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ディズニーにカンパイ

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:朝木亜佐(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
旅のスタイルには、人それぞれの好みが反映される。名所旧跡を巡ったり、秘境を訪ねたり、グルメが中心だったり。私にとって印象に残っている旅は、現地の人と交流があったときのものだ。
 
20年以上前、北京で呉(ウー)さんというタクシー運転手さんと意気投合したことがあった。女友達との二人旅に、知人が紹介してくれた運転手さんだった。明るい人柄で、年が近かったこともあり、互いの言語が話せないのに筆談で盛り上がった。ウーさんが案内してくれた水餃子専門店で、日本では見かけないような餡の種類の豊富さに目移りし、勧められるままに何皿も注文して、動けなくなるまでたらふく食べた。そんな私たちをウーさんがニコニコしながら見守っていたことを、いまでも覚えている。
 
ところが「アジアで食べ歩きとか、全然する気にならんわ」と、辛口な友人もいる。衛生面が気になって楽しむどころじゃないと言う。こだわるポイントは各人各様。自分にとって価値あることが、他人にとってそうだとは限らない。頭ではわかっているつもりだ。しかし心の底から理解できているかというと、ちょっと怪しい。
 
それを痛感したのは、昨年ホストファミリーをしたときだ。オーストラリアの高校生が日本を体験するというプログラムの一環で、わが家は15歳の少年を数日間受け入れることになった。
 
「特別なことは何もしなくていいですよ」「ふだん通りの日本の暮らしを体験させてあげてください」プログラムを取りまとめる旅行代理店の担当者の言葉を、私はふむふむと素直に受けとめた。参加者は訪日に合わせ、日本語の初歩を学習したとも聞く。
 
私はハリキッテいた。すでに来日の前から、日本の社会や文化に関心を持つオーストラリアの少年の姿が、頭の中で勝手に立ち上がっている。ふつうの日本人の生活のどこを面白いと感じるのだろう? ぜひ聞いてみたい。日本で体験したいことは何だろう? 一緒に家庭料理を作って食べようか……。
 
滞在期間は4日間と短い。一般のツアーでは出来ないことを体験させてあげたい。好奇心や探究心を満たす十分な時間はないだろうが、日本の生活に触れられてよかった、面白かったと少しでも印象に残る滞在にしてあげたい、と思いを巡らせていた。勘違いしているとも気づかずに。
 
いよいよホームステイの初日。現れたのは、ややぽっちゃりとした体型の15歳。表情にはあどけなさがまだ残る。緊張のせいか、それとも元から無口な性格なのか、ほとんど口を開かない。話しかけても返ってくるのは短い一言だけで、まったく話がはずまない。何とか会話を続けようと次々に質問してみるものの、一問一答から発展する気配はなく、まるで尋問しているようで気が引けてきた。
 
なんか想像していたのと違うかも……かすかに違和感を覚えたが、「いきなり打ち解けろってのはムリか」と思い直し、その後は話しかけすぎないように気をつけた。しかし2日目、3日目と過ぎても、少年は自分から積極的に私たちと関わろうとする姿勢を一向に見せない。
 
「行きたい所や食べたいものがあったら遠慮せずに言ってね」と何度も促したが、「別に……」と素っ気ない。そして家の中では、ほとんどの時間、自室に閉じこもりスマホでゲームばかり。当初の違和感は、イラ立ちへと変化していった。
 
いったい何のために日本に来たのだろう? 日本の生活を体験したいのではなかったのか?
 
いま思い返してみれば、手がかりはあった。行きたい場所を最初に尋ねたとき、「ディズニーシーがおすすめだって言われた」と少年は口にしていた。しかしこちらは日本の文化を体験しに来たと思い込んでいるので、ディズニーの名前を出されても当然ピンとこない。たしかに魅力的な所だが、日本文化とは関係ないだろうとハナから決めてかかっていた。そのうえ少年の言い方はとてもさり気なく、私は本心に気づけなかった。センスのないホストマザーである。
 
それでも一応、毎日ささやかな外出をし、回転寿司やトンカツを食べ、家ではボードゲームで団らんする時間も少しは持った。「期待していたほど心が通う交流は出来なかったけど、相手はまだ15歳、大人同士のコミュニケーションとは勝手が違って当然か」私なりに納得しようとしていた。
 
最終日の朝、今日は浅草寺に行って、そのあと洋食グルメで締めようか……などとプランを練りながら、ふと、同じプログラムで来日している他の学生はどんな過ごし方をしているのだろうと気になった。「みんなは何してるか聞いてる?」少年に問いかけると、今日はディズニーシーに行く人もいると、とくに関心があるふうでもなく答えた。しかし何か引っかかるものがあった。
 
「もしかして、あなたも行きたいの?」
「別に……」
 
このホストマザーにはどうせ通じないとでも言うかのように、少年は無表情だった。ここは言葉通りに受け取ってはいけないのでは? 私は少し考えてから続けた。
 
「行きたいのなら、連れて行くよ?」
「ホント?!」
 
少年の顔がパッと輝いた。
 
その瞬間、私の中に溜まっていた疑問はスーッと解けていった。日本文化に関心のある外国少年という、私の勝手な幻想とともに。
 
旅の好みは人それぞれである。少年にとっては、他人同然の日本人の生活に触れることよりも、かの夢の国に遊ぶ方が、はるかにエキサイティングだったに違いない。別れぎわ、滞在中に一番印象に残ったことは? と問うと、「ディズニーシー!」満面の笑みで即答した。ディズニーと張り合っていたとは夢にも思わず、「おもてなし」に気を揉んだホストファミリー体験であった。教訓、妄想注意。思い込みには気をつけよう。ディズニーに完敗……いや、乾杯だ。
 
 
 
 
***
 
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2020-07-10 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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