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おふくろの味は、パパの味


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記事:秋田梨沙(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
負けた……。
通算、何度目の敗北であろうか。
 
食卓に並んだ料理をモリモリ食べる子どもたち。美味しい美味しいと目をキラキラさせながら食べている。普段「早く食べなさい!」と、急かしても全く進まない食事風景とは天と地の差である。食いしん坊の次男などは「これ、おいしぃ〜」とさっきから褒めちぎっている。
 
口の中いっぱいに頬張っているのはローストビーフ。調理したのはもちろん、私ではない。
横にドヤ顔で立つ父親、つまり私の夫である。
 
ぐあぁ、悔しい。
 
幾度となく味わってきた敗北感。そう、夫は私より料理上手なのだ。
夫婦2人の時はそれを特に悔しいとも思わなかった。共働きなこともあって、家事も当たり前に分担していたし、美味しいもの食べられて、むしろラッキー! と思っていたくらいだ。
 
しかしである。
子どもが生まれると、私の中にジトッとした感情が湧いてくるようになった。嫉妬である。
 
1度目の敗北感は、今から7年前。我が家の長男が離乳食を始めたばかりの頃のことだ。
長男はちっとも食べなかった。初めての育児だからと、私はしっかり育児書を読み込んで準備していた。食材を吟味し、基本に忠実に丁寧に作った。でも食べない。
 
見た目を工夫するといいだとか、食感を変えるといいだとかアドバイスを受けて、その通りに作ってみた。1さじ、2さじくらいは食べた。喜んだのも束の間、それ以上はいらぬ! と断固拒否。あの手この手で工夫も凝らしてみたが、結局ほとんど食べてくれなかった。
 
ついに私も匙を投げて、夫に「同じ苦しみを味わうがよい!」と離乳食にトライさせてみた。
するとどう言うわけか、長男が美味しそうにパクパクと食べたのである。完敗。一体、何が違うのか……。すっかり私は落ち込んだ。
 
その後、何度もこういうことがある。
お弁当の卵焼きだとか、ハンバーグの焼き加減だとか、何かが絶妙に違うのである。もちろん、子どもの食べっぷりも違う。だんだん私もやさぐれてきている。もう、パパが全部作ったらいいじゃないか、と思う。でも平日は自分の方が早く帰るわけだし、ワガママも言っていられないので作る。ただただ、淡々と作る。
 
母親なのに、これでいいんだろうか。
長男は「ママの卵焼きの方が美味しいよ」と言ってくれるが、それは優しい嘘である。みてたらわかるよ、隣の次男の食べっぷりを。このままでは「おふくろの味はパパのローストビーフです!」とかなってしまうのではなかろうか。それは嫌だなぁ……。
 
自分の母親は料理上手だった。
特にお菓子作りが大好きで、しょっちゅうアップルパイやシフォンケーキを焼いてくれた。友達が家に来ると張り切って用意してくれ、「お母さん料理上手だね!」と言われるのが子どもながらに嬉しかった。だから、自分も母親になったら同じようにしたいと思っていた。なのに、どうも上手くいかない。さらに残念なことに、ちっとも料理に興味がない。母親失格というやつであろうか。こんな筈じゃなかったのに。
 
今日も久しぶりの敗北感にやさぐれて、ひとり庭の芝刈りをしていたら、息子たちが寄ってきた。
「ママこういうのすきだよねー! さっきからずーっとやっててスゴイよね!」
「お庭きれいになってる!」
あんまりキラキラした顔で言うものだから、気が抜けた。純粋な尊敬の眼差し。こんな当たり前のことを褒めてくれるのか。
 
全然すごくないぞ……。
と、自分にダメ出ししかけて、思い出す。そういえば夫はこういうコツコツしたこと嫌いだったな。書類整理とかアイロンがけとか、単調な作業が。ちょっと優越感が湧いてくる。
それと同時に、やっぱり夫が料理上手で良かったなと思う余裕も生まれてきた。得意な家事が違って良かったではないか。足りない部分を補い合えるわけである。むしろ理想的な関係だ。
 
母親は料理が上手であらねばならぬ!
と、勝手に思っていたのは私だけなのかもしれない。カチコチに冷えた氷みたいに、頑なに理想の母親像を作り上げていた。当たり前だけれど、私と母は別の人間なのだ。
一番身近な見本であるが故に、つい同じように出来て当然と思ってしまうけれど。得意なことも違えば、働き方も違う。生きてきた時代も環境も違う。
 
なにも母親が私にしてくれたことをそっくりそのままできなくてもいいのだ。
 
私は私のやり方で、「自慢の母親」になろう。
「家族」という器は、固い氷の粒だけでは満たせない。
真ん丸でも、真四角でもない器に水が行き渡るように、みんなで水を注いでいこう。
柔らかく進んでいこう。
 
 
 
 
***
 
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2020-11-15 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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