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「雑談」嫌いの「雑談」考  ~「雑談」とは何気ないラリーの応酬である~


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:森下暢子(ライティング・ゼミ集中コース)
 
 
「雑談」
この言葉に幾度となく緊張感を覚えただろうか。
「雑談」
こんなものなくなってしまえばいい。
「雑談」
それは、私がずっと乗り越えたいと考えていた山の一つだ。
 
人と話すことは嫌いじゃない。
しかし、物心付いたころから、「雑談」というものに苦手意識を覚えるようになった。
1対1の時はいい。ただ相手の話に心地よくうなずき、
自分も時々聞きたいことを言葉にしながら、一緒に楽しく過ごせばいいだけだ。
1対1なら、相手と自分が深く話をすることができる。
話を聞くことは苦痛ではない。むしろ楽しい。
しかし、3人、4人、5人……人の数が増えてくると、そうはいかない。
 
「森下さんはどう思う?」
「えっとそうだな……」
考えているうちに、会話に微妙な隙間が生まれる。
一瞬の静寂。そして、「私はね……」
頭にかけた検索から、当たり障りのない言葉を引き出して答える。
「そうなんだ。へぇ~」という気のない返事。
そして「そういえば、田中さんってさ……」
会話は違う話題へと切り替わっていく。
 
「だから言わんこっちゃない……」
しばらくは会話が回ってくることがないだろう。
私は、次の話題に聞き入ることにした。
こんな時、心にふっとため息がもれる。
そして、何とも言えない申し訳なさと気恥ずかしさが、
自分の胸から口の辺りまで、じんわりと広がってくる。
私は会話のラリーが苦手だ。
 
「雑談はコミュニケーションの基本」
「雑談ができない人は、人生を損している」
これまで、いやというほど「雑談が上手になる」という本を読んできた。
そして、「雑談」ができないことについて、真摯に向き合ってきたつもりだった。
意外と自分は真面目なのかもしれない。
 
「雑談が、人間関係を築くカギになる」
……そんなことは、言われなくても分かっている。
でも、できないのだ。
 
「木戸(きど)に立(た)てかけし衣食住(いしょくじゅう)」
「雑談」が弾む11のキーワードの頭文字だという。
気候、道楽、ニュース、旅、知人、家族、健康、仕事、ファッション、グルメ、住まい……
きっかけは、こんな身近な話題でよいという。
 
「今日はよいお天気ですね」
「そうですね」
「……」
 
「土日はどこかに行かれましたか」
「うーん。特に何もしていないなぁ」
「そうですか」
「……」
 
「そうですね」
「そうですか」
「雑談」のきっかけになるはずのキーワードも、
一問一答のようなやりとりになり、それ以上続かない。
むしろ何となくぎこちなさすら感じる。
 
「私が変われば周りも変わる」
そう信じて、冷や汗をかきながら、場数のため、苦手を克服するためと、取り敢えず自分から話しかけてみる。
 
しかし、焦れば焦るほど、自分だけが空回りしているような気がしてならない。
そして、自分が思うほど、周りは「雑談」を欲しておらず、
自分も周りから関心をもたれていないのではないか。そんなことにも気が付いた。
 
自分の前では「そうですね」と答えた相手が、
満面の笑顔で、違う人と楽しそうな「雑談」に花を咲かせていく。
 
友人だろうが、同僚だろうが、
目の前で、相手の顔が見たこともない表情を見せると、
その表情を引き出せなかった自分に、やりきれない気持ちが苦々しく押し寄せてくる。
心苦しさとも情けなさ、そして胸にもやがかかったような、
何とも言えないもどかしい気持ちでいっぱいになる。
 
「雑談なんかできなくてもいい」
 
だって、苦手なんだから、仕方ない。
背伸びしたって仕方ない。
私、教師だったよな……
そういえば、生徒との「雑談」もあまり得意ではなかったっけ。
話を続けるって、どうしてこんなに難しいのかな。
 
しかし……結局自分は何かしら人と関わる仕事に就いている。
今の仕事は、正直向いてないと思うこともある。
けれど、例え仕事を変えたとしても、人と関わることは、一生ついて回るだろう。
 
「こんな自分なんて」
「なんてつまらないんだ」
「人は傷つけないはずなのに」
「相手の話を聞くのはとても楽しい時間なのに」
「なんでうまくいかないのだろう」
「一体、どうしたらいいのかな」
 
そんな折、天狼院の読書術ゼミと、論文ゼミを受講する機会に恵まれた。
「どうせなら、自分に必要なことを徹底的に突き詰めてみよう」
「ノウハウを拾い集めるのではなく、とことん「雑談」について深めてみよう」
よーし。この際、本腰を入れてやってみよう!
自分を追い込むつもりで、私のちょっとした言葉の旅が始まった。
 
「チャンスをつかむ超会話術」
「超一流の雑談術」
「人は話し方が9割」
「雑談がおもしろい人、つまらない人」
「話下手のための雑談力」
「“内向型”のための雑談術」
「会話のきっかけレシピ」
「話し方ひとつでキミは変わる」
 
ビジネス書から、心理学、エッセイに至るまで、
本屋の片っ端から片っ端まで、
「雑談」「会話」「スピーチ」「コミュニケーション」
という言葉を見つける度に、本を買い集めた。
 
それにしても、何と話に関する本が多いのだろう。
 
即興で会話を繋いでいくよりも、
相手の話を聞いて、慎重に言葉を選ぶタイプの自分には、
ハードルの高い内容もあった。
「やはり会話はセンスでしかない」
「当たり前のことが当たり前にできない自分は、なんともどかしいことか」
そんなあきらめと葛藤も時に抱きながら、ただ自分にできる「雑談」の在り方を知りたくて、
本を読み続けた。
 
「雑談」への苦手意識が劇的に消えるような決定打には、なかなか巡り合えなかったが、
ある日、ついに一冊の本の言葉が目に留まった。
 
「会話は相手との共同作業」
相手を会話で楽しませることに苦手意識のあった自分にとって、
初めて見方が変わった瞬間だった。
 
自分が話したいことではなく、お互いにどんな人かを理解し合うこと。
内容を深く考えなくても、会話は続いていく。
「お互いを理解するための作業なのか……」
少し気が楽になった。
 
翌日、少し冷や汗をかきながらも、同僚に声を掛けてみた。
「昨日食べていたお菓子、時々見かけますけれど、好きなんですか」
「そうなんだよね。実はチョコレートが好きでね」
 
「……なーんだ。そんなことでいいんだ」
「大したことないんだな」
 
大したことないけれど、大きな一歩だった。
その後、複数名での「雑談」にも、少し入れるようになった。
入りたくなければ、入らなくてもいい。
でも、ちょっとしたことから、一緒に参加してもいい。
それが、昨日食べたラーメンの話でも、
前々からちょっぴり聞いてみたかったプライベートの話でも、
机の上に置いてあるお菓子のことでも、
今日職場で見聞きした、ちょっとした人のしぐさや言葉でも。
 
「何か話してみようかな」
「聞いてみようかな」
というちょっとしたジャブさえあれば、会話の扉は開いていく。
 
相手の表情を引き出せなくてもいい。
ただ、自分も相手も共に同じものを思い浮かべ、
ラリーを続ければいいのだから。
 
まだまだ、会話を楽しむよりも様子見だ。
流暢に「雑談」を使いこなす人を見て、すごいなぁと思うこともある。
でも、昨日話せなかった人と、少しずつラリーを続けていけたらいい。
そして、ラリーがちょっとだけ失敗してもいい。
それが「雑談」というものだから。
 
「雑談」のラリーは、今日も何気ない所にある。
「雑談」が苦手な自分から、少し卒業できそうだ
さて、今日は誰と話そうか。
天狼院のゼミと、日常から導き出した私の答えだ。
 
 
 
 
***

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2020-12-30 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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