幼少期から東京大空襲の生の話を聞かされてきた。直に被災された人々の話を。多分、反戦精神は、その頃から養われてきたと感じている。
戦争は明らかな人災であり、天災と違い避けられると信じている。

もう一つ、
往々にして、海外での事故や災害の際、日本のニュースでは
「因みに、この事故(災害)で日本人の死者はありません」
などと、情報を付け加える。
私は、著しい違和感を禁じ得ない。人間の命に、人種的軽重は無いと信じているからだ。

 

1985年8月の有る日、私の工場(麺類製造工場)では、製麺機械更新の真っ最中だった。私の望みに合う仕様の機械がなかなか見付からず、春に行う予定の入れ替えが、夏まで延びてしまっていた。しかも、私の好みに最も近い機械を製造する会社は、関西に居を構えていた。横浜の代理店を通じ、やっとの思いで発注した機械だった。
やって来た機械は、細かい部分の仕様が既存の機械と合わず、設置に大変苦労した。当初予定していた、3日の工事期間はあっという間に過ぎ、最後の残務整理と機械の清掃殺菌は、翌日の早朝に持ち越すことになった。そう、食品製造工場に余分な休みは無いのだ。
機械屋さんの社長さんを含む3人は、もう一泊する事を決断し、代理店の計らいでその晩は横浜中華街で、一足早い打ち上げをすることになったらしい。

その日の夜8時過ぎだったと記憶している。
工場で片付けをしていた私は、けたたましい電話の呼び出し音と、電話の相手のただ事ではない様子に驚かされた。電話の相手は、こちらの名乗り出も確認せず、一気に

「す、すみません。弊社の社長は何時頃、御社から撤収しましたでしょうか」

と聞いてきた。
私は何の事かすぐには理解出来なかったが、機械屋さんがもう一日遅れて帰阪する事を思い出し、こう答えた。

「あぁ、申し訳無いことです。私どもの説明不十分で設置に手間取り、明日の朝迄こちらに居て頂く事に成ってしまいました」

電話の向うの女性(多分、社長さんの奥様)は、何か安堵したように

「そうですか! 確かにまだそちらに居るのですね? 」

と、尋ねてきた。「ハイ、間違いありません」と、この晩の顛末とその後のことを手短に伝えた。
何度も何度も礼を伝えながら、その電話は切られた。

夜の10時過ぎ、やっと入浴を済ませた私は、夕食を取りながらテレビでその日初めてのニュースに接した(インターネットも携帯も夢のまた夢だった時代)。
ニュースキャスターは、緊張の面持ちで日本航空のジャンボジェット(これももう退役した)が、何らかの原因で連絡を絶ち、墜落した模様であると伝えていた。多数(実数は乗客乗員520名)の死者が出ている模様とも、言っていた。
確か、機械屋さんの一行は、当初は最終便で帰ると聞いていた。
先程の不思議な電話の合点がいき、代理店(自宅へ)へ直ぐに電話をした。同時に、機械屋さんの社長さんと社員さんの無事も確認した。会社への連絡も頼んだ。

事故は、翌日になってその悲惨さがあらわになった。日航機は、群馬県の御巣鷹山に墜落した形で発見された。
早朝に再会した機械屋さんの社長さんは、開口一番

「御社のおかげで、命拾いしました」

と、仰った。この発言はその後、展示会等で再会するごとに聞く事になった。
私はその度に、少々複雑な気分になった。
何故なら、夏休みの真っ最中の最終便(当時)の事故である。当然、キャンセル待ちの人が大勢居たことは、簡単に想像できる。社長さん達は、急に搭乗しなかったのだから、きっと代わりの人がその飛行機に乗り、そしてあの事故に遭い亡くなったと思われるからだ。

 

命に軽重なんて無い。しかし、
もし、その日航機に機械屋さんの代わりに搭乗したのが、あの『上を向いて歩こう』の坂本九(この事故で逝去)さんだったら、国中の恨みを買うかのような感覚になってしまう。
何故だろう。
自分でも、不思議だ。

毎年夏になると、30年前のあの事故を想い出す。

 

〈追記〉
30年前に弊社に設置されたこの機械は、現在はその役目を終え、その後奇しくも、福島県浪江町で被災した同業社の復興工場で、現在でも元気に活躍していると伝え聞いている。

 

***
この記事は、ライティングラボにご参加いただいたお客様に書いていただいております。
ライティング・ラボのメンバーになり直近のイベントに参加していただくか、年間パスポートをお持ちであれば、記事を寄稿していただき、店主三浦のOKが出ればWEB天狼院の記事として掲載することができます。

【天狼院書店へのお問い合わせ】

TEL:03-6914-3618

【天狼院公式Facebookページ】 天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。イベントの参加申し込みもこちらが便利です。

【天狼院のメルマガのご登録はこちらから】

メルマガ購読・解除

【有料メルマガのご登録はこちらから】

バーナーをクリックしてください。

天狼院への行き方詳細はこちら


関連記事