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目立ちたくない私に立ちはだかった「極妻」の壁


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:米村 彩加(ライティング・ゼミ夏期集中コース)
 
 
突然だが、私は目立つことが嫌いだ。
人前で話すことはもちろん、注目を集めていると感じると逃げ出したくなってしまう。さすがに大人になった今、本当に逃げ出すことはないし、多少の免疫はついたと思うが、そういう場面をなるべく避けてしまうのは、昔からの悪い癖。
 
特にひどかったのは思春期真っただ中の中学時代。
地味になりすぎると逆に目立つし、派手でも目立つ……と葛藤の末、たどり着いたのは、目立つ子と友達でいつつ、なるべくその子達の影に隠れる、可もなく不可もなくポジションだ。
 
そんな日常に暗雲が立ち込めた。そう、参観日である。
参観日の数日前、友人が言った一言がきっかけで、その後数日悩みに悩むこととなった。
 
参観日は親が教室の後ろで授業を見守るイベント。いつもの教室や授業でもどこかソワソワしたり、互いの親をみてこっそり感想を言い合ったりする。
大体のお母さんは紺のワンピースやスーツ、仕事着など少しだけかしこまった服装が多い。
 
そんな中、私の母は、必ず着物で教室に現れる。
なぜ? と感じるかもしれないが、別に張り切りすぎて着てきているのではない。
母は、着付け教室の講師をしており、特に当時は教室数も多かったため、1年のうち355日くらいは着物姿だった。
 
しかし、参観日の数日前、友人たちと参観日の話をしていた際、何気なく友人の一人が言った一言が、目立たないように必死だった私を焦らせることになった。
 
「よねのお母さんって極妻みたいだよね!」
 
「極妻」そう、岩下志麻でおなじみ「極道の妻」である。
うちの母、岩下志麻に似てるっけ…と「?」を飛ばしていると、「極妻」というキャッチーな言葉にまわりもすぐに反応した。
みんな口々に「なんで?」「どんなお母さんなの?」と質問攻めが始まった。
「極妻」発言をした友人曰く、「いつも極妻みたいに着物着ているから、遠目でもすぐにわかるし、かなり目立つ」という単純な理由で、決して悪意のあるものではなかった。
 
当時私の中で、幼いころから着物姿の母をみて育ったことから、着物は見慣れた生活の一部だったため、着物と極道のイメージが一致することはなかった。しかし、着物に馴染みのない友人にとっては、着物=テレビで見る「極妻」だったようだ。
それはまさに青天の霹靂で、友人にそう思われていたことや、母が目立つ存在だと言われ、私は参観日からかわれてしまうのでは、と恥ずかしくなり、焦ったのだった。
 
その後、一日、一日と日を追うごとに近づいてくる参観日に、どうしたら目立たずやり過ごせるか、学校休もうかな、などとうじうじ考えた末、私がとった行動は今でも考えると後悔と申し訳ない気持ちを思い出させるものとなった。
 
前日の夕食の際、内心ドキドキしながら母に言った。
「明日仕事忙しかったら、来なくても大丈夫だよ」
母は私が気を遣っていったのだと思ったようで、
「その時間空けられたから、心配しないで大丈夫よ」
と楽しみな様子だった。
「じゃあ、来てもいいけど洋服できてね。着物で来られると目立つし、恥ずかしいから」
自分のことしか考えていなかった私は、そう言い放った。
怒るかな? とも思ったが、母はすこし驚き、怒らず、とても悲しそうに「わかった」と言いながら台所に消えていった。
 
「お母さんのことが恥ずかしいの? お父さんはきみが本当にそう思っているのなら残念だし、恥ずかしいよ」
 
そんなやり取りを見ていた父に言われた一言で目が覚めた。
 
自分はなんてことを言ってしまったのだろう。
母はどんな気持ちになったのだろう。
なんで母は傷つかないと思ったのだろう。
焦る気持ちで母を追って台所に行くと、いつも明るく元気な母が、涙を浮かべていた。
 
毎日朝から夜まで、たくさんの教室をかけまわり、忙しいにもかかわらず、時間を割いてくれた母。
いつもしゃんとして着物を着こなし、たくさんの生徒さんにも慕われ、尊敬されている母。
日本の伝統的な着物のすばらしさを少しでも多くの人に広めようと頑張っているその姿を見て、誇らしいと思っていた気持ちを、なんであんなちっぽけな気持ちで忘れたりしたのだろう。
数分前の自分を心から恥ずかしく思った。
 
「お母さん、明日やっぱり着物できて。さっきは洋服って言ったけど、お母さんは着物姿の方がかっこいいと思う」
今思うとなんで上から目線なの? だし、まず謝るべきだと思うが、この時はそれが精一杯の母への謝罪と尊敬の表現だった。
 
その翌日、あんなに気にしていたはずの参観日のことは、今となっては全く思い出せないのが不思議だが、それからというもの参観日は、私にとって母を誇りに思う気持ちを再認識する大切な行事になった。
 
参観日のない大人になった今、離れて暮らしていることもあり、この出来事も少し忘れていたが、先日母からのLINEで思い出した。
それはコロナの影響で休んでいた着物教室が再開したことの報告だった。
一緒に送られてきた写真には、高校生に浴衣の着方を教える母の姿が映っていた。
 
高校の授業で教えているということには驚いたが、昔と変わらず着物をかっこよく着こなし、日本の伝統である着物のすばらしさを幅広い世代、多くの人に伝えようとしている母を改めて尊敬し、誇らしく思った。
 
 
 
 
***
 
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2020-08-14 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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