メディアグランプリ

僕が天狼院書店でサッカーをする理由


蒔田さま サッカー
記事:蒔田智之(ライティング・ラボ)

 

僕ははっきり言って運動音痴だ。
休日、父と過ごす時間が嫌だった。

父は、趣味で軟式野球をやっており、休みの日になると僕を連れ出して、キャッチボールやバッティング、守備練習をやらせていた。

特に、キャッチボールが苦手だった。

父のボールは、速くて、まっすぐに飛んできて、重かった。
だいぶ手加減してくれていたと思うが、子供の僕にとってそのボールを取ろうとするのは恐怖以外の何物でもなかった。

また、なんとか捕ったボールを投げ返すのも、苦手だった。
ボールはあり得ない曲がりの放物線を描き、父のミットから大幅に外れて、明後日の方向へ飛んでいく。

うまく返球できないことが、すごく嫌だった。

小学校のドッヂボールも、僕はとても苦手だった。
ボールを捕ることが苦手な僕は、ひたすらかわすしかなかった。
何かの拍子に目の前にボールが落ちてくることがある。
それを拾って相手に向けて投げるが、コントロールは最悪だし、まっすぐ飛んでも蠅が止まってしまうくらいの緩いボールだから、簡単に捕られてしまい、逆に投げ返されて痛い思いをする。

そんなありさまだったので、小学生の頃は、球技はとことん嫌だった。
まあ、嫌なのは球技だけじゃなくて体育全般だったのだけど・・・。

変化があったのは中学校の時だ。

O君というクラスメートがいた。
彼はサッカー部に入っていた。
文化系の、吹奏楽部に入っていた僕とは本来何も接点はないはずなのだが、何故か彼が何かと僕に話しかけてくれ、だんだん仲良くなっていた。

ある日の体育の授業。
種目はサッカーだった。

学校のサッカーの授業は、シュート練習やヘディング、パスの練習もあったが、基本的には実戦をすることが多かった。
文化系の、いわゆる運動音痴の男子は、サッカーの試合においてはほぼ例外なくディフェンダー、つまり自チームのゴール前を守る役割を与えられることが多い。
僕もその慣例にもれず、その日はディフェンダーでゴール前を守っていた。

守る、と言うと聞こえはよいが、実際はゴール前でぼーっと突っ立っているだけだ。
相手のフォワードが来たらあたふた近寄って、突破を何とか阻止しようとする。
しかし結果はいつも、圧倒的に素早いドリブルで抜かれるか、華麗なパスワークでかわされるか、そのどちらかだった。

終始こんな感じだから、全然楽しめない。
華麗に抜いていった相手フォワードを遠目に見ながらのろのろと追いかけ、相手のシュートの行き先を見るだけしかできない。

そんな感じでのそのそと動いている僕に、O君は近寄ってきた。

「ディフェンダーは、ボールがきたらラインの外に大きく蹴りだすだけでいいから」

と、声をかけてくれた。

えっ、と僕は思った。
何かの間違いでボールを持ったら、味方にパスをしなければいけないと思っていた。
なんだ、深く考えずに外へ向かって蹴りだせばいいのか。

O君の一言を聞いて、僕はなんだか気持ちがとても楽になった。
やることはとてもシンプルだ。来たボールを蹴り返すだけ。あとは、ボールが来そうな位置に陣取っていればいい。
僕は、ボールの行方をじっと見つめた。
すると、フォワードとディフェンダーがボールを捕りあっているときに、フォワードが前のほうへ大きく蹴りだして突破しようするシーンがよくあることに気付いた。

これだ。これを狙おう。

僕は、相手フォワードと味方ディフェンダーがもつれあっている場所の、ちょっと先に待ち構えた。すると予想通り、フォワードが大きく蹴りだしたボールが僕の目の前に来る。
僕は心を落ち着けて、足を振り上げてボールを蹴った。
ボールは弱弱しい軌道を描いたが、それでもラインの外にはみ出した。

ホイッスルが鳴りプレーが中断になる。
するとO君が駆け寄って、再び声をかけてくれた。

「ナイスプレー。今の良かったぜ」

生まれて初めて、スポーツで褒められた瞬間だった。

これで調子に乗った僕は、ディフェンダーとしての役割を果たすようになっていった。
チームメイトから褒められることもうれしかったが、自分がただボールに振り回されるのではなく、自分からボールを動かすことで試合に影響与えていくのが面白くなっていった。キャッチボールすらままならなかったチビッ子は、中学生にしてようやく、スポーツの楽しさを実感できたのだ。

そして年月は過ぎ、僕は大人になった。

あれからサッカーはだいぶ好きになったが、学生を卒業してからはボールに触ることはほとんどなくなった。
その一方で、僕は本を読むことが多くなった。そして今、僕は読書の新しい楽しみ方を体験している。

天狼院書店では、毎週「ファナティック読書会」という読書会を開催している。
毎週決められたテーマ(テーマがフリーの時もある)に沿った本を各自持ち寄って、その本について語り合うという活動だ。

この読書会のいいところは、自分の読書体験を外に向けて発信することで、参加者同士の読書体験を共有し、新たな読書体験をするきっかけになるところだと思う。
話しているうちに「あの本はここが面白かったよねー」と共感してもらえることもあるし、「だったらこういう本もあるよ!」と新しい本を紹介してもらえることもある。
自分からパスを出すことで、読書体験という「試合」に新しい展開を加えることができるのだ。

パスは別にうまくなくてもいい。5回以上は参加している僕でも、いまだに話しが3分くらいで終わってしまって焦るような「しょぼいパス」を出しては落ち込むこともある。
それでも僕は、めげずに、ファナティック読書会という「試合」に出続けている。
本という「ボール」をみんなでワイワイ回すことによって、思いもよらなかった展開が待っていたりする。

そう、サッカーとまったく同じなのだ。
見ているだけではなく、やってみて初めて分かることがある。体験できることがある。
それを知りたいから、今日もまた天狼院書店に通う。
今日はいったいどんな試合展開が待っているのだろう。
ハラハラとドキドキの2時間だが、きっと楽しい時間が待っているはずだ。

 

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この記事は、ライティングラボにご参加いただいたお客様に書いていただいております。
ライティング・ラボのメンバーになり直近のイベントに参加していただくか、年間パスポートをお持ちであれば、記事を寄稿していただき、店主三浦のOKが出ればWEB天狼院の記事として掲載することができます。

 

【ファナティック読書会3.0について】ファナティック読書会とは、大好きな本を「ファナティック(熱狂的)」に紹介していただく、天狼院書店オリジナルの読書会です。思う存分、お好きな本をご紹介ください。それについて、語ってください。ジャンルは問いません。
ファナティック読書会でご紹介いただいた本はその場でスタッフが発注をかけ、入荷次第、店内の「ファナティック棚」に並べられます(※絶版、品切れの場合を除く)。つまり、自分が紹介した本が本屋さんの棚に置かれて販売されるという一風変わった読書会なのです! 毎週日曜日の朝9時より開催しております。

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2015-12-01 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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