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私の心はバラ色


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記事:H.AKEMI(ライティング・ゼミ集中コース)
 
 
5月になると、我が家のバラが美しく咲き始める。このバラたちは、この家で3度目の初夏を迎える。
ピンク色を中心に選んだ我が家の3鉢のバラは、この3年間、美しく咲き、甘い匂いを放ってくれている。この時期になると、私は、毎朝、太陽が昇り始めるのと同じくらいの時刻に水をやり、「綺麗に咲いてね」と自然に声をかけていることが多い。健気に咲く花やつぼみを見ていると、ついつい声をかけて応援したくなってしまうのだ。そして、咲いている花を手に取り匂いを嗅ぐ。柔らかなピンク色の花の甘い匂いを嗅ぐだけで、幸せ一杯な気持ちになって、私の心はバラ色になるのだ。
 
雨上がりのバラは、特に美しい。花や葉に勢いがあり、雨の滴が付いたバラの凜とした姿が、言葉にならないくらい美しい。私は、晴天の下で輝くバラも好きだが、雨に濡れても輝き続けるこんな凜としたバラが大好きだ。
 
バラを育てるようになったのは、子育てが一段落した3年程前からだ。
二人の子どもたちは、知らないうちに大人になってしまったような気がする。フルタイムの仕事をしながらの子育ては「あっという間」であり、「もっと、大事に子育てをしておけばよかったな」と、今更ながら後悔ばかりである。手の込んだ料理を息子に食べさせたかった、お菓子作りを娘としておけばよかったと心から思う。
 
ある日、大学の4年生だった娘が「お母さん、友だちの家に遊びに行ったら、友だちが小さいときのビデオを観せてくれたんだ。うちには私の小さいときのビデオってあるの?」と聞いてきた。私の心は「きゅん」とどうしようもなく痛くなった。一応ビデオはあるものの、整理ができていない。ビデオだけでなく写真もそうだ。だから、すぐに見せられる訳がない。
「あるに決まってるよ」とわざと明るい声を出し、平静を装った。娘の目を見ないように、予想される次の言葉「見せて」が出ないように、まだ早い夕食の準備を、不自然さ全開で始めようとソファーを立った。
 
落ち着いたら整理しようと思って、早24年も過ぎてしまっていた。約20年前、写真はスマホではなく、カメラで撮って現像に出すのが普通だった。24枚の現像された写真は、束になって袋に入れられ戻ってきた。そのとき、すぐにアルバムに貼っておけば整理はできた。でも、私はしなかったというより、できなかった。そして、ビデオもケースに入れて、「○○ちゃんの運動会!!」と書いておけば良い母になれていたのに……。残念なことに、まだ、写真は袋の中で、ビデオは「○○ちゃんの運動会!!」と書かれていないまま、棚に入っている。本当に、「雑な母親でごめん」としか言いようがない。
そんな私の深い反省を知らない娘は、私の「あるに決まってるよ」の言葉に対して、本当にあるのか、とでも言いたいような疑いの目を向け「見せて」と言った。その後の私たち二人のやりとりは、ご想像にお任せする。
 
子どもたちが小さいときは、仕事と家事に追われ、明日、明後日に着る体操服や制服の洗濯をするのが精一杯だった。宿題は子どもたちの祖母が責任をもって見てくれていたし、夕ご飯も食べさせてもらっていたから助かっていた。祖父母の家に迎えに行き、家に帰って来ると21時を過ぎることもあった。すぐにお風呂に入らせ、お布団に寝かせるという毎日だった。それでも、子どもたちは、わずかな時間にいつもニコニコと学校のことを話してくれ、元気に学校へ行き、素直にすくすくと育ってくれた。家庭に不満なく、安心して仕事をさせてくれ、私をバラのように凜とした社会人であり続けさせてくれた子どもたちに感謝しかない。
 
子どもたちは、今、それぞれに自立を始めた。二人の年齢差は、5歳。
隣の街に住み、その街の市役所に勤めている息子は、2年間復興支援の派遣で岩手県に出向し、昨年の3月に戻ってきた。下の娘は、大学の研究生として大学に残った。
おとなしい息子。元気で社交的な娘。きっと娘の方が早く結婚するだろうと思っていたのだが、何と息子が、岩手からお嫁さんになる人を連れて帰って来たから驚いてしまった。東北美人で、優しい娘さんで、何といっても息子が見初めた娘さんを気に入らないわけがない。私も主人も、そしてお姉さんができた娘も大喜びで、二人の結婚を祝った。
 
7月に、私はおばあちゃんになる。
 
お嫁さんの実家が遠いので、孫が生まれてからは、しばらく、うちでお嫁さんの産後のお世話をする。つまり、赤ちゃんもうちにやってくるのだ。
私は、今までと同じようにバラを育てる。そして、赤ちゃんを大切に育てる。ひょとしたら、子どもたち以上に手をかけて育てるだろう。そうそう、ビデオも写真も、早めに整理していくことにしよう。
 
私は、毎朝、赤ちゃんが目を覚ましたら、「大きく元気に育ってね」と声をかけるだろう。健気に泣き、笑う赤ちゃんを見ていると、ついつい声をかけて応援したくなってしまうだろう。そして、赤ちゃんを抱きしめ、身体の匂いを嗅ぎ、柔らかなピンク色の頬に触れ、甘い匂いを嗅ぐだけで、幸せ一杯な気持ちになって、私の心はバラ色になるにちがいない。
 
 
 
 
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2021-05-04 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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