メディアグランプリ

不安はどこからやってくる


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:布袋 綾子(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「始発が一番早いバスで行ける場所は、っと」
午前3時半、最寄駅のバスターミナル。人の気配すらないその場所で、バスの時刻表とにらめっこをしている女性が一人。2年前、社会人2年目の私だ。
 
なぜこんな時間に、こんな場所をふらついているのかというと、理由は1週間前に遡る。
仕事でケアレスミスが無くならず、注意を受ける毎日が続いていた。まだ入ってきて1年目の後輩からも、「これ、間違っていましたよ」と言われてしまう始末。直属の上司からは「せめて1回注意されたことはできるようになってね。次からは気をつけて」と釘を刺された。
「あれも気を付けなければ、これも忘れないようにしなくちゃ」
そう思っているのに、上手くいかない。
「なんで自分はこんなにダメなんだろう。誰かの役に立てる人間になりたくて、就職したんだけどな。迷惑掛けてばっかりだ」
マイナスの感情は、半紙に垂らした墨汁のようにじわじわと心の中に広がってゆく。
「○○さん(上司)は、私のことが嫌いなのかな。あんなに小さなことまで、わざわざ見つけるなんて行動を見張られてでもいるみたいだ」
そして、関係のない別の不安ともリンクする。
「家族からも疎まれているし、私なんてポンっと消えてしまえたらいいのに」
どこか不安でたまらなかった。もはや何が不安か分からないが、不安な気持ちがずっとモヤモヤ心にかかっていたのである。
……眠れない。
私は、不安な気持ちが大きくなると、眠れなくなってしまう体質だ。ベッドに転んでも眠れなかったり、やっと入眠できたと思ったら、早く目が覚めてしまったり。
 
3時半まで眠れなかったある日、眠れないのにベッドに転がっているのが嫌になって、
「どうせ目が覚めているのならばどこかへ行ってみようか」
ふと軽い気持ちで思い立った。そんなことで、バスターミナルの私に至る。
 
一番早い始発のバスは「須磨一の谷行き」。バスに揺られていると予想よりも早く海に到着した。
 
まだ星煌めく夜明けの海。真冬の海風が冷たくて、心がさらに冷え込むような気がする。
「海に来るなら、もう一枚あったかいの着てくればよかったなぁ……」
途中コンビニで買った「ワンカップ大関」をちびちび飲みながら暖を取る。誰もいない海。聞こえてくるのは、寄せては返る波の音、時折響く海鳥の声。
ざざーっ
穏やかな波の音を聞いていると、海に向かって語りかけたら相槌打って聞いてくれそうな気がした。私はこの世に居てはいけない存在だったのかな? なんで私ばかりこんなに傷つかないといけないの? そう問いかける。
ざざーっ
私の本当の不安って何なのだろう?
ざざーっ
そうだ、自分は失敗ばかりで人から必要とされない存在なのが不安なんだ。
ざざーっ
あの事は失敗してしまったかもしれない。けど、必要としてないと言ったのは誰だっけ?
ざざーっ
自分だ。自分が自分に対して放っている言葉。他人からは必要ないと言われたわけじゃなかった。たしか力になれたこともあったっけ。その時は「ありがとう」って言われたような。その時の気持ちはきちんと受け取れていた?
波は優しく、寄せて何かを巻き込んでは、同じ分だけ引いていく。
 
気づけば、夜が明けてきていた。雲は絶え間なく流れていく。とても美しかった。
ワンカップ大関をぐびりと飲みこむと、胸のあたりから暖かさが広がってくる。
「私は自分を、他人を拒否していたけれども、想いを伝えることをしていない」
そう気づいた私は、早速帰りのバスに乗り込むと、急いで帰り支度をした。
「私は今の仕事が好きだからこそ出来ないのがもどかしい。失敗を解決する方法を考えて、力になりたいです」
海で考えた通りに上司に思い切って伝えてみる。
「ありがとう。布袋さんは、失敗はあるかもしれないけど、そこからも必死に学ぼうとする姿勢がピカイチだと思う。頑張っているところもちゃんと見てるよ。一緒に頑張ろう」
上司から、そう言葉を頂けた。大関で感じた時と少し似た、でもどこか違う暖かさを胸に感じ、勝手に涙が溢れてきた。あぁ、ここにもちゃんと居場所はある、気持ちの根幹を探し出せてよかった、そう感じた瞬間だった。
 
不安は実は実体が無いことが多い。そう思う。小さな不安が別の不安を呼び。膨らみ膨らんで、理由も分からないことまで不安になってしまう。抑えようとしてしまうほどに、逆に意識をしてしまって、ふうっと膨らませた風船のようにその存在が大きくなってしまうのだ。
 
それからというもの、不安が溢れてしまいそうになる度、私は始発のバスで海に行く。
不安の実体がないと頭では分かっていても、心が理解できない時があるからだ。抑えていた心の声が、ぽん、ぽん、と出てきては、消え、出てきては消え。この場所でなら、晴れやかな顔で再出発をすることができる気がしている。仕事で失敗続きの時、誰も信じたくないと人間不信になった時、どんな時も須磨の海は私の事を拒んだりしない。海は私のスタートラインだ。
 
もしも、あなたが、心の所在が分からなくなった時は、一度、まだ日が昇っていない時間の海に行ってみてほしい。そして、何をするでもなく、波に合わせて呼吸を続けるだけいい。
きっと、夜が明ける頃には、あなたの不安を海は優しく流してくれているだろう。
何とかなるよ。大丈夫、あなたらしく一歩ずつ。
 
ほら、見て、夜明けはもう近い。
 
≪終わり≫
 
 
 
***
 
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2020-09-26 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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