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メディアグランプリ

組み合わせの妙という大人の宝島


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:田村 彩水(平日ライティング・ゼミコース)
 
 
昔から、酢豚の中のパイナップルに敵意を抱いていた。
なぜ、お前はそこにいるのかと。
食卓に出される大皿にその黄色い姿を見つけたとき、白目かつ無言でそう問いかけていた。
そこはお前の席じゃない。食後のデザートまで引っ込んでいろ!
 
子供の頃は超絶偏食家で、10歳を過ぎるまで肉も食べられなかった私は、高校に上がる頃には、ほぼ好き嫌いは0になっていた。
あんなに毛嫌いしていた肉もピーマンもウニも茄子も全て根性で克服した。
偏食が過ぎて食事の度に、他人から叱責や憐みの視線を受け続けることに耐えられなくなり、我慢を重ねて食べ続けていたら次第に、子供の頃には気持ち悪いとさえ思っていた苦味や渋味、臭みについて、その良さを少しずつ理解できるようになっていった。
 
その作業は意外にも、とても楽しい体験だった。
 
「世間の大人たちが美味い美味いと言ってたのはコレ、この感覚のことだったのか……!」
珈琲が飲めるようになったときも、ビールをうまいと感じられる様になったときも、どこか誇らしかった。
大人だけが占有している、この世の楽しみという秘密の宝箱を、苦労の末にこじ開けたような心持ちがした。
 
ひとつ宝物を見つけると、また次の宝箱を探しに出かけたくなるのが、冒険者の性である。
特にお酒を嗜むようになってからは、様々な、少し変わった味を求めるようになっていった。
酒の肴になるような食べ物は、得てして一癖も二癖もある個性派ぞろいである。
 
まず、ドライフルーツ。乾いている。しなしなに乾いている。
あの瑞々しい生命の源のような、果汁滴る果物の姿や甘美な味を知っている身としては、なんでわざわざ乾かしたんだよう……と地面に膝をついて拳を置きたいような気分になる存在である。
だがしかし、あの一筋縄ではいかない噛み応えと言い、甘みと切なさのようなものが凝縮された濃厚な味わいと言い、妙に心を掴む食べ物である。
乾いているのに。しわしわなのに。
必ずしも若くてピチピチの可愛い存在にのみ、魅力があるわけではないのだなと、なんだかよくわからない励ましをくれる存在である。
私は食べ物の話をしている。
 
そして燻製。もはや煙である。
煙の味がするチーズ。煙の味がする鮭。
以前立ち寄ったおしゃれ燻製居酒屋なる場所には、なんと燻製チョコレートまであった。
調味料は煙。なんてロックな発想だろう。
燻製の起源は古く、もともとは石器時代に狩猟後の食材の長期保存や害虫防止策として生み出されたものであるらしい。
先人が生きるために必死で知恵を振り絞って開発した食料保存方法が、私たち現代人の食の中に新鮮な楽しみを提供してくれている。
燻製食品をつまむときは、原始の薫りを味わうひとときだ。
 
そして忘れてはならないのが、奈良漬け、またはいぶりガッコと、クリームチーズの組み合わせである。
クリームチーズだって相当の個性派だが、漬物達も負けてはいない。
このままでは個性×個性のガチガチバトルとなるかと思いきや、クリームチーズのまろやかさが漬物達の癖の強い個性を尊重しつつも引き立て合う、絶妙な調和を奏でだす。
まるでM1グランプリだ、とよくわからない例えをいつも思い浮かべる。
 
ちょっと癖のある美味しいものという宝島を探り当てる中で、発見してしまったのがこの「組み合わせの妙」という概念である。
一見ぎょっとするような意外なもの同士も組み合わせてみると、お互いの魅力以上の良さを発揮できてしまうという奇跡が起こってしまうことがある。
クリームチーズと漬物はとてもわかりやすい例だが、よくよく考えてみれば、ドライフルーツだって果物×乾燥の組み合わせ、燻製だって食材×煙の組み合わせと言えなくもないかもしれない。
 
こうした組み合わせの妙の最たる例が冒頭の酢豚×パイナップルだろう。
あらゆる好き嫌いが解消された大人になってからも、長い間この組み合わせだけは受け入れることができなかった。
この組み合わせだけはといったが、正確には、果物と、全く違う食べ物とを組み合わせることに対してだけは、長い間どうしてもその良さを認めることができなかった。
別々に食べる方が、きっとそれぞれの食材にとって一番いい方法なのに、余計なことをしてお互いの良さを消してしまっているとさえと思っていた。
 
ところが、実際に自分で料理をするようになってから、その考えは徐々に変わっていった。
自ら料理をするようになると、味付けのレパートリーを持つことが如何に難しいかわかる。
手持ちの家庭用の調味料で自分の好みの味を再現しようとなると、どうしてもその種類は限られてしまうし、気が付けばずっと同じような味付けのものを食べ続ける羽目になったりする。
そんなとき、一筋の光をもたらしてくれるのが、少しの果物の存在なのである。
それらは、延々と続く同じ味の中に、ほんの少しの「刺激」を与えてくれる。
それは食感だったり、薫りだったり、酸味だったり、いずれも小さなアクセントに過ぎないのだが、小さくても確実に無視はできない効果を全体にもたらす。
この効用に気が付いてからは、むしろ積極的に果物を食材に取り入れるようになった。
サラダに果物を加えると、程よい酸味のあるドレッシングと絡めているようになると発見した。
そして酢豚にパイナップルも、今やそれなくしては物足りなさを感じる程になってしまった。20年近く良さのわからなかったものの価値がわかるようになるのだから、こんなに不思議で面白いことはない。
 
こうした組み合わせの妙がもたらす新たな「良さ」の発見は、ある程度物事を知り、経験を積み、気持ちに余裕を持つことで、はじめて気づける大人の味わいだ。
出会う度ににやりと笑みがこぼれる。またひとつ、宝箱を見つけてしまったと。
自分もまたひとつ、大人になったのだと。
人生経験を重ねるほどに、世に隠れる楽しみや魅力に気づけるようになるのならば、こんなにわくわくすることはない。
これからも冒険者のはしくれとして、柔軟な発想と素敵な出会いを、大事にしていきたい。
 
 
 
 
***
 
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2020-12-26 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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