本当に大切なことを大切にするために
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記事:楠林いずみ(ライティング・ゼミ平日コース)
わたしには、7歳の息子がいる。
母になって7年になるが、子育てをとおして、これまで想像もしていなかった経験をし、様々な感情を味わっている。
成人までの道はまだ半分にもならないが、振り返ってみると、わたしにとって子育ては、断捨離のようなものだと言える。
断捨離とは、提唱者のやましたひでこさんによると『ものの片付けを通して自分を知り、心の混沌を整理して、人生を快適にする行動技術』とある。
まさにわたし自身が『子育てを通して自分を知り、心の混沌を整理して、人生を快適にする行動技術』を身につけてきた。
妊娠したときからそれは始まった。
その時わたしは会社員で、いわゆるキャリアウーマンだった。
出張にはしょっちゅう行っていたし、ピークで忙しいときは、ギリギリまで会社のパソコンにかじりつき、終電に乗り遅れないように駅まで走るような日々だった。
新しい生命が宿ったと知ってから、あんなに一生懸命にやっていた仕事が急に鮮やかさを失い、この小さい生命をどう守り、どうこの世に迎えるのかということに夢中になった。
この子の母は世界でわたし一人だけだが、その仕事をするのは、わたしでなくても良いのだと、わかってしまったのだ。
産休育休に向けて、担当していた仕事を少しずつ同僚に任せ、自分の体調を守ることを最優先事項とした。
仕事で貢献したいとか、認められたいとか、そんな想いよりも、子育てを大切にすると決めたのだった。
息子が生まれてから1年は、無我夢中で目の前の新しい生命を守り育んだ。
何もかもが初めてのことで、おっかなびっくりでオムツを変え、乳を与えた。
子育てだけで一日が終わる。
他のことは何もできない。
それでも仕方ないと思うしかなかったのだが、そんな毎日でも息子がかわいくて仕方ないほどに、自分に母性があったことに自分で驚いた。
息子は、自分の思い通りにしないと納得ができないし、納得ができないと次に進めないというタイプである。
何をするにもマイペースで、親の言葉も耳に入らない。
自我が芽生えた後は、息子のペースに振り回されっぱなしだった。
職場復帰をすると、会社員である以上、守らなければならない時間が常に存在していて、時間に縛られ、時間に追われた。
今思えば、わたし自身がマイペースで時間を守ることに四苦八苦するタイプだったので、尚更である。
朝は息子を急かして準備をし、保育園に送った後は駅まで走る。就業時間が終わったらすぐに駅まで走って電車に乗り、保育園に迎えに行き、寝るまでバタバタするという毎日。
身体も疲れていたし、心も疲弊していった。
こんな毎日がいつまで続くのだろうかと、途方に暮れた。
ざっと考えても、子どもが中学を卒業するまであと10年はこの調子だ。
無理だと思った。
マイペースな息子を責め、時には大きな声を出し、時間を管理できない自分を責めるばかりになっていく。
心に余裕がなくて、自分をコントロールせねばという思いが空回りし続けた。
それでも、大切にしたいことは忘れていなかった。
初めから変わっていない。
息子に、彼らしくのびのびと育ってほしい。
イライラではなく、ニコニコで彼のことを待っていてあげたかった。
人生を取り戻すために、わたしは安定した収入もキャリアも手放して会社を退職することを決め、在宅で仕事をするフリーランスになった。
昨年、息子は小学生になった。
最初は楽しそうに学校に行っていたが、そのうち、一人で行きたがらなくなった。
小学生になったからには自分で自分のことができるようにさせねばと勢い込んでいたわたしは、手を替え品を替え、遅刻しないで学校に行かせようと促した。
始業前で忙しい担任の先生に電話して、「頑張って学校に来てね、待ってるよ」と声かけをお願いするようなこともした。
一通り手を尽くした後、ここまでやっても無理なら仕方ないと観念し、本人の気がすむようにさせた。
そうしたら、時間はかかるものの「行きたくない」と言っていた息子が自分で「行く」と言うようになった。
まだうまく自分の気持ちを言葉にできないが、学校が嫌だから行きたくないのではなく、家でやりたいことがあるから、まだ行きたくないと言っていたようだ。
学校に行くかどうかも本人次第でいいかと、常識もコントロールも手放して、本人に任せるようにしたら、学校を休むことはなくなった。
お互いに心の平穏が戻った。
このコロナ休校の期間で、また彼へのコントロールを手放した。
最初の頃は、せっかく一緒にいる時間を大切にせねばとか、一日一時間でも勉強させねばとか、運動もさせねばとか、色んな常識や正しさとの葛藤が押し寄せて来て、自分の仕事もあるなか、無理して付き合っていた。
でも、そうしても、わたしも息子も嫌な気分を募らせた。
2人ともマイペースで好きなことを好きなようにしたかったからだ。
だから、彼を見張ったり、コントロールしようとすることはやめると決めた。
それぞれが笑顔でいられる自粛期間になった。
子育てのおかげで、本当に大切なものを大切にするために、自分の中の常識や正しさ、損得勘定を少しずつ手放してこれた。
まだ握りしめているものもあるだろう。
息子を本当の意味で自由にできた時、わたし自身も自由になれるような気がしている。
***
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