万能ではないけどオススメ「リーダーは白ご飯」説。
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:いじち ようこ(ライティング・ゼミ平日コース)
「どうするんですか店長、早くディスプレイ指示ください! 私残業できないですよっ」
その日もパートさんに急かされていた。
これは一昔前、私がインテリアショップで働いていたときのお話。
転職3年目で店長になりたて、30歳代終わりの頃だった。
「ちょ、ちょっと待ってください、いまプラン作ってて……」
「時間もったいないから適当に始めちゃっていいですか?」
「う、ではお願いします……」
自信の無さから、語尾が小さくなる。
あぁ、また良いアイディアが浮かばなかった。自分の独創性の無さに悩んでいた。
好きな業界だったからコーディネートや接客の仕事は楽しく、充実した日々を送っていた。
それが前任のカリスマ店長の転勤で一気に流れが変わった。
全くキャラの違う私に後任がまわってきたのだ。
センスや実力でなったというより、独身で使い勝手が良いからだな……はぁ。
地方の、この店舗のメンバーは私の他に6人。
正社員・パートが混じり、年代・性別も色々、そしてキャラの濃いメンバー構成だった。
それが面白く、仕事仲間としてロッカーでおやつを食べたり、飲み会をしたり。
普通に仲良くやっていた。
それが店長になったことで、様子が変わった。
何であんたが、感が漂っていた。ように思えた。
つい前任の店長と比べ、際立つ個性のない自分に焦っていた。
不慣れな業務で残業も増え、一人暮らしの家へ寝に帰るだけの日々。
夢のような素敵インテリアを販売しながらも、自宅はグチャグチャ。
あぁ、私は何をしているのだろう。
そんな日々の心の拠りどころが、本屋さんだった。
帰りに毎日吸い込まれるように入っていき、ビジネス・メンタル・占い、とヒントになる本を求め、
買い漁っていた。それだけで、何かがんばっている気持ちになれたのだ。
タイトルは「信頼される上司」的なものが多かったと記憶している。
その日もヒントを求め、いつもの本屋さんをさまよっていた。
日中の立ち仕事でむくんだ足を引きずりながら。
そこで目に留まった一冊の本。そこに、このひと言があったのだ。
「リーダーは白ご飯」
何?! リーダーって芯が通っていて、言いにくいコトをズバっと伝えられる、そんな人じゃないの?
「リーダーは白ご飯のように、メンバーの個性(ご飯の友)を引き立てる存在であればよい」
どなたの言葉だったのだろう。本を手放してしまったのか、今となってはわからない。
都合よく解釈してしまっているのかもしれない。
ただ、その時求めていた言葉であったことは確かだ。心がスッと楽になった。
「そうか、白ご飯にならなれるかもしれない」
あらためて、メンバーを思い浮かべた。
「パンチのあるアイディアを持ってる、キムチさん」
「セレブ顧客様からのリピートが多い、極上明太子くん」
「お子様の扱い得意な、のりたまふりかけさん」
「人気者で顧客タイプの死角なし、塩じゃけさん」
「おとなしいけどセンスが光る、ちりめん山椒くん」
「みんなが煮詰まったときにさっぱりさせてくれる存在、梅干しさん」
……すごい、珍味ぞろいじゃないの!
それなら私の薄味は、むしろ強み。これからは白ご飯として、具材を美味しく引き立てることに徹してみよう。
グイグイ引っ張ることがゴールではなく、成果を出すことがゴールなのだから。
それから少しずつ店の空気が変わり始めた。
勝手に気負っていたモノを降ろしたせいか、メンバーと以前のように会話できるようになった。
すると店内の空気が軽くなり、風が通った。空気の重いところに人は集まらない。
新規のお客様も増え始めた。
日々色んなことが起こったが、場面ごとに「これは誰に頼んだらいいか?」とそれぞれの個性を考えながら、
担当を振り分けることを意識した。
「キムチ姐さん、次のミーティングの議題何がいいと思います?」
「新商品のディスプレイは、センスの良いちりめん山椒くんに任せます!」
「のりたまふりかけさん、あそこで走り回ってるお子様にお声掛けしてきてもらえますか?」
得意なことってこんなにも気持ちよく、受けて入れてもらえるものだったのか。
みんな心なしかイキイキしている。「最近楽しいです」とコッソリ伝えてくれる人も出てきた。
柄にもないのに、自分のアイディア一つで引っ張ろうなんてとんでもなかった。
強力な「ご飯の友」メンバーに感謝の気持ちが溢れた。
こうして白ご飯マネジメントのおかげか? 売上も少しずつ上向き、閉店が増えていた当時には珍しく、
その店舗は生き延びることができたのだった。
そのうちプライベートにもゆとりができて、部屋はスッキリし、リアルライフも充実してきたことを付け加えたい。
後日、前任のカリスマ店長と会う機会があった。
「私、『リーダー白ご飯説』に救われたんですよ!」と話したら、
「うわ! いいね白ご飯、私は絶対なれない。例えるなら激辛食べるラー油かな。好かれるのも嫌われるのも極端(笑)」
……そうだったのか。
カリスマ店長にも悩みはあったのだ。私は好きですよ、食べるラー油。
という訳で、この説は万能ではない。
自分の個性で引っ張るタイプのリーダーには響かないと思う。
けれど自分の持ち味がわからなくて悩んでいるリーダーには、一度「白ご飯」に徹することをお勧めしたい。
周りの個性的な「ご飯の友」達を引き立てつつ、一緒に「箸を止められない美味しさ」を作り出そう。
ニュートラルさが求められる場面は結構ある。
「あぁー白ご飯ほしい!」
そう声がかかった時こそ、あなた出番だ。
***
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