山での化粧は誰のための化粧か?
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記事:田村 彩水(平日ライティングゼミ・コース)
私は登山が好きで、大体月2,3回はどこかしらの山に登っている。
特に夏は登山シーズン真っ盛りということで、毎週のようにテントや山小屋に宿泊して、数日がかりで山に繰り出している。
山の中で夜を越えるとなると、当然お風呂に入ることなどできない。せいぜい汗拭きシートやクレンジングシートで「めっちゃ汚い」から「ちょっと汚い」レベルまで不潔レベルを緩和することくらいしかできない。
シティ派の方には、いきなり汚い話で大変申し訳ない。
登山中は汗も結構かくし、日焼け止めも何度も塗りなおす。
特に夏山の稜線歩きなんかは、眼下に広がる山々の雄大な美しさを見下ろしながら、完璧な青空を背負える最高のひとときだが、その分真夏の紫外線が容赦なく顔や首の裏に照り付けてくる。汗を拭いても拭いても間に合わない。
そこでいつも考えてしまうのが、化粧の必要性だ。
どうせ汗で流れる化粧をする必要はあるのだろうか?
普段、会社や買い物のときに化粧をするのが億劫で仕方ないという方は、もしかしたらそこに大義名分を見出し、化粧をする煩わしさから解放されて、思い切りのいいスッピン登山を楽しまれているかもしれない。
だがしかし。
少なくとも私はまったくのスッピンで登山をすることはない。
もちろん、街での化粧まではいかないが、ウォータープルーフのアイブローとマスカラ、そしてリップくらいは、うっすらと施す。
それは山泊が続く中でも同じことである。山の朝は早い。出発は5時、なんてこともザラにある。それでも少し早めに起きて、寝ぼけ眼でこっそりちゃちゃっと化粧する。
私だけがそうなのかというと、そうでもなさそうだ。
一緒に登山をする女性たちは、程度の差こそあれ、山でもやはりそこそこ化粧をする。
何人かに、山の時の化粧どうしてる?と聞いてみたら、
「汗でどろどろになるからアイメイクはしないけど、その他はする」
とか
「リップはまめに塗りなおす」
とか
「街とほぼ一緒」
とか、十人十色様々なこだわりや向き合い方があった。
自然の中で、汗で流れる化粧をすることは、少なくとも合理的な行為ではないと思う。
特に普段化粧をしない男性にとっては、自意識過剰さを感じる行為かもしれない。
ある山小屋に宿泊した時のこと、気のいい山小屋の主人がある女性客の話をしてくれた。その人は朝の出発ラッシュの時間に、一人で山小屋の洗面台を30分占領していたそうだ。ずっと熱心に化粧をしていたという。
「キレイにしたって、山ん中だし誰も見てねぇのにな」
ご主人はそう毒づいていた。
その言葉を聞いた時、私はとても心が痛んだ。
限りある山小屋のスペースを、周りの迷惑を鑑みずに長時間占領していた行為そのものは、確かに褒められたものではないとは思う。
だが山に登る前に、誰に見せるわけでもない化粧に力を入れてしまうその心は、自意識過剰と鼻で嗤って切り捨てることはできなかった。
何か切実なものを感じた。
それこそ、私が登山前にマスカラをするのと同じように。
合理的でないことを、せずにはいられないこの不思議。
ひとつ合理的な理由を当てはめてみるとするならば、「そうはいってもやはり人に見られるから」というのはあると思う。
山には何人かのパーティで登ることが多いし、やはり近しい人に少しでもキレイと思ってもらいたい。そして何より、写真がある。SNSがある。
自分が写った写真が、半永久的に不特定多数の人の目に触れる可能性がある。そう思うと山だろうと汗で流れようと、風呂に入れまいと(だからこそともいう)、少しでもビジュアル的に状態のいい自分を残したいという野心が湧いても来るものだ。これは確実に大きなモチベーションのひとつだろう。
それと同時に、私個人としてはそれ以上に、「自分が納得いく自分になるため」ではないかと思う。
化粧をするようになると、女性には二つの顔ができる。
化粧をする前の顔と、化粧をした後の顔だ。
当たり前すぎて何言ってんだと思われるかもしれないが、これは本当である。
そして、あくまで私の感覚だが、その人自身の思う「自分の顔」は、前者ではなく後者であると思う。なぜならば、化粧をした自分の顔というのは、自分が望み、技術を施し、手に入れた顔であるからである。
先に「女性には」、と語ったが、男性にも勿論当てはまることだ。
化粧をする男性にも全く同じことがいえるだろうし、ファンデーションを塗ったり眉を描いたりといった、いわゆる化粧をしないまでも、毎日ワックスでヘアセットをしている男性も、セット前の寝ぐせの付いた自分の顔よりも、バシッと髪型が決まった後の自分のほうが、より一層「自分」を感じることのできる顔ではないだろうか。
考えてみれば、山に登る格好自体も、合意性や機能性だけを追求すれば、おしゃれさなんて必要ない。けれども今、世の中にはおしゃれなギアがどんどん増えていっている。おしゃれはある意味では「無駄」なのだ。フリルだって、猫足のバスタブだって、なくたって別に成り立つ。だけどもそんな「無駄」を、私たちは手放さずにはいられない。愛さずにはいられない。
山での化粧は、フリル。山での化粧は、猫足のバスタブ。刺繍を施された羽織裏。誰に見せるでもない冬の時期のフットネイル。
それは、こうありたいという自分を表現する術なのだ。
***
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