子どもの未来を導く戦士
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:根本 理沙(ライティング・ゼミ日曜コース)
保育園で働く保育士の友人と、リモートで飲み会をした。久しぶりに会った友人は、見た目は変わっていないが、少しくたびれた声をしていた。やはり、コロナ禍での保育業務は大変なのだろう。実際現場はどうなのか、気を遣いつつも聞いてみた。すると、コミュニケーションの部分で苦戦しているようだった。
どうも、子どもの反応が鈍いそうだ。褒めても、叱っても、子どもは特に表情を変えることなく、ぽかんとした顔をしているのだとか。何度丁寧に言って聞かせても、子どもが腑に落ちていないのが伝わってきてしまう。保育現場でも、深刻な問題として捉えられているらしい。
なぜ子どもたちは反応が鈍いのか。その原因は「マスク」にある。マスクは、鼻の上まで覆ってしまうため、相手がどのような感情を持っているのか、伝わりづらくなる。
ある程度成長が進めば、声色や目の動き、身振り手振りで相手の感情を知ることができる。ところが、まだ幼い子どもにとっては、人間の感情を読み取ることは難しいようだ。
保育園や幼稚園は、子どもにとって、はじめての「コミュニティ」だ。ここで自分の親ではない大人(保育士)や、同年齢の子どもたちと一緒に過ごすことで、言葉や感情を覚えたり、社会で生活するための力を身につける。つまり、人として生きるための土台づくりの場となる。
だからこそ、コミュニケーションがスムーズにとれなくなることは、死活問題なのだ。
もちろん、保育現場ではあらゆる対策を施している。しっかり口角を上げて、笑っていることがマスク越しにでもわかるような表情を心がける、叱るときは子どもの目をじっと見て話をする、など、いつも以上にオーバーな感情表現で子どもたちとコミュニケーションをとっているそうだ。
フェイスシールドは使わないのかと聞くと、フェイスシールドはマスクに比べると感染症対策の効果が薄いため(友人談)、友人の園ではマスクを着用しているらしい。
コミュニケーションも大切だが、今は感染症対策が何よりも優先される。だから、保育士は絶対にマスクを外すわけにはいかない。
子どもの安全が何より大切なことはわかっているが、思うような保育をしてあげることができないことが、もどかしくて仕方ない、と友人はため息まじりに話してくれた。
私は教育の専門家でもないので、「そりゃあ大変だね、言葉でうまく伝えられたらいいのにね」、と当たり障りのない相槌を返すと、「そう、だから『それ』を最近はじめたのよ!」と友人が元気よく反応した。
どうやら、表情で伝わらないなら、言葉で伝えよう、ということらしい。コロナに関係なく、日常的に喜怒哀楽の感情は子どもへ伝えてきたそうだが、どんな小さな出来事でも、どう思っているか、何故そう思ったか、ということを細かく伝えるようにしたそうだ。
聞いていて「なるほどな」と感心したのが、言葉で伝えることを、子どもたちにも練習させているという点だ。
子どもが保育士の感情を読み取れないように、保育士も子どもがその場で抱いている感情を、マスク越しに理解することはなかなか難しい。
友人曰く、どんなに現場経験を重ねても、子どもに対して同じ保育をすることはないそうだ。たくさんの子どもが同じシーンに遭遇しても、一人ひとりの反応は微妙に異なるのだとか。
人格形成に大きく関わる時期でもある幼児たちとは、特に丁寧にコミュニケーションを取らなくてはならない。
初めのうちは苦労したらしい。「先生はこう思ったよ。〇〇ちゃんはどう思ったの?」と聞いても、全然違うことを言ったり、何も言わずにそっぽを向いたり、俯いている子ばかりだったそうだ。
そこで、友人の園はどうしたかというと、保護者の協力を仰いだ。と言っても、保育士がしていることと同じことをするようにお願いしたわけではない。
「お話のプリントを毎日、お渡しします。お家に帰ったら、一緒にお子さんと声を出しながら読んでください。ご家族皆さんで読んでいただいても構いません。」
保育士たちが自ら、1回5分程度で読める短いお話を集め、保護者へ配り、自宅でのコミュニケーションを促したのだ。
この新たな試みを始めて1ヶ月ほどが過ぎたというが、徐々に子どもたちに変化が現れはじめたらしい。年齢もあって、はっきり自分の意見を言う子は少ないが、保育士の掛け声に返事をしたり、質問したら何かしら返答してくれたりと、言葉を発することを積極的に行う子が増えたそうだ。
この変化が、園で実施したプリント作戦のおかげかどうかは、根拠がないため何とも言えない。しかし、家族と一緒に過ごす、会話をする、ということは、コミュニケーション不全の解消に少なからず良い影響をもたらしてくれるようだ。
友人は、改めて「話すこと」の大切さを実感したという。今まではどうしたの? こうだったの? ああだったの? と聞くことばかりしていたが、そればかりでは、子どもの中に思考力や判断力が生まれないことに気がついたのだそうだ。
不安定な今の時代、それらの力がない子どもは、将来確実に苦労するだろうと友人は感じているらしい。
そう話す友人の声は、くたびれてはいたものの、言葉の節々に保育に対する情熱がにじみ出ていた。子どもたちと話すことを続けたことで、自らも無意識に、話すことを大切にしているようだった。
話すこと、というのは、子どもにのみ大切なことではない。大人になっても話すことは大切なのだ。
人間は動物とは違う。思っていることや感情の表現は、身振り手振りだけでなく、言葉を使って伝えなくては、100%相手に伝わることはない。
友人の話に、あらためて自分も話すことの大切さに気付かされた。
その後も、仕事に限らず、いろいろな話をした。一つひとつの話題に刺激を受け、とても充実した時間となった。
まだまだ大変な時期は続くと思うが、腐ることなく、情熱を持って働く友人の姿を思い出しながら、私も日々の仕事に向き合っていきたい。
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