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親としての思い上がりを思い知った話


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:渡邉たかね(ライティング・ゼミ通信限定コース)
 
 
私に娘が産まれたとき、たぶん何かの影響を受けたのだろうが、彼女のことを「世間からの預かりもの」として育てようと心に決めた。
我が子であれ、私の所有物ではない。
いつか人様の役に立つ人間になった娘を世間にお返しするまで、大事に育てようと。
 
とはいえ、娘が小さい頃は、なんとなく子供を自分の分身みたいに思ってしまっていた。
自分のお腹から出てきたせいだろうか。
親の自分より優れているところは何もない、世話をし続ける状態が永遠に続くような錯覚もあった。
 
自分とは違う独立した人間なのだから、持っている能力も才能も自分とは違うもののはず。
なので、本来はその子供のポテンシャルを見極めて接してやるべきなのだろうけれど、子育て未経験の私にはその見極めはとても難しく、育てている私のほうも未熟なので、結局自分の経験を生かして育てようとした。
 
私とうちの娘の場合、それを特に意識したのはピアノのレッスンを通じてだった。
 
私自身は、ピアノを小学1年生のときに習い始めた。
足が少々早いぐらいで、他には取り立ててとび抜けた能力もなく、明るくて人気者なわけでもないし、勉強がよく出来るわけでもなかった。
かと言って大人が手を焼くような悪ガキでもなかった。
よくも悪くも平均的な子供だった。
 
ピアノのレッスンも、水曜日のレッスンが近づいてくる日曜あたりから練習をするという不良生徒で、コンクールに出るような優秀な生徒でもなかったが、趣味としてそれなりに順調にこなしつつ受験勉強が始まる中学2年の秋まで続けた。
おかげで、中学の3年間、合唱コンクールでは先生のご指名で伴奏を務めた。
音楽の成績は3年間オール5で、先生のお覚えがめでたいのが子供でもよくわかった。
 
そんなわけで、合唱コンクール私にとってはいわば晴れ舞台。
中学時代、自分に自信が持てる唯一と言っていいイベントだった。
 
さて、娘を産んで数年経つと、どうやらこの子は才気煥発なお子様ではないらしい……と分かった。
トイレトレーニングでえらく苦労をしたし、工作などもとても不器用だった。
愛嬌はとにかくふんだんだったので、友達には不自由しなさそうだけれど、他にも何か自信を持たせてやらねば! と、私はピアノを習わせようと思いついた。
 
小学一年生から始めた私で伴奏者に選ばれたのだから、もっと早くからやればもっといいセン行くかも、と目論み、4歳になる年にレッスンをスタートした。
幸い歌など音楽は好きなようだったので、これはきっとうまくいく、と思っていたのだが。
 
ピアノ自体は好きになったようだったが、いつまで経っても音符が読めるようにならなかった。
私の経験では、まずひとつ、基準に選んだ音の場所と読み方を覚える。そこからドレミを数えていって、それを続けるうちに音符をぱっと見るだけで何の音かわかるようになる。
娘の先生の教え方も同じようなものだったはずだが、娘はそのドレミで音を数えていくことをいつまで経ってもやらなかった。
かわりに耳で聞いた音が鍵盤のどこにあるかを覚えて、楽譜はほとんど読まずに、先生や私が弾いてやったものを覚えて弾くというやり方で乗り切り続けた。
 
とはいえ楽譜を読めないのは、やはりよろしくないので、家では私が鬼のようにイライラしながら読み方を叩き込もうとするのだが、怒られることでおそらく拒否反応がでて、余計に身につかないという悪循環。
 
娘が5年生になった頃にはようやく私も「この子は向いてない」と諦めがついて、ピアノをやめることにした。
もちろん、伴奏なんて夢のまた夢。ピアノを通じて自信を持たせるという私の計画はあえなく終了し、そして思った。
「この子の音楽人生は終わった……」
 
けれども、実は娘は根本的に音楽が好きだった。
レッスンをやめたあとも、いやむしろやめたあとのほうが、すすんでピアノの前に座った。
そして耳で聴いて覚えた好きな音楽――学校の音楽の授業で聴いた曲や、テレビで流れた曲を再現するようになった。
いつの間にか右手で主旋律を、左手で伴奏を弾くという高度なことも始めた。すべて、楽譜無しで。
自作の曲も即興で弾くようになった。
 
私自身のことを振り返ると、受験を控えてレッスンをやめたあと、私はめっきりピアノを弾かなくなり、数年後には親がピアノを処分した。
それに、私は楽譜が無いと弾けない。
耳で聴いた音も、主なメロディーを再現する程度ならできるが曲としての体裁はとれない。
 
私と娘、どちらが音楽に対して自由で、「才能」があるかは明らかだろう。
もちろん、音楽を職業にするなら通用しないけれど、「楽しむ」のには十分じゃないか?
娘がやっていることを、素直にスゴイと思った。
 
この出来事で、私ははっきりと娘は私の分身ではなく、「自分より優れていない」のでもないと思い知った。
10歳の時にそれを知るのは早いのか遅いのか分からないけれど、大人になるまでに知れてよかったと思っている。
思春期を迎えた現在、成人するまで、もう10年もない。
残りの数年間、この世間からの預かりものを、尊重して大事に育てたいと思う。
 
***
 
 
 
 
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2020-09-27 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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