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私はひどい母親になったのか


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:古屋 美穂(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
「先生、今日うちの子幼稚園で何かありましたか?」
電話の向こうで担任の先生が困惑しているのがわかる。
「遊具から落ちたり、お友達とけんかしたりしませんでしたか?」
動揺していた私は、上手く先生に状況を伝えられないでいる。
受話器を持つ手が震える。
見かねた先生が、そっと優しくこう言った。
「お母さん、ゆっくりでいいので落ち着いてお話しください」
深く深呼吸をし、心を落ち着かせ少しずつ先生に状況を説明した。
 
これは20歳を過ぎた息子がまだ4歳のころの話だ。
幼稚園から汗びっしょりで帰宅した息子に、シャワー浴びるようお風呂場に連れて行った時にそれの存在に気が付いた。
慌てて服を脱がし全身を隅から隅まで確認する。
ここにも……、あぁ、ここにも……。
大小さまざま、軽いものから酷いものまで息子の体中にそれがあったのだ。
いくらおとなしい子とはいえ遊び盛りの子供のことだ。1つや2ついつもそれは確かにいた。しかし、今回ばかりはその数は異常だった。息子に聞いても能天気に無邪気な笑顔で「幼稚園楽しかった!」しか言わない。朝の登園時は無かったそれが一気に増えていたこともあり、慌てて幼稚園に息子の園での様子を聞くために電話したのだ。
 
この幼稚園は園終了後、園の敷地や施設を利用してサッカーや体操教室、バレエ教室を開講している。園児たちは一度帰宅することなく参加できるのだ。母親にとっては息抜きできる時間が増えるのでとても人気があった。
その日、息子はそのサッカーの日だったこともあり、念のため、園の方からサッカーのコーチにも息子のその日の様子を聞いてもらった。おっとりした性格の息子は、サッカー教室ではいつもサッカーボールを追いかけるよりグランドの小さい石ころで遊んでいる。その日も同じように隅っこの方で遊んでいたようだ。つまり、何かあったであろうと覚悟して聞いたにも関わらず息子の幼稚園での様子はいつもの園生活であったようだ。
 
私は考えた。いったい何があったら息子の体中にそれが増えたのか。幼稚園での生活はいつもと変わりがない。では、他に考えられるのは家庭での異変。もしくは息子の体の中の異変。そこで頭によぎった考えに、さぁっと血の気が引くのを感じた。もしかして……私はとんでもないことをしでかしたのではないだろうかと。
 
息子の体中に多数できたそれは、転んだりぶつけたりするとできるあざだ。あらゆるところが大小さまざまに内出血をしていた。
 
息子だけではなく2つ下の娘もいる私には近くに親など頼る人がおらず、主人も仕事が忙しくほぼ一人で子育てをしていたようなものだ。時には、注意しても聞かない、いったん泣き出すと何をやっても泣き止まない息子に対して爆発しそうになったことはよくあった。もしかして、このあざは私が付けたのか? しかし、そんな記憶は全くない。全くないのだが、二児に対するワンオペ育児に疲れ、とうとうジキル博士のように寝ている間に「悪」の人格ハイドがでて息子に手をかけてしまったのではないかと。わたしはハイドになってしまったのか……。とても恐ろしくなった。他の可能性を考える余裕もなく、泣きながら主人の帰宅をただただ待ち続けた長い暗い夜だった。
 
主人が帰るなり記憶はないが息子に手をかけてしまったかもしれないと謝り続ける私に、訳が分からないと言わんばかりに「そんなことはあり得ないから落ち着いたら?」と。確かにあり得ないことかもしれない。しかし、その時は他の可能性を探すことよりも自分がやってしまったのではないかと責めることしか頭になかった。冷静になれなかったのだ。それから、ふたりで息子の症状についてネットで検索をした。安心するどころか、息子の命にも関わってくる最悪な情報しか出てこない。その夜はとうとう一睡もできなかった。
 
翌日、朝一で病院に駆け込む。私がハイド化しただけならば、一時は引き離されるかもしれないが治療すればまた元に戻れる。どうか息子の体になにも異常もありませんようにと願うしかなかった。
 
しばらくして検査結果が出たと、大きな総合病院の敷地外にある喫茶店でお昼ご飯を食べていたところに、看護師さんがわざわざ私たちを探して迎えにやってきた。えらく親切だなと感心していたのだが、なにかおかしい。すぐに呼ばれるとおもっていたのに、検査結果を聞くことができたのはそれから1時間も経ってからだ。息子の小さな手を握る私の手のひらは汗でびっしょり濡れている。先生から「検査結果ですが、息子さんの血小板の数が○○です。通常は○○ですので……」息子の体に異変が起きていたのだ。難病指定されている特発性血小板減少性紫斑病という病気だった。命に係わる病気ではなかったが、出血しやすいため出血場所によっては後遺症を残すことがあるらしい。そのため、転んだりして頭をぶつけることがないよう看護師さんが迎えに来ていたようだ。そのまま入院となり治療がはじまった。驚くことにすぐに治療の効果が出て2週間ほどで無事に退院ができた。
 
私はハイドにはなっていなかった。病気になった息子には大変申し訳ないが、息子に自ら手をかけていなかったことに安堵した。ワンオペ育児はとてもしんどい。追い詰められてハイドになってしまう方ももしかしたらいるかもしれない。まわりに育児を頑張っているお母さんがいるならば、少しでいい少しでいいから気にかけてあげて欲しいとひたすら願う。
 
 
 
 
***

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2020-07-10 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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