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【許すこと、許されること】


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:人生相談YouTuber 和泉あんころ(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
幼稚園の給食での出来事。
 
好き嫌いが激しかった私。どうしても食べられそうにない、黒い佃煮? のようなメニューが出されたことがあった。口に入れることさえ憚られたため
 
そうだ、食べたフリをしよう!
 
名案と本気で思った5才児は、周りの子が見ていない隙に、口に持っていく箸から少しずつそのおかずを床に落としていった。
 
が、すぐにバレた。
 
「すごいこぼれてる!」「誰がやったの?」「僕は全部食べたよ?」「私も」「僕も」
 
大胆な作戦に出る割には小心者の私。「私も食べたよ」との嘘が付けず、俯くばかり。
 
「何も言えないの?」「犯人はいずみちゃんだ」
 
自分でした事とはいえ、泣き出しそうになる。いや、泣いたら終わりだ、認めた事になってしまう。必死で耐えた。
 
「それ以上、言わなくていいの!」
弾糾し続ける子供たちを前に、幼稚園の先生だけは庇ってくれた。
 
「悪いのはいずみちゃんなのに」「ウチらちゃんと食べたのにね」
先生は何も言わず、私が散らかしたおかずを片付けてくれた。
 
先生はそれ以上、私に何も聞かなかったし、責めなかった。
 
叱責されることよりも許された経験は、実のところ、かなり効いた。
以来、嫌いなものが給食に出ても我慢して食べるようになった。
 
20年後……。時は経ち、私は高校の教壇に立っていた。
 
担任にも慣れた頃、ある男子生徒が事件を起こした。退学は免れても停学処分は確実。先生たちが集まり、今後の対応について協議が行われた。
 
「このような場合、○○処分が通例ですよ」「二度と繰り返さないよう、厳しい罰を下すべき」
先生たちは満場一致の空気を醸し出す。
 
「担任は、どう思われますか?」
問われ、私は上手く話せるか自信がないまま、本音を伝えた。
 
幼稚園の体験を思い出しながら。
 
「悪いことをしたから罰を与える、という方法を……私は取りたくないです」
 
せっかくまとまりそうだった矢先の発言に、周囲からは冷たい視線を感じた。
 
「彼は確かに悪い事をしました。 叱り、罰を与えれば、一時は大人しくなると思います。 でも根本的には何も解決しないような気がするんです」
 
反省文を課題に出せば、きっと書いてくる。心から思ってなくても文章は書ける。国語教師の私にとって、反省文の効力には懐疑的だった。ある時、先輩の先生に尋ねてみたところ、「書くのが面倒だから同じ事をするのは辞めようって思う可能性はある」との返答だった。正直、モヤモヤした。
 
「悪いことをしたら、お前たちもこうなるぞ! っていう見せしめに思えて腑に落ちません」
目を伏せたまま、私は話を続ける。それに対して、「見せしめのためだよ」と言い切る先生もいた。ルールを破ったら処分されるという事実が、学校の秩序を保つのに必要な抑止力なのだと。
 
私が正しいとは思わない。生徒に甘い自覚もある。よほど目に余らなければ注意はしないし、自ら気付いてほしい。高校生であれば、そのチカラがあると信じている。
 
「これが、校外や家庭で起きたことであればまた考え方は変わるかもしれませんが、校内で起きた事なんです。 わたしたち教師側にも責任があるといえるのではないでしょうか?」
 
新人の私がベテランの先生たちを前に、拙い言葉で気持ちを紡ぎ出す。
「普段から伝えているつもりが、生徒に伝わっていなかった、つまり、担任の……私の力不足とも言えます」
 
協議は平行線のまま、深夜にまで及んだ。
 
最終的に「これからも引き続きかかわるのは担任だから」という校長の鶴の一声により、他の意見を抑えて私一人の意見が採用された。
 
「信じられない、甘やかし過ぎ」「担任は新人やからともかく、管理職の判断としてどうなのか」「許したところで人は変わらない、すぐに元に戻る」会議後にも、聞こえるように言われ続けた。
 
「君の言いたい事もわからなくないけれど……」 わたしをフォローしつつも、今まで信じてきた教育観と違い過ぎて受け入れ難いと声を掛けてくれた先生もいた。
 
翌日、厳しい処分を言い渡されると覚悟していた生徒は、教頭から
「担任が他の先生に土下座してまでお前を許すよう、頼んでくれたのやぞ! 俺なら絶対に許さん! 担任に感謝しなさい!」
と大袈裟に告げられた。彼は涙を流して泣いていたそうだ。
 
わたしは土下座をした記憶もないし、生徒の泣き顔も直接は見ていないのだが……。
 
それから数週間は、しょんぼり生活していた彼だが、数ヶ月後にまた別の問題を起こし、私はまた手を焼く事になる。
「あの時、甘やかしたから」「私達は反対したのに」と散々言われた。けれど、私は過去に……あの協議の夜に戻れたとしても、きっと同じ選択をするだろう。
 
その後、私は度重なる問題への対処や過労によるノイローゼから、仕事を休職し、最終的には学校を退職せざるを得なくなった。
 
彼はといえば、私が休職している間に学校を辞めてしまったらしい。
 
今、どこで何をしているんだろう? と考える月日も立たないうちに、彼の方からSNSで私を見つけて連絡してきた。とても軽いノリで……!
 
「せんせー、お久しぶりっす!」
「わたしもう辞めたから先生やないよ」
「俺も学校、辞めました! 若気の至りで、せんせーに迷惑たくさん掛けてスミマセンでした。 せんせーに叱られたことは今となってはいい思い出です!!」
 
えー、いい思い出って……当時の私はあんなに頭を悩ませたのに(笑)もう先生は辞めたし、私も本音言ってもいっか!
 
「あなたにとってはいい思い出かもしれないけどさ、私は仕事を失ってるんやて! マジで謝って!!笑」
 
鬱病は、色んな要因が絡み合っていて決して彼のせいだけではないのだが、とりあえず一言くらい文句が言いたかった。
 
「いやー、ホントごめんなさいってば」
 
彼は何のために連絡してきたのか? 偶然SNSで見つけて懐かしくなったから? ただの気マグレ?
 
「せんせー、俺、学校を辞めたのが良かったのか今はわからないです。
けど、せんせー、俺あれ以来●●だけはしてないんすよ」
 
そっか。彼はこのことを私に伝えるために連絡をよこしたのか。
私が●●した彼を許した事が正しいのかは未だにわからない。けれど、彼も私と同じ様に許されたことで色々と考えたに違いない。
 
あの場では、緊張で手も唇も震えて上手く言えなかった事がある。
 
私が許したのは、優しさや甘さからではない。叱責や罰で一時的に行動は抑えられても、彼は罰を下した学校や先生に憎しみや恨みを抱くかもしれない。
 
憎しみや恨みからは何も生まれない。
 
何かを変えたり、生み出せたりするならば、それは『寄り添い』や『共感』からではないか。
 
明らかに悪い事をした自分を許してもらえた経験があるか否かで、その人の人生は大きく変わってしまうのではないか。わたしは、そんな気がしてならない。
 
きっと、私はそれを彼に伝えたかったのだと思う。
 
 
 
 
***
 
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2021-04-29 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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