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やさしい生き方。


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:宮 浩(ライディング・ゼミ平日コース)
 
 
月曜の朝。
 
川沿いの踏切で2台の車が睨みあう。
 
2台はすれちがえないほどの狭い踏切。
 
おそらく数秒にも満たない時間だけれども両者にとっては長い時間。
 
少し間をおいて、そのうちの一台がバックする。
 
もう一台は礼もなしに当たり前のようにズバッと通り過ぎた。
 
バックした車のドライバーはその車を通り過ぎるまで睨みつけていた。
 
「……こっちの方がはやかったのに」
 
そうひとりで愚痴ったのは“ボク”だった。
 
誰の目でもあきらかに、こちらの方が踏切に入るのがはやかったハズなのに、
相手の車がそのまま突っ込んできた。
 
……さも眼中にないように。
 
いや、「どけろ」といわんばかりに。
 
その車はシルバーのハイブリッドカーでそこそこの値段がするタイプだ。
運転手もパッと見、ピシッとネクタイを締めていて、さも仕事が「デキそう」な感じの男性だった。
 
さぞかし自分に自信があるんだろうなあ、と少し羨ましく思いながら、
ボクはよけさせられたくやしさを、なんとか押し黙らせようとした。
 
「ご立派ですけど、そんなに急ぐと事故りますわよ。」
 
とわざと奥様口調でギャグっぽく悪態をつくとアクセルに力を入れた。
 
……実際、こんなことはしょっちゅうある。
 
先日だって、実家へ向かう狭い道で、あきらかに広い方の相手が止まって待つ場所で、
なぜか相手が突っ込んでくる。
 
ありふれた中古の軽自動車だからなのか?
ボクの運転がのんびりしてるからなめられてるのか?
 
べつに車でなくてもこんなことは起きる。
ただ、“歩いているだけ”でも大抵、堂々と歩いてくる他人とすれ違う時は、
ボクの方がよけてしまっている。
 
だから、人ごみの中なんて、よけるのに手いっぱいでクタクタになる。
 
それで、ボクは自分が“なにもの”かを思い出す
……そうだボクは”気が弱い”のだ。
 
はじめに気が付いたのは、小学校1年生のころ。
 
運動会のかけっこで、いつもボクよりはやい子が、ころんで、ボクが1位になったときだ。
 
……栄光の証であるゴールテープを飛び越えてしまった。
 
まわりの子は笑った。
 
見に来ていた親も笑った。
 
でもそんなのは別にどうでもよかった。
 
怒られたり気分悪くされるよりずっとマシだった。
 
ただ1位になったプレッシャーが怖かっただけなのだから。
 
……その時”気が弱い”のを自覚してしまった。
 
それからも精神的にも肉体的にも他人との衝突を避けようとしてきた。
道化になって笑わせたり、うまく相槌を打って流そうとしたりして、
できるだけ他人に負の感情を出させないように努力した。
 
逆に、自分のことそっちのけにしずぎたあまり、大学には失敗してしまったが。
 
でも、家電量販店の販売員だった前の仕事では、その性格のおかげでかなり助かった。
相手を怒らせない話し方、立ち位置、しぐさなどが自然に身についていたから。
 
……今思うとおおむね、他人からは“地味で変な人”だけれど“のんびり”してる、
とか“おだやか”と思われていたようだ。
 
そんな性格なので、”怒る”とか”キレる”とかは極力したくはないのだけれど、残念ながら、それなりに生きてると、たびたび、そういうことが必要な場面に遭遇してしまう。
 
いちおう、どうしても他人と衝突しなければいけないときに、無理やり自分自身にいちゃもんつけて怒るという、自称”逆ギレモード”というのがあるにはあるのだが、そのあとの反動がすさまじく、自己嫌悪や罪悪感が襲ってきてハンパない。
 
先日、こどもの教育のため、と思って家でやったら、かなり不評だった。
「こんなのは“とうちゃん”じゃない!」
……だそうだ。
さすがに、自分でもかなり参ったので、もうやらないようにしよう。
 
ふと考えてみても、かなり人に流されてき人生かな、という感じはあるのだが、気が弱くても、案外、他人の評価は悪くなかったなと思う。
だから今はちょっと開き直って気が弱いままでやってみようかと思っている。
 
実は、気の弱い“ボク”には人と人の間に“スキマ”が見えている。
 
それは、何か“あったかなもの”だったり、山のように高い“カベ”だったり、底が見えない“谷底”のような穴だったりするのだが、それがバチバチ、火花をだしたり、どんよりとしてくると、途端になにかしらの衝突がおきてしまう。
 
例えば、今の仕事は工場勤務の単純作業なので不特定多数の他人が入れ替わり立ち代わりしている。
 
そういうところはおおむね“会社のため”っていう概念がないから、自分の仕事以外、まわりの環境に関心がない。
 
「誰かがやってくれるだろう」とみんなが思っているから、ゴミ箱、掃除、いろいろなところに気遣いが行き届かない。
 
でも、みんな見て見ぬふりしてると、気持ち悪いから不平・不満・陰口なんかがどんどんでてくる。
もちろん、人と人のスキマもバチバチしだして、ギスギスしたり衝突がおきる。
 
それに対して”ちょっと開き直ったボク”は、逆に
「誰もやらないならじぶんがやろう」
と思うようにしている。
 
ゴミが落ちていたらゴミ箱に入れる、散らかっていたら片づける、汚ければ掃除するなど、意識して自分は“見て見ぬふり”をしないようにすることにした。
 
みんなに働きかけるなんてことはできないけど、ほんの数分程度の労力で、みんなが少しでも気分がよくなるなら、コストパフォーマンスとしても良好でないかと思う。
 
もちろん、プライベートでも気になるゴミなんかは拾うようにしている。
 
あいかわらず、前を歩いてくる人にぶつからないようによけながら、ボクは、日々そんなちっちゃな”自信”を積み上げ続けている。
 
だからといって、気が強くなる、ということはありえない、とも思っている。
 
ふと前の上司の言葉が浮かぶ。脳裏をよぎる。
「オレはマネージングが仕事だから安い仕事はせえへん」
と、いつもいいながら自称”勝ち組”の彼は部下をこき使っていた。
 
もちろん、だれでも”勝ち組”になって優雅な生活を送りたいし
言いたいこと言って、やりたいことやったもん勝ち、的な世の中になってきてるとは思う。
 
でも、だからこそ
「あえて、やってやる」
と思っている。
 
”負け組”だとか”安い仕事”だとかいいたければいえばいい。
 
別に、慈善事業やボランティアをしたいわけじゃないし、世界平和をのぞんでるわけでもない。
 
ただ、他人と自分、いやとにかく”人と人”のスキマがごちゃごちゃしてるのが嫌なだけなんだ。
 
でも、気の強い人は気にも留めないし、見えないから気づかない。
だからよけいに悪化していって衝突してしまう。
 
それに気づいてキレイにするひとが必要なんだ。
 
だから気の弱い、衝突がキライな、スキマが見えるボクがしようと思っている。
とりあえず自分のまわりだけでも、少しづつでもしようと思う。
 
「気が弱いからこそやさしくありたい」
 
こんな世の中だから、そんな「やさしい生き方」が必要なんだと思うし
 
それが自分らしい個性になるんじゃないかと思うから。
 
 
 
 
***

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2020-12-05 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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