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痛みの教科書 映画「ザ・フォーリナー/復讐者」


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記事:リサ(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
「何をやってるの!」
泣きわめく弟に、母があきれた声でかけよる。1980年代の団地での一コマである。
 
当時、小学一年生だった弟は、6畳のダイニング(ダイニングというより台所)で、テーブルとイスを相手に、戦っていた。
安い家具だ。
脚の細いイスが、はずみで倒れ、背もたれが弟の頭に直撃した。グワンというにぶい音がした。
よっぽど痛かったのだろうと思う。どれだけなだめても泣き止まず、しばらくしたら、ほんとに大きなコブができて、母も慌てていた。
 
彼が、なりきっていたのは、ジャッキー・チェン。当時の男の子たちは、みなジャッキーに夢中だった。
少林寺木人拳、蛇拳、酔拳、笑拳……
木とか、水とか、泥とか…… ジャッキーが、映画の中で自身を鍛えるために利用するアイテムは、団地のまわりにもいっぱいあったから、懲りないが、意気地のない弟は、その後、集会所のホースの蛇口を全開にし、水を相手にするようになった。
 
拳シリーズといわれる、ジャッキーの映画は、10以上ある。
映画の冒頭は、毎回、決まって弱い。喧嘩に弱いときもあれば、心が弱い暴れん坊のときも。師と仰ぐ人に出会って、そこから、だんだん強くなっていく。
 
その過程は、とにかく痛い。
師匠に、片手で投げ飛ばされて、派手にそこら中にぶつかる。棚や椅子が崩れ、背中や腕があざだらけになる。ジャッキーは、そのたびに泣きそうだ。しかし、間髪入れずに、またぶつかっていく。クライマックスには、驚くほど強くなる。
 
テレビの前にただ座っているだけの私や弟も、すでに、苦しい修行をし終えた気持ちになっている。次々に登場する強者にどんどん勝っていく。やがて最も強いラスボス登場。息もつかせぬ壮絶なカンフーのシーンが続き、最後は勝つ。
で、勝ったとたん、いきなり終わる。拳シリーズは、余韻もなにもなく「えっ」というくらいあっけなく、映像がビヨンと縦に伸びて、「劇終」の文字。
 
神がかった強さのブルースリーや、実際、神もいるアベンジャーズもいいが、弱くて痛くて、いつも傷だらけのジャッキー・チェンは、お調子ものの、大好きな兄貴だった。
その兄貴の映画を、久しぶりに観た。
 
「ザ・フォーリナー/復讐者」
65歳のジャッキーが、テロに巻き込まれて命を失った娘の仇をとるため、政府やテロ組織を相手に一人立ち向かっていく復讐劇だ。
 
映画の冒頭、久しぶりに観たジャッキーに、正直、戸惑った。
やっぱり、65歳なのだった。
白髪に、深いしわの刻まれた顔、目尻のたれた穏やかな表情からは、闘志やエネルギーを感じられなかった。
誰だって、年をとる。
娘の無念をはらそうと、警察や政府に何度もかけあい、あしらわれるジャッキーの姿は、老いた野良犬のようだった。
が、しかし、あるシーンから、この野良犬が、最強の狂犬だったことがわかる。
 
そのときの興奮といったらない。
幸い、動画サイトで鑑賞していたから、あまりにドキドキがとまらず、いったん一時停止した。
深呼吸をし、トイレをすませ、この先は、一秒たりとも見逃すまいと、心を整えた。
 
ジャッキーは、ジャッキーだった。
あるときは、ゲリラのように森に分け入り、攻撃をしかける。木や落ち葉、そんなものが武器になるのは、ジャッキーだけだ。
あるときは、敵に追われ、建物をつきやぶる。背中をぶつけて、腕を負傷する。痛い、とにかく痛い。顔をゆがめて、泣きそうになりながら、それでも決してあきらめない姿は、あの頃のジャッキーと、なんら変わらなかった。
 
立ち向かう最後の相手は、あの007シリーズのピアース・ブロスナン。ラスボスに申し分のない相手だ。しかし、あのピアース・ブロスナンだ。武術と武術の戦いでは終わらない。いったいどうなるのか……
その先の展開は、面白すぎるので書かずにおく。
 
ジャッキーは、昔も今も変わらず、「痛み」を教えてくれる。
しかし、この映画の素晴らしさはそれだけではなかった。
あっけなく終わった拳シリーズとは違い、この映画には、決して忘れられないラストシーンがある。
そこで彼は、人生というものを表現するのだ。
生きていれば、誰もが痛みを背負う。その痛みが消えないこともある。
それでも、私たちは生きていかねばならないのだということに、たったワンシーンで気づかせてくれる。
痛みなんて、ないほうがいい。しかし、いつか、耐えがたい痛みを味わうことがあったら、そのときは、泣き顔になってもいいのだ。泣きながら、あきらめずに生きていけばいいのだと、映画「ザ・フォーリナー」は教えてくれる。
大好きな兄貴のように。
 
 
 
 
***

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2020-12-26 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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