メディアグランプリ

1970年の祭典が残した象徴を、あなたは覚えていますか?


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記事:三浦 雅也(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
私は太陽の塔が好きだ。元々そこまで好きだったわけではないが、気づいたときには熱烈なほど太陽の塔に惹かれていた。初めてあれを見たときは「なんだこれ?」という印象を受けた。
 
別になんてことはない。ただ地面からドーンと生えていて、顔が2つ付いているだけの変な建造物だ。なんてことはないと思っていた。でもどうしても目が離れなかった。なんだかこの建造物をいま見ておかないと、もう二度と見ることができない。そんな不安を感じてしまったから。
 
それからだ。私は頻繁に万博公園に足を運んでいる。万博記念公園の年間パスを購入し、季節の移り変わりを教えてくれる公園の花々を見るために。そうじゃない。なぜだかわからないけど、恐ろしく巨大なアイツに呼ばれている気がするからだ。万博公園の花々が季節の移り変わりと共に変化するように、アイツも常に変化している。たとえ毎日通ったとしてもアイツが同じ表情を見せることはない。その日の天候や温度、周りの人々。そしてそれを見ている自分の心情によってアイツはいつも違う表情を見せる。太陽の塔を見るとみな口々に「すごい、大きいね〜」と言う。たしかに大きい。けど、それ以上の感情を抱いている人間はきっと私ぐらいではないだろうか。そう思っていた。
 
私は思う。もしかしてアイツは、岡本太郎さんが造った神様なんじゃないかと。地面からドーンと生えていて、横には大きな羽のような手が2つ付いている。前と後ろに合計3つの顔がついていて、夜になると目からビームを発射するとかしないとか。これだけ伝えるとアイツが化け物のように聞こえるかもしれないが、実際にあれを見てしまうとなぜか神々しいものを見ているような気になってしまうからおもしろい。キリストの十字架を連想させるあの姿はもしかしたら本当に神様なのかもしれない。意識すればするほどにそんな気がしてきた。
 
太陽の塔は元々、岡本太郎さんが万博記念公園のテーマである「人類の進歩と調和」を否定する目的で作ったそうだ。「なにが進歩と調和だ。人間はすでに原始時代に完成している。今の人間は退化の一途をたどっているじゃないか」そう発言したらしい。私は岡本太郎さんのその言葉を聞いたときに圧倒的な熱意と意思を感じたが、それと同時にすでに太陽の塔から聞いたことがあるような気がした。もしかして太陽の塔の下に岡本太郎さんが埋まっているのではないだろうか。
 
どこか神々しくてどこか可愛らしい。そして、どこか恐ろしい。そんな見る人によって全く異なる印象を与えてしまう建造物を私は他に知らない。ドリカムに「あの太陽の塔久しぶりに見たいなぁ」とまで歌わせるほどの魅力にも関わらず、自慢するでもなく謙遜するでもなく、ただ存在していること自体が主張であるかのようなものだからこそ、みな心惹かれてしまうのではないだろうか。
 
ところで太陽の塔は万博が終了すると同時に取り壊される予定だったという。万博博覧会のために建造されたのだから当然といえば当然なのだが、当時の人々はあれを壊さないでほしいと署名を集めて抗議をしたらしい。しかし万博が終了すると同時に太陽の塔を取り壊すことは決定事項であり、国が一度壊すと決めたのだからいくら署名があってもくつがえることはない。はずであった。だが今も太陽の塔は万博公園に堂々と立っている。なぜか。それは誰にも分からない。
 
というのも、いくら署名を集めてもくつがえらなかった太陽の塔を取り壊す件について、議会のなかで「なんかあれ、壊さないほうがいい気がする」そんな意見が出たらしい。政治家のみなさまは合理的で頭がいいから、理屈ではわかっていたんだ。あの建造物を壊して土地を有効活用すべきだと。でもできなかった。理屈ではない本能の部分で、あの巨大で奇妙な建造物を壊すことがどうも罰当たりなことをするような気にさせてしまったのだ。国が決定したことはたいていそのまま実行されてしまう。どれだけ人々が訴えたとしても。でも太陽の塔は残った。1970年に多くの人々へ感動を与えた万博記念博覧会の遺産として。岡本太郎さんが人類の進歩と調和を否定することで、人間の情熱を忠実に表現した象徴として。
 
「なんかあれ、壊さないほうがいい気がする」そんな曖昧な発言決め手となったようで、太陽の塔を残すことが決まった。なんじゃそりゃ、である。でも、たしかにそうかと納得できる。だってそれほど彼の存在は多くの人を魅了し、影響を与えてきたのだから。あれほど美しくて奇妙で、愛おしくてかっこいい生き物を、私はほかに知らない。また今日も万博記念公園では人々が彼を指差してこう言うだろう。「見てあれ、すごく大きいね」と。
 
 
 
 
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2020-10-24 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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