メディアグランプリ

“酒粕タイカレーうどん”をすすりながら、異国の家族を想う。

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記事:古山裕基(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「辛さが恋しい」
そして、
「一人で食べる食事は、さびしい」
日本に帰国して1年が経つが、食事のたびにいつも思う。
とくに、タイ人の妻の実家で食べるグリーンカレーの辛さが恋しかった。その妻は、ちょっとしたタイミングのずれでタイから日本への空路が閉ざされてしまい、日本に来ることができなくなってしまった。わたしは、ひとりで日本に過ごすことになった。
 
タイに20年近く住んでいたわたしにとって、グリーンカレーはありふれたオカズだった。
少なくとも、コロナで日本に帰国する前までは。妻の家族がつくる料理は辛い。グリーンカレーもそうだ。そんな料理を、家族みんなで食べていた。
 
そんな自分が、帰国してからは、辛さを求めて、グリーンカレーを作るようになった。
今では、幾つかのタイ料理が日本の家庭でも食べることができ、グリーンカレーもそのうちのひとつだ。YouTubeには、レシピが紹介され、また、スーパーにはレトルトや缶詰まである。また、グリーンカレーのルーも、多くのスーパーで売られるようになった。なかでも、レストランなどに使用する食品を扱うスーパーでは、タイから直輸入したルーが売られている。
 
わたしも、そのルーを使い、グリーンカレーを作る。しかしながら、何かが足りないのだ。それは、味そのものではない。それは、“タイの暑さのなか、汗をかきながら食べる”ことである。これは、日本では用意できない。わたしのグリーンカレー作りの情熱も冷めたように思えた。
 
しかし、偶然の出来事により、それが変わった。
ある日、いつものように満足できる味が出ないまま放置したグリーンカレー、さすがに捨てることはできないので、その日に作った粕汁とともに食べることにした。交互に食べている時に、いつの間にか口の中で、二つの味が重なるようになった。続けて食べても、違和感なく食べることができた。そこで、思い切って、ご飯の上に両方をかけてみた。混じり合った状態を食べても、疑いなく、おいしい。それは、12月の寒さの厳しい日だった。
 
大晦日、料理持参の食事会をした。「タイ料理を作って」と、皆からわたしにリクエストがあった。トムヤムクン、タイ風焼きそば、などを考えていたわたしに、あのときのグリーンカレーと粕汁の合わさった味を思い出した。そうだ! 酒粕グリーンカレーを作ろう!
よく考えると、年越しなので、「そば」。しかし、そばの色は、グリーンにはあわない。それでは、うどんの白ならどうだ? わたしは、思い出したのだ、タイでは同じ白でも、“そうめん”にグリーンカレーをかけて食べることを。
 
わたしが、はじめてグリーンカレーそうめんを食べたのは、葬式の振る舞いだった。
カノムチンと呼ばれるそうめんは、米粉でできており、生麺の状態で売られている。
葬式などの行事で、大勢に手早く提供するには、お米を炊くより、このカノムチンを用意したほうが便利なのだ。
 
さっそく、「年越し酒粕グリーンカレーうどん」として、皆に振る舞うことになった。うどんは、評判の製麺屋さんから買った。作るのは、簡単、要は粕汁とグリーンカレーを作り、混ぜれば良いのだ。味見をしてみると、あの時と同じで、やはりおいしい。
 
しかし、でてきたものを見て、皆は、目を丸くしていた。タイ料理、そして酒粕とうどんの組み合わせに。たぶん、和と洋の折衷料理はあっても、タイと和の折衷はないからだ。「よく考えたら、カレーうどんといっしょやな」と一人が呟いたのをきっかけに、食べ始めた。タイ人向けの辛さがでていないことが良かったらしく、ピリ辛に酒粕の甘さ、そして出汁の味がよくあったようだ。タイで食べたグリーンカレーは、辛さで汗がダラダラだったが、この酒粕グリーンカレーうどんを食べると、ホッカホッカで、帰りの寒空の夜道にちょうど良かった。その時、なぜか、妻や家族と会いたいなとつくづく思った。
 
食べ物は、時代・国そして家族によって食べ方や調理方法が変わっていく。例えば、中国から平安時代に伝来したと思われる「味噌」は、当初は舐めるだけのものであった。それを、わざわざ水に溶かして「味噌汁」として食べるなんて、誰が思いついたのだろう? そして、今では、その味噌汁は、家庭ごとに味が異なるメニューの一つだ。その家族にまつわる想いが込められているのだろう。そんなことを思うと、食べることが楽しくなった。
 
和とタイが折衷したこのカレーを、タイの家族に食べてもらおうと思う。その日が来るのが待ち遠しい。
 
たぶん、今、同じように異国の家族を思いながら過ごす人たちがいるかもしれない。そんな人たちにも、おいしいものにめぐり逢えると良いなと思う。
 
 
 
 

***
 
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2021-03-05 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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